【最強】の探索
眠たいです……
俺はアーサーとマーネさんと別れ、真っ直ぐ【国会議事堂】に向かった……訳では無かった。
もちろん最初は向かおうとしたが、ポーション類の補充とインベントリの整理をするのを忘れていた為、一旦自分のホームに戻った。
【最強】なんて過分な呼ばれ方をしているが、俺に自信があるのは一対一の話であって、複数人や、パーティーvsパーティーの戦いだと負ける事もある。
……って、こんな話じゃなくて、まあそれなりに有名な俺はホームを買うお金くらいはあるって事だ。
『本拠地鍵』というアイテムがある。これはホームを購入、レンタルすると買えるもので、一つにつき料金10万Lを払えば新しい鍵が貰える。
この『鍵』の効果は、各街の安全地帯からホームに移動できるというものだ。
もちろん鍵としての機能もある。形状は金属型かカード型か選べる。俺はカード型だ。
俺のマイホームは【ジパング】という国の中の【エゾ】というエリアの【サホロ】という街にある。
ちなみに世界中に全部で五つのホームがあるが、また今度にしよう。
俺は現実では北海道の札幌市に住んでいる。現実の家の場所と近い場所の一軒家を、メインホームとして使っている。
このゲーム、『アトランティス・オンライン』は広さは地球と変わらないぐらいだが、中身は現実とは全然違う。
【エド】の様に近代化しているところもあれば、中世の様な文化レベルの所もある。
【ジパング】は世界的に見ると、全体的に近代化している国だ。【サホロ】は都会的でありながら、田舎的でもある。俺が持ってるホームの場所は田舎寄りだ。
ホームに入り、ホームの中のアイテムボックスから、『万能快癒霊薬』を保有限界の三つになる様に一つ取り出す。他には『テラHPポーション』『テラMPポーション』を取り出す。
ちなみに『万能快癒霊薬』は一つで200万Lする。
その効果は『状態異常・体力完全回復』だ。
ちなみに、『体力・魔力・状態異常完全回復』というのが存在するとか、しないとか……
『テラ○○ポーション』は現状の最高級のポーション類だ。
種類は『○○ポーション』<『メガ○○ポーション』<『ギガ○○ポーション』<『テラ○○ポーション」の順だ。
インベントリからアイテムボックスに、一昨日野良レイドパーティーに混ざり、狩ったレイドボスモンスター『閃光竜シャンドラ』の素材などを仕舞い、インベントリに余裕を持たせる。
「よし!行くか!」
そう呟くと、首にぶら下げてる蒼碧の結晶が冷気を発した。
「お前は今日はお休みだっての……」
そう言うと、更に冷気を発し、肌が冷たくなっていき……
「分かったって!帰ってきたらどこか行くから!」
そう言い聞かせると、段々と冷気は収まっていった。
「はぁ……じゃあ今度こそ行きますか」
紅葉は【サホロ】の【都市間転移駅】に向かう。
各国を移動するには、首都のみに存在する【国家間転移駅】
各都市を移動するには、エリアの最も栄えている都市に存在する【都市間転移駅】
各街を移動するには、街に必ず存在する【街間転移駅】
『アルカディア・オンライン』は広大過ぎる世界な為、歩いて移動など出来たもんではない。中には歩いて回る物好きもいるが……
紅葉は【サホロ】の【都市間転移駅】から【エド】に転移する。
再び来た【エド】だが、今度こそ【国会議事堂】に向かって歩く。
【国会議事堂】は世界に存在する中でも、最高難易度のダンジョンとして知られている。ただし、他の最高難易度のダンジョンとは少し違う。それは、『ソロ限定』のダンジョンという事だ。
ダンジョンは中が異空間となっている為、外見とは比べならない程広い空間が広がっている。
【国会議事堂】は上へ上へと、進んで行くダンジョンだ。全707階層という、世界的にも最大級のダンジョンである。
ただ、到達済み階層の10階層前から次回は挑戦できる様になっている。
紅葉の現在の最高到達階層は、450階層である。挑み始めたのは一年前だが、気分でふらりと挑みちょっとずつ進めたり、一気に進めたりなどペース的にはゆったりである。
それでも【国会議事堂】の最高到達者でもある。他のプレイヤーは普通パーティーで挑むので、ここには腕試しとしてしか来ない。
今回は少しだけ進むつもりだ。本当はどかっと進もうとしてたのだが、あるプレイヤーに会いにいったり、相棒が構えとうるさいので、予定変更になった。
【国会議事堂】の中に入り、透明の中で粒子が渦巻いている水晶玉に触れて、言う。
「転移『440階層』」
一瞬で目の前の景色が変わる。
周りは水晶が煌めく広い洞窟。前回既に来たことがある階層だが、何度来ても見惚れてしまう景色だ。つい何枚もスクショを撮ってしまう。
写真撮影に気を取られていると、《攻撃予測》に反応があった。咄嗟に横に避け、背後を振り返ると、そこには『クリスタルゴレーム Lv220』がそこに居た。
「ゴーレム種か……まあ行けるはずだったよな」
腰から愛刀『天之尾羽張』を抜き出し、唱える。
「『我が斬撃に斬れぬもの無し』〈一閃〉」
一瞬でクリスタルゴレームに肉薄し、袈裟斬りを行う。
すると、クリスタルゴレームは斜めにずり落ち、光のエフェクトを放ち消える。
紅葉は流れる様な動作で納刀し、ドロップアイテムを拾う。
「『煌輝水晶』か……これは初ドロップだな。あの人の所に持ってくか」
ドロップアイテムをインベントリに仕舞い、上階に向けて歩き出す。
その後もクリスタル系モンスターが続々と戦闘になるが、一撃で仕留めていく。前回は戦闘にならない様に移動してたからなぁ……
そうして前回の到達階層である、450階層に到達する。
ダンジョンは基本、10階層ごとや50階層ごとにボスモンスターが出現する。前回は『クリスタルドラゴン』だったが、偶に『レアボス』と言われるボスモンスターが出現する可能性がある。
普通のボスモンスターより強く、レアな素材を落とすのが『レアボス』だ。
「んで、今回は大丈夫だよね……?」
紅葉が慎重に重厚な雰囲気の門を開けると、そこには以前倒したのと同様の『クリスタルドラゴン Lv230』が其処にはいた。
「さて……前回は弱点が分からず時間が掛かったが、今回は五分で終わらすぞー」
紅葉は本気の自己強化スキルやアーツを発動させ、次の瞬間にはクリスタルドラゴンの尻尾の近くにいた。
「改めて近くで見ると、綺麗な身体してるなぁ。まあ斬るけど。〈廻斬〉」
一瞬で同じ所を複数回斬り刻むアーツを発動させ、尻尾を斬り落とす。
「GYAOOOOOON!?!?」
悲痛な悲鳴を上げるクリスタルドラゴン。紅葉は気にせず直ぐに左右の翼を斬り刻む。
翼がボロボロになると、一旦離れ両腕で顔をガードする。
クリスタルドラゴンが、衝撃を伴う咆哮を放つ。脚に力を入れ後ろに吹き飛ばされながらも持ち堪え、体力を確認すると、5割を切っていた。
「咆哮一発でガードしても5割とかふざけてんだろ!前は8割削られたけど……」
愚痴を言いながら、ポーションをノーモーションで使用できるアクセサリーを使い回復し、今度は頭に付いている角を斬り落としにかかる。
噛みつき、引っ掻き、ブレスを躱しながら同じ所を何度も斬撃を繰り出していく。
そうして、5度目で漸く斬ることに成功した。すると、怯んだので決めにかかる。
「これで最後だ……!!」
紅葉は真横に移動し、上段に構える。
「『我が斬撃に斬れぬもの無し』〈星落〉」
一気に振り落とし、クリスタルドラゴンの首は胴と離れた。
紅葉そのまま、大量のドロップアイテムを拾う。
「……なんか今日疲れたな。更新してないけど帰るか、アイツの相手もしないといけないしな」
次の階層に行く為に触れる必要がある水晶玉に触れ、言う。
「転移『入り口』」
一瞬で目の前の景色が変化する。
【国会議事堂】から出て、いつも武器でお世話になっている所に向かう。
その人は【エド】の一等地とも呼べる場所に店を構えている。作られた武器は何千万Lという高値で販売され、名前は世界的にも有名だ。
『マサムネブランド』という、どストレートな名前の店の店頭にはショーケースがあり、その中にはハンドメイドの武器が飾られ、入店するには紹介が無いと入れない。
俺は躊躇なく入り、接客担当のセリカさんというNPCに声を掛ける。
「すいませーん、マサムネさんいますか?」
セリカさんはこちらを見た後、笑顔で少し待つように言い、店の奥に向かっていった。店の中のショーケースの中の武器を見て回る。
そこには刀やロングソード、短剣などは勿論、ハルバードなんていう珍しい武器もある。その値段は……
「相変わらず良い値段するなぁ〜、さすがマサムネブランド」
「その値段を見て、良い値段で済ますお前は相変わらずおかしいけどな」
声がする方向に振り向くと、そこには四十代くらいの渋カッコいいおじさんが立っていた。
「おう、今日はどうした?」
「【国会議事堂】で初ドロップした鉱石があってな。どうする、買うか?」
挑発的な笑みを浮かべて、先程ドロップした『煌輝水晶』をインベントリから取り出し、投げ渡す。
それを受け取ったマサムネの表情は面白かった。目を見開き、《鉱石鑑定》の結果を見たのか、口を開いたままこちらに向かってきた。
「何個だ……何個持ってる?」
「お、落ち着けよ……全部で4個だ。どうもレアドロップみたいでな。100体くらい倒して4個だけだった」
「そうか、なら4個で2000万Lでどうだ?1個500万Lだ」
「おっ!結構奮発したな、まあお前には大した額じゃないかもしれないけど」
マサムネとは敬語を使わない程の仲だ。同じ初日組で、俺が素材を取り、マサムネがそれを使い武器を作る。そうしてお互いこの地位まで上り詰めた。
マサムネは超一流の生産職のため、稼ぐ額が戦闘職とは桁が違う。
「うるせぇ、で?どうなんだ?」
「あぁ、いいぞ。元々そのつもりだったしな。まあ値段が気に入らなかったら『オークション』にかけてたけどな」
「っち……相変わらずなヤツだな。オマケで教えてやるよ、この水晶は現状作れる武器の中でも最高レベルの耐久力と、最高よりは一歩劣るが、それでも十分な攻撃力を兼ね備えた武器が作れる。売ったら……最低うん千万、もしかしたら億行くかも知れねぇな」
へぇ……マサムネが言うんだったら、それだけの価値はあるんだろうな。
だが俺にはまだ秘密の材料がある。それも2体分も。
「じゃあ『トレード』するか」
俺は4個の『煌輝水晶』を選択して、マサムネは2000万Lを入力する。
「じゃあまた何かあったら、連絡するか来るわ」
「おう、お前には期待してるからな!」
マサムネの店『マサムネブランド』でつい長時間居てしまい、店から出て空を見ると、真っ赤な夕焼けが目に入ってきた。
「あー……やっべ、そろそろ落ちないといけないんだよなぁ。でも、アイツの相手してないし……
はぁ……明日一日いっぱい遊んでやるかぁ」
ログアウトしようとして、ふと思い出してフレンド欄を見て見た。
数多くのフレンドが並んでるのを、新登録順に変え先頭を見てみると、
アーサー :ログイン
「おっ、まだ頑張ってんのか。えっと、『無理すんなよ』っと。じゃあ落ちますか」
紅葉にとって、久し振りに心の底から楽しいと感じた一日だった。
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