仮定の未来 離別
うろなに来ると堂島のお宅にお世話になる。
柊子姉様とミホちゃんも居て気楽。
ミホちゃんは相変わらず健さんLOVEだけど、兄さんの奥さんだ。事実婚じゃなくてさっさと入籍すればいいのに。
二人の間に子供はいない。
恭兄さんの行動範囲は広くて忙しい。日本に帰ってきて時間がある時は、ミホちゃんに集中して構う。
鎮さん、千秋さんとの時間は兄さんにとって仕事時間。
私との時間は?
「天音さん、最近は如何ですか?」
「つつがなく」
「そうですか。奥様とは?」
話題を振られて困ってしまう。
「先日、機嫌を損ねてしまって、そこからお目にかかっていません」
旦那様は大切にしてくださるとはいえ、本妻である奥様を蔑ろにする傾向はよろしくなくて、そのバランスを欠ければ兄さんに注意を受けるのは当然だろう。
だから、少し距離を置いて会っていない。
美緒梨さんにも会えなくなるのはさびしいけど、連れてくるわけにはいかないから。
兄さんが私に対応してくるのは家族としてというより、仕事の一環みたい。
少し、心が揺らぐ時もある。
「機嫌を損ねるようなことを?」
息を吐く。
「先日、二月目と先生が」
「娘が続くのなら手もとに置くことを認められるかもしれませんね」
兄さんとしても思っていないであろう言葉。
「満翔様は心配しないようにとおっしゃって、手配してくださるとのことです」
旦那様は美緒梨さんをとてもかわいがってくださいますし、美緒梨さんの弟妹を期待してもおられます。
それが奥様の機嫌を損ねることになるので困るのですが。
家の為の結婚。表面的には仲の良い家族。私の存在も最初から織り込み済みで、奥様にもはじめはかわいがってもらっていたのだけど。美緒梨さんが産まれた頃からズレてきた。美緒梨さんの片割れは春貴さん。産まれてこれなかった子供たち。男の子なら夏希さん。女の子なら紫乃佳さん。また双子なら男の子は季節を追って。
ジッと兄さんの視線を感じます。少し思考が泳いでたみたい。
「堕ろせ。……とでも言われましたか?」
「その方が良いのでしょうか?」
彼女がそう言ったのは事実です。
前の子の時に階段で押されたのも……。
「天音さんには身体の負担が大きいようですからねぇ。ですが、堕ろすのも負担は大きいですしね。しばらく、距離を置いても良いでしょうね。満翔さんには話を通しておきます。身体を優先しましょうね」
不思議な言葉を聞いた気がして兄さんを見ていると苦笑されます。
「これでも天音さんの意思を尊重するつもりなんですよ? あちらの方をお慕いしてやっていけるとおっしゃるなら止めませんが、天音さんの身体に負担がキツすぎます。そこまで妹を粗雑に扱われるのは兄としては当然面白くないんですよ?」
お慕いしていない訳ではないのですが、奥様をこれ以上傷つけることも心苦しく、対応ができなくなってきた自分が悔しくて。
「ごめんなさい」
「仕方ないですねぇ、悪いのは満翔さんの主人教育ですよ。分家としては充分協力してきました。天音さん」
「はい」
「美緒梨さんとは、もう会えないと、遠目にも見に行ったりはしないと約束してくださいね。あの子は天音さんに関係の無いあのお家のお嬢様です」
ぎゅっと握るスカートにシワがつく。
最初からそういう約束だった。
兄さんの言葉は関わりを切るという決断。私がそれを破るべきではないことは理解できる。
「はい」
公兄さんのところの佑子と冬青が鎮さんのところの深理くんと宗兄さんのところの咲耶と遊んでる。様子を見ているのは鎮さん。
子供達が楽しげにはしゃぐ声を聞きながらベンチでひっそりと会話を紡ぐ。恭兄さんがなにかことばを続けたように思う。
でも、意識はそこで途切れた。
「セーフ。でも、主治医の先生に連絡するかちゃんと産婦人科に行かないとね」
「涼維……?」
「ん。鎮兄が運んで来た時はびっくりしたよ」
「ごめんなさい」
「ごめんなさいじゃなくてさ、今はゆっくり休んで。主治医の先生に連絡する?」
返事をする前に意識が溶けた。