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一話

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 寝起きの良い私はパチリと目を覚ます。

 

 少し肌寒いのだろう、横で眠る木ノ葉はプルプルとしている。私は寒さに強いから平気だけど、南の餓狼の木ノ葉は寒さに弱いから辛そうだなぁ。

 そっと布団をかけ、柔らかな髪をなでると私は家を出て川へ向かう。

 バケツで川の水をすくい、家へ運ぶ。それを数十回繰り返し、家の庭にある大きなタンクに入れる。

 この森の川は山から流れた自然の恵み。とても澄んでいて綺麗でそのままでも飲める。タンクが一杯になったのを確認して蓋を占める。これで7日はもつ。日常的に使う水をこのタンクに保管すると、水道から水が出て、お風呂のお湯ができる。お湯は餓狼の秘術、熱のこもる魔石を作り水道の中の途中に細工され、お湯が出るようになっている。

 普通、魔石は自然にできるもので、地下を掘り見つかるものだが、餓狼はそれを作ることができる。これは人間に知られてはいない。一族の秘術なのだ。

 

 さてと、とまた川へ向かい浅いバケツに水を汲み顔を洗う。使い終わった水は溝に流す。溝に流された水はろ過され綺麗になり畑に巡る。

 

 カチャリと、扉の音がして振り返るとお父さんが眠そうにしていた。

 「鈴は早起きだなぁ」

 ポンポンと撫でられクルルと喉が鳴る。

 「お母さんは、また寝坊?」

 顔を洗うお父さんは変化を解きプルプルと毛を震わせていた。

 変化したほうが細かい作業ができるため大体、餓狼は変化している。

 『あぁ、丸くなって寝ていたよ。北の餓狼なのに寒いのが嫌だなんて、変わっている……寒さなんて分からないのにね』

 可笑しそうに笑いながら答えてくれた。

 白くてきれいな毛が日にあたりキラキラとしている。

 変化を解き獣の姿になると念話で話す事になる。

 

 変化をしていても念話は使えるけど、使うか使わないかは人それぞれ。人間は念話に魔力を使うらしい。念話は餓狼の固有魔法のようなもの。魔力は使わなくても誰でも使える。

 因みに、暗黙の了解で人間(・・)というワードを使ってはならない。絶滅の危機にまで追い詰めた人間を恨む餓狼が多いからだ。

 なので、前世を覚えている事は誰にも言ってない。

 だって前世は人間だったから。

 

 

 

 けれど、私は人間を恨んでいるわけではない。前世が人間だった事もある。けれど、人間が皆が皆そうではないと私は知っているからこそ恨んでいないのだ。

 人間に飼われて戦争に使わされた話は散々聞かされた。当時戦争へ向かった餓狼は人間との共存を目的だった。…それは餓狼の王の決断。

 人間の王は餓狼の力を手に入れようとして…餓狼の王は共存ができると信じて…

 餓狼は人間よりも素直で、仲間意識が強いため信じやすい性格をしている。その性格を利用して欲望に飲まれた人間の王は禁呪の奴隷の首輪を餓狼に使った。

 それでも、餓狼の王は信じた。けれど戦争が終わっても共存する未来がくることは無かった。人間の王は餓狼の子供にまで手を出そうとしたのだ。見た目麗しい餓狼の子供を愛玩用として…

 それに餓狼の王は激怒した。そしてその国を滅ぼした後ひっそりと森へ隠れた。その後餓狼の王は姿を消し…

 

 その事実は闇に葬られた。人間には餓狼の怒りを買い滅ぼされたとだけ伝えられている。

 

 

 それは公にはされていない。

 

 私は長老から借りた本をパラパラ見ながら昔の文献を読んでいた。

 

 自分の部屋の椅子に座りパラパラめくっていると起きる気配がする。

 日が上がり、暖かくなってきてベッドで眠っていた木ノ葉がのそりと起きてきていた。目を擦る木ノ葉に微笑み挨拶をする。

 「木ノ葉おはよう」

 「んぅ…鈴おはよう」

 ピコピコ耳を震わせる様子が愛らしい。

 

 本に視線を戻し読んでいると、視線を感じる。

 見ると木ノ葉がベッドの上から私を見つめていた。

 「……何?」

 ジィっと見つめていた木ノ葉はぷっくりとした赤い唇を動かし

 「鈴は可愛いね」

 そう言ってきた。

 「え……?」

 木ノ葉に言われても……お世辞にしか思えない。

 パチリとした大きな瞳に綺麗な空色の瞳、鼻もスラリとして、唇はぷっくりと赤い。黒髪もサラサラしているし………美少年だもん。

 

 「日の光が鈴にかかってとてもキラキラしてる…」

 「ふふ、有難う木ノ葉。」

 すると、良い香りがしてくる。

 「朝ゴハンみたい、木ノ葉顔洗っておいで」

 本をたたみ椅子に置くと階段を降りリビングへ向かった。

 

 

 「本当なのに……」

 しん…と静かにな部屋で木ノ葉はポツリと呟きベッドから降りた。

 

 


 

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