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二話

 

 薄暗い室内は緩んだ蛇口が落とす数滴の雫が滴る音を反響させていた。

わずかな明かりのもと、やや苦しげなうめき声を上げて少年がうずくまっていた。

舌先で棒がついたキャンディーを弄んでいたクロードは、つま先で軽く彼の横腹を突いてみた。


「まさかこんなに早く僕の呪術が破られる…なんてね…」


足元で脂汗を浮かべ何も話すことのない少年はただ痛みに耐えていた。

クロードは勢いをつけて椅子から立ち上がると、少年がうずくまった場所に屈みこんで少年の顔を覗き込んだ。


「痛い?苦しい?」

「………。」

「けれども当然だよね。これが君が受けるべき罰で、然るべき痛みなんだからさあ」


クロードは何も話さない少年をじっと見つめ、面白くなさそうに鼻を鳴らして立ち上がった。

纏っていた黒衣を脱ぎ捨てる。先ほど向こう側が見えてしまうほど大きな穴が空いてた体だったとは思えず、病弱そうな白い皮膚がちゃんと繋がっていた。

クロードは刺された部分だった場所を撫で、傍にあった小さなテーブルに飾られた懐かしい写真を手に取る。

そしてそれはすぐさまクロードの手を離れて少年の体に叩きつけられた。


「クソッ!忌々しい…!オーヴァンの血族が生きている事が我慢ならない!」


その声は今まで少年らしく作っていた声とは打って変わり、背筋が凍るような毒々しい低音になった。写真立てが頭にぶつかった少年の額から、じんわりと鮮血が溢れ出す。

クロードは少年の胸倉を掴み、自分と身長が同じほどある少年を軽々と片手で持ち上げる。


「いいか、次はないからな。しっかりアルタ・マクベインを殺すんだ!分かったな、ウルリア!」


少年―ウルリアは小さく頷くと手を放されて床に崩れ落ちた。


「僕は一生、あの日のことを忘れない…オーヴァン、今度は僕がお前の全てを奪う番だ」


クロードはそう笑んで部屋を出るべく踵を返した。

顔を上げないままのウルリアは、その足音が完全に部屋から出たのを確認すると、耐えていた嗚咽を吐き出すように漏らして涙をこぼした。

その胸には確かな罪悪感があったが、彼自身その涙の本意は知れないままだった。












 空は晴れ渡っていた。窓際から差し込む朝日がカーテンを閉め切った部屋に色を与えていた。

昨日適当に描いた紋章が施行され、新たにリエイとの契約を結んだアルタはやや疲れた顔をぶらさげてベッドから起き上がった。しかししっかり寝たというよりは、いろいろなことを考えているうちに倒れこむように寝てしまったようで、リエイが掛けてくれただろう毛布が一枚掛けられていた。


「あ、ご主人!おはようございます!」


アルタは一瞬ギョっとして目をこすった。確か契約は成功したはずだがリエイの姿は見慣れた犬の姿ではなく、まだ人型を保っていた。


「お前…?犬に戻るんじゃないのか?」

「それが、どうやら力は取り戻したのですがまだ本調子じゃなくて…」

「…おいおい、大会はそれで大丈夫なのか…?」

「多分…それまでに元の姿に戻れるように頑張ります…!」


ワン!と鳴いたリエイだったが、その姿は少年のままなのでどうにも見た目が間抜けだった。

アルタは深いため息をついて、ハッと大事なことを思い出して跳ね起きた。


「そうだ!シモン!」



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