六話
シータもといクロードはその言葉と共に突然俯いたかと思うと、背後へと振り返った。
すぐ目の前にいたアルタはただ呆然とクロードを見つめていたが、そのクロードの腹部からじんわりとサーベルの切っ先が現れ、そこから滴る血はシモンのものと混ざりながら床に伝っていく。
クロードは先ほどまでの子供のような声からは想像も出来ないような地を這うような低音で叫んだ。
「チイッ!この…国家の犬が…この僕に楯突こうとは…」
クロードは腕でサーベルを叩き折ると、飛び退いてアルタを見つめた。
アルタはクロードに刃を立てたであろうウィリアムに抱えられてクロードに飛び掛ろうとするのを止められた。
「やめろ!離せ!殺してやる、父さんとシモンを…よくもっ!」
「くくっ、助かったね、アルタ。僕は退くまずそのこざかしい番犬二匹を殺したら…また会ってやるよ」
「待てよ!クソッ、離せ!命令だ!離せ!」
クロードは右手をかざして召喚獣であるドラゴンを呼び寄せた。強い風に目を伏せた瞬間、クロードは飛び去り、雷鳴が響いてクロードが飛び去った。アルタはようやくウィリアムに開放されて手を伸ばすが、その手はスッと虚空を裂いた。
アルタは座り込んで小さな声でウィリアムに告げた。
「…すまなかった…お前がいなかったらシモンも俺も…死んでた…止めてくれて…ありがとう」
「いえ、それよりシモン様が今は一刻を争います。エミリーを呼んでいる時間もないので止血し、私が縫いましょう」
「えっ…?」
「アルタ様は恐縮ではございますが熱湯と道具のご用意をお願いできますか?」
「わ、わかった!」
アルタは急いでリエイを抱え上げ、自室へと向かう。
リエイの様子も気になったが、今は死なない彼よりも命の限りがあるシモンが最優先だった。
アルタはそっと自分のベッドにリエイを寝かせるとその額を撫でて唇を噛んだ。
「…ありがとうな…リエイ…」
そして包帯とはさみを持ってキッチンへと戻る。浮かれた誕生日が一気に引き締まる。
自分が生まれたことを祝う前に、アルタは自分の弱さを改めて実感して強くなることを知るべきだと実感する。
ウィリアムはもらったばかりの万年筆を見下ろし、黙ったままのアルタに声を掛ける。
「…アルタ様…」
「分かってる…今行く。」
アルタはぎゅっと万年筆を握り締め、顔の前でまるで十字架のように掲げてウィリアムに振り返り、包帯と救護に使えそうな道具一式を手渡した。
「シモンを頼む…」
ウィリアムは深く頷き、お湯が入ったやかんと道具を持ってシモンの部屋へを急いだ。
誰もいなくなった部屋で、アルタは万年筆の蓋を取り、その美しい黄金のペン先を手の甲にぐっと押し込んで魔法陣を描く。中心に散り始めていた薔薇はそれを取り囲むかのように蠢いたが、アルタは薔薇が動く度にペン先を押し込んで血で魔法陣を描き込む。
オリジナルの魔法陣。なんとなく覚えた古代文字でアルタは一言付け足した。
『何があってもくじけぬ心』
描き込んだ瞬間、アルタは強く叫んだ。
「リエイ!」
そして魔法陣は輝きだす。アルタの強い意志に答えるように、絡められた呪いからもがくように…。




