六話
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アルタは自身の両目を疑った。
弾けとんだ眼鏡の奥に潜んでいた彼の闇は想像以上だった。
目の前にいるのは数十年前子供だった叔父の姿そっくりな少年。そして自分の召喚獣は彼が召喚したであろう召喚獣によって爪先にぶらさがっている。
とにかくアルタはリエイが心配で、ピクリともしない彼の真っ赤な姿をただ唖然として見つめ、
生徒が悲鳴をあげる中、一人だけ取り残されているように思えた。
そして、何かシータに言わなければ、そう思い振り返った瞬間、
リエイの真っ赤な体が大きく宙を舞い、アルタのすぐ側まで迫っていた。
これではリエイの大きな体が顔面を直撃し、アルタは無事ではすまない。
しかしリエイはすっかり動けず、アルタは腰を抜かして立てない。せめても防御しようと両腕を上げた。
「何やってるのよ、ばかっ!」
甲高い声が耳に届くより早く、アルタの体はドン、と激しく突き飛ばされてアルタは倒れこんだ。
状況を把握しようと起き上がると、小さな悲鳴が耳に滑り込む。
そしてようやく自分を助けたヘティーがリエイの下敷きになっているのに気づいた。
「…なん…だよ。何で…お前が俺なんか助けるんだよ…!」
教会内は混乱していた。逃げ惑う生徒を抑えようと声を張り上げる教師達。屋根が崩壊し、キシキシと妙な音を立てる教会の床と壁。そして足元には苦渋の表情をするヘティーがうずくまっている。
アルタはヘティーを抱き起こして彼女の頬についた血を拭った。
ヘティーは少しだけ口角を上げ、アルタの手を叩き落とした。
「アンタを助けたわけじゃないわよ、私はただ、あの男が気に食わないだけよ」
ヘティーは弱弱しくアルタをどつき、立ち上がる。その視線の先にはシータの姿があった。
シータは狼狽したようにおどおどと辺りを見渡すと、アルタに駆け寄った。
「アルタくんっ!」
アルタは思わず身を硬くする。元々けしかけたのはリエイだったが、あんなドラゴンが出現して、教会内はおかしな空気に変わってしまった。そして何より、不安げなその表情が貼り付けられた整った顔は、叔父のものだ。アルタは返す声が出ず、心配そうにこちらを見つめるシータに戸惑う。
「ごめんね、僕、君の犬が怖くてつい」
「い、いや…俺こそ…悪かった…から」
シータは安心したようにふっと笑んで召喚していたドラゴンを手招きした。
少し頭を下げたドラゴンは、小さく鳴いてシータに甘えるしぐさをみせる。ヘティーは二人のやりとりを特に何を言うでもなくじっと見つめていた。
「…ヘティー、救護室に行こう。怪我、しただろ」
「フン、言われなくても行くわよ愚図。触らないでよ」
へティーはツンとした態度をなんとか維持させようとしていたが、その実はボロボロだった。アルタはそんなヘティーの姿に胸が痛み、申し訳なさがこみ上げた。
そしてどうしてこんな事になったのか、アルタは理解できずに気絶した様子のリエイを見下ろし、しゃがみ込んだ。
「…リエイ…」
「でも二人とも無事でよかった…。ディズリーさんすみません、僕…」
シータがアルタと同じようにヘティーに声を掛け、申し訳なさそうな表情でそっと彼女の肩に触れた。
「いやあああああああああああっ!」
「へ、ヘティー?!」
絶叫が響きわたった。ヘティーはシータの手を払いのけると這うように床に這い蹲り、動かなくなってしまった。アルタは突然悲鳴をあげ、不可思議な行動を取るヘティーに更に困惑し、なるべく体に触れないようにヘティーに近づいて声を掛ける。
「お、おい、大丈夫かっ?!」
「いや、こわい、こわいよお」
「ど、どうかされましたかっ!?傷が痛むのですか?」
すっかり錯乱状態になってしまったヘティーに、数人の教師が駆けつけた。
その内の一人であるコルネリアはアルタとシータをそれぞれ一瞥し、彼女を刺激しないように優しく声を掛けながら彼女を教会から出した。
残されたアルタとシータの二人の間には会話がなくなり、天井に空いた穴から少しづつ雨が漏れてきていた。
アルタは膨大になった謎と質問の束をどうやってぶつけようかと頭をフル回転させていた。
もしかしたらこの騒ぎで停学どころか退学になったらどうしようか。
そしたらシモンになんて説明したらいいのか。そこまで考え、アルタはややゆっくりと焦らすような速度で尋ねる。
「お前…」
シータはもう何の感情もない表情をしていた。アルタは震える声で静かに続けた。
「一体誰なんだ…?」
シータは答えない。真っ白な歯が弧を描いた口元から輝いて見える。アルタは真剣に尋ねているのにも関わらず、こんなにいい笑顔を浮かべるシータに戦慄を感じる。
まるでそう、
快楽で殺人を行う恐ろしい殺人鬼のようなその、恍惚とした笑顔に。