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六話

 

 落下していく最中、アルタは今まで起こったことをぼんやり考えていた。それはほんの数秒の出来事であったが、アルタにしてみれば走馬灯。すごくゆっくりとした時間が流れて地面が確実に近づいているのだと感じられた。

リエイは無事だろうか。そもそも自分が死ねば、還れなくなってしまわないか。そんな事をふつふつと考えながらアルタはついに地面まで落下し、ぎゅっと目を閉じた。





「もう目をあけていいよ」


ふと声を掛けられ、アルタは目を覚ました。

一体何が起きたのか瞬時に理解できず、ファーのコートを目深までかぶった少年がこちらを見つめているのを見つめ返すので精一杯だった。

まるでその感覚はモニカに出会ったばかりの瞬間と似ていて、現すならば時間が突然止まって戻された感覚。アルタは首をふり、ここがあの世ではないことを確かめるように自分の手を握ったり開いたりと落ち着きのないそぶりを見せた。


「まさか君を狙っているやつが他にもいたなんてね…立てる?」

「お前は…?いや、それより俺は生きて…いるのか…?」

「生きているさ、僕の顔もきっと覚えているよ」


少年がフードを取る。

アルタは大きく息を吸って目をしばたかせた。


「久しぶり…元気そうで…その…安心してるよ」

「う…ウル…リア…」


学生だったあの時からほんの数ヶ月も経ってないというのに、目の前の親友はどこか悲壮感が大人びてみせていた。アルタは突然捜していた親友が現れ、混乱が最高潮に達し、何から問い詰めてやろうか何を言ってやろうかと考える暇もなくただ一言


「生きていたんだな」


と安堵の息と共に吐き出した。


ウルリアはその一言に複雑そうな表情をみせていた。

もちろんアルタの命を狙っていたことはアルタが既に知っていることも分かっていたし

こうして当たり前のように顔を見せることすら本来ならばしてはいけないことだった。万が一クロードがこのことを知れば、またウルリアはただではすまない。

それでも彼は、アルタに伝えておきたいことがあった。

たとえ彼の命をいつか奪う形になっても、自分自身がこのことを伝えていなくて後悔しないように。

せめて親友だったときの自分が死ぬ前に、親友としての情報提供をしてあげたい。


…そんな所だった。



「君は僕にいくつか聞きたいことがあるだろうけど…生憎、僕はそんな事を答えてあげている時間はないんだ」

「…上の奴ら…お前らの部下?」

「…違うよ。言ったろ、他にも君を狙ってる奴がいるなんてって。」

「何で…今更…俺なんか…俺をわざわざ助けて、殺しにきたのか?」


ウルリアは言葉が出ない様子で首を振った。今にも涙が出そうな彼の表情は、しっかりとアルタを捉えていた。そしてそんなウルリアより遥かに傷ついた表情を浮かべたアルタはウルリアには痛々しいほどだった。


「それも違う。…君にかけた呪いは…新しい契約で破棄されてしまったし…今はクロード様にも内緒で来ている」

「クロードさま…ね…」

「君にとって有益な情報だ。信じるか信じないは君に委ねる」


アルタはそっぽを向いてウルリアと視線を交えなかった。

ウルリアはそっと視線を落として続けた。


「君の両親は事故で亡くなったとシモンさんが言っていたけれど、嘘なのはもう…知っているよね?」

「…ああ」

「君は王子様で、そして君の父さんはもう亡くなっている。だけども考えなかったかい?じゃあ一体母親はどうなったのか」


アルタは目を見開いた。

そういえば父を追う事で頭が一杯で、会ったことはないが魔法陣レコードで見たあの母のことをすっかり失念していた。いやむしろ、母ももういないんだろうと勝手に頭がそう理解していた。

だが


「君の母親は…生きている」

「嘘…だろう…?そんな事を言ってまた俺を騙すんだろう…!」

「…だから信じるかどうかは君に任せると言ったはずだ。」


ウルリアはそっと右手をかざした。ほんのりと淡い煙がたちこめ、ウルリアの体がその煙に包まれてゆく。アルタはウルリアがそれだけを伝えようとやってきたことを悟り、ウルリアの手を必死に掴んだ。


「どういうことだよ…!ウルリア、何でお前がそんな事を…!」

「…真実を知りたかったら…追えばいい…僕達はそのために君を待っている」


パッと軽く手を払いのけたウルリアは、困ったような笑みを浮かべて片手を挙げる。


「次会うときは…分かってるだろうけど…僕達は敵同士だ…」

「待て、行くな、行くなよ、ウルリア…!」

「…じゃあね…アルタ」


懸命に伸ばした両手は虚しく、パシュッと鳴った空気と共に消え去ったウルリアを掴むことなく垂れ下がった。アルタはあまりの悔しさから唇から血が滲むほどかみ締めて地面にうずくまった。

なんて自分は非力なんだろう。

クロードからウルリアを救ってやることも、自分自身の身の安全すら守れない。

そんな人間が自分なのだと。


「何で…そんなにお前が悲しそうなんだ」




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