最強の実力
出来るだけ毎日続けたい……
アーサーはあたふたしてパニックになっているため、紅葉が代わりに話し始める。
「初めまして……マーネさん?俺の名前は紅葉です。そっちのアーサーとは、他のVRゲームで一緒に遊んでたから知り合いなんだ」
俺がそう言うとマーネは納得した様な信じられない様な表情をしていた。
すると、何か思い出したかの様にバッと顔を上げた。
「え、えと、わたしはマーネです。紅葉さんの戦闘動画みて凄いと思ってました!会えて感激です!」
マーネはスーパースターに会ったの様な反応を見せる。
『アトランティス・オンライン』は全世界で人気のVRMMO。そのプレイ人数は驚異の5000万人、話を聞いたことある人は億は超えるだろう。
そんなゲームの中で五本の指に入るほど有名なプレイヤーが目の前にいるのだ。スーパースターといっても過言ではないだろう。
「あはは、そんな凄くないから普段通りの口調で良いよ?ねっ、アーサー?」
俺は今楽しそうな笑みを浮かべている。その対象となっているアーサーは、一瞬何故こっちに振った!?と言う顔をしてから慌てた様子で答えた。面白い顔の変化だった事をここに記す。
「う、うん。紅葉はキニシナイトオモウヨ?」
「お前は何でそこでカタコトになるんだよ……取り敢えずここは人気が多いから移動しようか。そうだなぁ……奥の演習場にでも行ってみようか」
先ほどより大きめの声で喋る。すると、周りのギャラリーと化したプレイヤー達がわっと盛り上がる。
「あっ、そうだ忘れるところだった。アーサーとマーナさん良かったらフレンド登録しない?」
俺がそう言うとマーネさんは輝かんばかりの表情で何度も頷いた。アーサーの方は慣れてない様子で操作していた。
「もしかしてフレンド第一号だった?」
茶化し気味に聞いてみると、アーサーは下を向いたままコクコクと頷いた。なんで下向いたまま?
そんな疑問は持ちながら、会いに来た目的を達成することにしよう。
「アーサー、今から俺はここの最高レベルのNPCと戦ってやる。お前が俺に追いつくと言うんだから、分かりやすく見せてやるよ。『刀剣』の時とは比べ物にならないぞ?」
俺がそう言い放ち演習場に進んでいく。奥から出て来たのは『スメラギ筆頭教官 Lv150』
「150!?」
アーサーが驚いた表情を見せるが……まだ早い。
「アーサーしっかり見とけよ……これがお前の目指す世界だ」
戦いが始まる。スメラギ筆頭教官は両手にロングソードを持っていて、此方に向かって駆け出す。
だが次の瞬間には俺はスメラギ筆頭教官の背後に移動している。そのままキンッと刀を仕舞う音がなると、スメラギ筆頭教官は倒れた。
辺りがシーンっとなる。その後わぁっと歓声が上がる。
うわぁ……こういうのいつまで経っても慣れないな。
「アーサー、何かあったらフレンドでも現実でも良いから連絡しろよ。しばらくは『刀剣』はやめて、こっち一本に絞るから」
そう言って俺は【武道館】を出て、攻略途中の最高難易度ダンジョン【国会議事堂】に向かって歩き出す。
「あ、顔見せるの忘れてた……まあ、次会った時でいっか。顔バレしたらリアル大変そうだなぁ……」
●
紅葉が演習場の最強NPCを文字通り瞬殺したのを見て、僕はまだその場を動けないでいた。
周りは興奮した様子で、動画を撮った人はそれを掲示板にアップするのだと言う。
「……」
遠い。紅葉のところまでは先が見えないほど遠い。どれだけ離れているのかさえわからない。
先ほどの戦い……いや、戦いですらない。紅葉にとっては遊戯も同然なのだろう。その遊戯で分かったことは、足が光っていたので移動系スキルを使ったのではないかと言うことだけ。
「ふふふっ」
あんな人外のようなプレイヤーに追いつく。もっとマシな嘘の方が信じられるだろう。だが僕はやる、やって見せる。いつか、紅葉と肩を並べて戦える時まで。
「マーネ、どうすれば早く強くなるか教えて……マーネ?」
返事がないので隣を見てみると、そこには目を細め此方を見てくるマーネがいた。
「アーサー?これまで誘ったに何でこなかったのか、今までどんなVRゲームしてたか、洗いざらい吐いてもらうわよ」
「ひゃ、ひゃいっ!」
【最強】までの道は遥か遠いようだ……
その後マーネの案内でマーネ、ツキネ、フィーリア、コロンなどのリアルの知り合いで結成されたギルドの建物、ギルドハウスに向かった。
……その道なりで根掘り葉掘り聞かれた。
「えっ!?アーサーはあの紅葉とフレンドになっただけじゃなく、現実でも連絡先を交換してるって!?」
そう叫んだのはツキネだ。その後ろで何やらフィーリアがコロンに「ヤバイよ……超強力なライバル登場だよ」とか言ってる。ライバル?
ツキネは短剣の二刀流使いの【忍】というジョブらしい。
フィーリアは《付与魔法》で支援を行う【付与術師】
コロンは弓で魔法を扱う【魔弓術師】
マーネは魔法を専門に扱う【魔導士】というジョブらしい。
ジョブは【下位職業】【上位職業】【最上位職業】そして【ユニークジョブ】に分かれる。
メインジョブを一つ、サブジョブを二つ選択できる。
「……って事だけど理解出来た?」
一通りツキネにみんなのことを教えてもらった。今のギルド【自由な風】の目標は『レイドボスモンスター』の討伐らしい。
レイドボスモンスターはレイドと呼ばれる五人パーティーが六つ集まり、計三十人で挑むようなボスの事だ。
ちなみに、そんなレイドボスに紅葉はソロで勝っているというのだから負けてられない。
ところで……
「このギルドって、男子がコロン一人なんだね。クラスとか学年にもっといっぱい『アトランティス・オンライン』やってる人いたと思うけど……」
そう言うと、四人の顔が歪んだ。
「他の人はもっと強いギルドに入るか、わたし達のようなギルドを作って入るか、なんだけどうちは弱小だから入ってくれる人が少なくって……」
「え……じゃあさっき言ってたギルド目標の『レイドボスモンスター』討伐って……」
「ハッキリ言って今のままじゃ到底無理ね」
じゃあ何でそんな目標を?と聞こうとした時、コロンが教えてくれた。
「ギルド目標っていうのはね、毎週ギルドの戦力に合わせてランダムで出されるものなんだ。成功すると報酬として、ギルド設備が上昇したりお金が貰えたりする。先週は『レアエネミー討伐』ってやつで、報酬はギルドアイテムボックス拡張だったよ」
なるほど……つまりギルドに出されるウィークリークエストって事なのか。
「今回の報酬は何かわかっているの?」
「それがゲーム内通貨1000万Lなの」
「1000万!?そ、それは是非とも倒したいね……」
ちなみに初期のお金は1万Lだった。あっ、Lは通貨の単位のことで、屋台の串焼き一本200Lって感じだから、1L=1円と考えていいはず。
「じゃあ、僕……じゃなくて私がやる事は一つだけだね。強くなる事、って事でレベル上げの前にクエスト行ってくるね!」
「ちょ、ちょっと待って!いつの間にクエストなんて受けたの?」
「あの演習場でハザマ教官と戦った後だよ。だから、行ってみる!」
紅葉の戦闘を見てから、ジッとしているのが辛かった。一刻も早く強くなりたい。そう思い、つい【自由な風】のギルドハウスを飛び出し、【武道館】に向かった。
残された四人は唖然としながら、話し合う。
「コロン、学校で猛アピールしないとマズイね」
「えっ!?う、うん!頑張らなきゃね!」
「おぉ!あのヘタレなコロンがやる気を見せている!明日は雪ですな」
「ところで、演習場で認められてクエスト発生なんてあったのね」
『ギルドクエスト』の期限まであと、6日……
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