仮定の未来 だいすきなの!
「さて、賭けをしましょう」
両手を広げ提案です。
「恭君、唐突」
意見を言う鎮さんをスルーして提案、と言うかゲーム進行を続けます。
ここはうろな町。
東の海辺にある旧水族館。と言っても営業していたのは三十年前までらしいですけどね。
僕はそこの現所有者である日生鎮さんに賭けを持ちかけているわけですねー。
「真理さんと森理さんが鎮さんを『お父さん』と思っているかどうかです!」
「は?」
指を立てて条件を提示すると、鎮さんは間抜け面をさらしてくれます。
別に僕はそんな無理難題出しませんよ?
「もちろん、『パパ』でも可とします」
「何を賭けるの?」
いけると思ったのか、軽くノリがいいです。甘い、甘すぎますよ。
「空さんの写真か、喫煙権でしょうか?」
「却下」
条件拒否は早く、賭けは不成立です。喫煙者に厳しい世の中ですね。
「せめて、ワンテンポ悩みましょうよ。即断即決過ぎでしょう?」
「ちびっこの生活圏で何言ってるんだか」
喫煙権は期待してませんでしたが、写真もダメですか。それにちびっこと呼んでますが普段は二匹の怪獣と呼んでる事ぐらい知ってますよー。
「最近の空さんコレクションに興味を持っただけじゃないですか。心が狭いですよ?」
「狭くて結構。許可できねーよ」
「敗北の自信があるんですね?」
取り付くしまもないので負けず嫌いを刺激してみることにします。
「ちげーよ」
「では! もーりさん、もーりさんはお返事しましょ」
強制です! 森理さん、いきますよ! 真理さんは今千秋さんが確保してます。
「あーい!」
元気にお返事です。撫でちゃくってあげましょう。真理さんがいないことをすこーし忘れてくださいねー。
「よく出来ました。じゃあ、僕は誰ですかー?」
「うー? きょーく?」
おー。僕のことも覚えてくれてるんですねー。いい子ですねー。
「はーい。きょーくんですよー。良い子ですね」
『ん』をつけましょーね。『きょーく』はちょっとイヤですよー。
「きょーくんー」
はい。いい子ですー。たくさん、撫でてあげますよー。
「じゃあ、この人だーれだ」
ひょいっと鎮さんを見せましょう。かすかに緊張している鎮さん。ぱちくりと鎮さんを確認・認識した森理さんは嬉しそうにちっちゃな拳を振ります。
「う? しーくん!!」
はい。自信満々でした。
同じことを真理さんでも繰り返しました。
今、僕はちびっこたちのアルバムを見ながら鎮さんが森理さん真理さんに『お父さん』を教えている様を眺めています。まず二匹とか怪獣どもとか言うのを直しましょうよ。鎮さん……。あとで賭けの勝利対価を払ってもらわないといけませんね。
アルバム、見事に空さん写っている分が抜かれているんですが、やり過ぎじゃありませんかねぇ?
稀に宗のところの一成さんと咲耶さんが混じっていますね。こっちは公志郎のとこの冬青さんと佑子さんですね。
「空」
鎮さんの声で真理さん森理さんも僕の背後にキラキラの眼差しを送ります。
「そあ!」
あ、鎮さん、固まりましたね。
「まーりさん、もーりさん、お母さんは?」
「ぅ?」
顔を見合わせた双子はぱちんと互いの手の平を合わせて(ハイタッチぽいです)にっこり。
「そあ!」
ま、すぐそばでそう呼び合っているのを聞いているせいでしょうねぇ。
ちなみに数年前の深理さん、月華さんも同じ道辿ってましたよ。
「まーりさん、もーりさん、この人だぁれ?」
「ちあきくーん」
「はい。よく出来ましたー」
褒めて撫でるときゃあきゃあはしゃぎます。かわいーですねー。癒されますねー。
「名前呼びで定着しそうですね」
「んー? むこうじゃ呼び捨てだしそんなもんじゃね?」
そーいえばそーですねー。
でも、むこーの子達からしたら千秋さんを『お父さん』呼びしたいんですよ?
千秋さんが嫌がるからと、我慢してる姿はちょっとかわいそーです。
ま、言っても変わらないでしょうし、僕が怒られますから言いませんが。
「深理と月華が『おとーさん』『おかーさん』って言ってるから負ける可能性もあったんじゃないのか?」
千秋さんの疑問に笑います。
「そんなバカな賭けするわけがないじゃないですか。賭けの前に月華さんが真理さん、森理さんとしていた遊びを見ていたからですよ」
万が一負けたら?
素直に良いお父さんですねと言って差し上げます。卑怯? そんなことありませんから。
「遊び?」
「ええ」
かわいらしかったですよ?
◇◇◇
おへやでもーりところがってあそぶ。たからものはいっぱい。
「まーちゃんはおとーさんは好きー?」
つーちゃんの声にもーりを見る。もーりもまーりを見てる。
『おとーさん』
もーりといっしょにおもいだす。おとーさん?
んと、んっと。……ダレ?
つーちゃんが笑って教えてくれた。
「んー、しーくん」
しーくん!
「しーくんすきー」
でもね、そあをひとりじめしちゃうんだ。
でもおいかけっこであそんでくれるのは好き。
ぶらんとぶら下げられてはこばれるの!
あれたのしーの。ぶらーん!
「すきー」
「もーりもすきー」
「そっかー。しーくんじゃなくておとーさんだからねー」
ってつーちゃんはごきげん。まーりももーりもうれしー。
おとーさ?
「じゃあ、千秋君はー?」
「おいしー!」
「あまーの!」
「え、餌付けされてる?」
『ちあきくん』
しーくんとちあきくんはまーりともーりみたいなおそろい。
ちあきくんはしーくんみたいにおいかけてくれない。
はしりだすとうしろで大きい音をたててうつぶせちゃう。
うごかないからつまんなくてじっと見てるとゆっくりうごくんだ。
もーりはしんぱいになって寄っていく。
そしたらちあきくんはぱっともーりをつかまえちゃう。もーりについていってたまーりごとぎゅって。
にげようとしたらちあきくんは笑っておやつをくれるの。
ちあきくんだいすきー。
「おかあさんは?」
う?
んーと、んーと。
「そあ?」
「そうそう。そあじゃなくておかーさんね」
そあ!
もーりとおててぱちーんなの!
「だいすきー」
「なでなでなの」
「ぎゅーなの!」
「まーりも」
「もーりも」
「いいこー」
でもしーくんがひとりじめしちゃうんだ。
『そらはおれの』って。
しーくんめっなの。めっ。
「おにーちゃんは?」
おにーちゃん。
「みっちゃん?」
「そう。みっちゃんね」
みっちゃんは、
「みっちゃんなの!」
「まことー。しんりー」
「みっちゃん!」
まーりのことみっちゃんはまことってよぶの。
しんりっていうのはもーりのこと。
いっつもひとりでおそといっちゃうの。『いってきます』って!
でも、『ただいま』ってあいずでいっぱい遊んでくれるの!
あ。
もーりとおててぱちーんなの。
「つーちゃんだいすきー」
「ぜいーもすきー」
たからもの。
いっぱいなのー!
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
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空ちゃんお借りしております