僕の窓、君の窓 (席替えにまつわるちょっとした話)
僕から見て教室の左端、前から2番目の、窓際の席。
そこが、僕の大好きな人の定位置。
その窓から見える風景を僕は知っている。
体育館の屋根の端と、校庭と、プールだ。
だってその位置は、昨日あった席替えの前まで、僕の席だったから。
うちの学校のプールは時期によっては緑色に変色していたりして、そういう時はあまりいい眺めとは言えない。だけど今は夏。陽の光が水面に反射してきらきらして、プールの授業が始まれば他の学年の生徒たちが泳ぐ姿も少しは見えるだろう。
おめでとう!そこはもう、君の窓だ。
そんなことを頭の中で言うと、僕は少し得意な気持ちになる。
勿論、僕のいた席があの子の席になる確立なんて、そう珍しいものじゃない。
32分の1もあるし、あの子は目が少し悪いから、後ろの方の座席にあたっても、先生が前に移動させたかもしれない。
単なる偶然、単なる席替えだけど、この小さな偶然は、今の僕にはかなり重要なことに思えた。
僕はまだあの子とあまり話したことがない。普段の接触も、せいぜいプリントを渡すくらい。昨日僕からあの子へ渡せたのはプリントじゃなく、この景色だ。
きっと僕からあの子への、初めての贈り物だ。
ああ、けれど、あの窓から射す光で日焼けしてしまわないか、熱くは無いか、風にプリントを飛ばされるんじゃないか。
そんな心配をしながら、僕の視線は昨日までは見えなかったあの子の背中と、昨日まで僕のものだった窓を往復してしまう。
そんな僕がいることなんてちっとも気づかずに、
夏を待つ君は、頬杖をついてプールの輝きを見つめている。
明日はプール開きだ。
即興小説のお題「僕の窓、君の窓」から。