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五話


 アルタはその後、担任でもあるルーペルトに呼び出されて職員室へと再び訪れていた。

職員室に向かうまで、ウルリアの所在を確認する為に彼のクラスまで訪れたことから、アルタは教室以外でも冷たい視線で見つめられ、いたたまれない気持ちになった。何故親友であった自分が、ウルリアの失踪に噛んでいなくてはならないのか。アルタは悔しかった。


「マクベイン…!すまない、じゃあ、別室に行こう」


ルーペルトはアルタの姿を確認し、席を立った。心なしか、職員までもが自分を注視している気がし、アルタは落ちつかなかった。とうとう今まで細く保ってきた学園での居場所が、消えうせたのだ。ウルリアという存在は勿論、この騒動ですっかりアルタは悪人として認識されてしまった。

昨日父のことを聞いたときほどの衝撃が、アルタを襲う。

リエイは不安そうにアルタの顔を見つめていた。





 職員室から直結して、職員が宿直するときに使う小部屋があった。中には質素なベッドが置いてあり、その側に小さなテーブルが一つと、椅子。それだけでこの部屋はもう満杯だった。ルーペルトは椅子にアルタを座らせ、自身はローブの裾を掴んでベッドに腰掛ける。向かい合うとアルタはつい、目を逸らしてしまった。


「…私達は、君を疑っているわけではない。分かるね」

「…はい」

「ただ、最後に彼と会ったときのことを詳しく教えてほしい…正直に、ね」


アルタは側にうずくまったリエイを一瞥する。彼と最後に出会ったことを赤裸々に話すとすれば、まずこの犬から遡らなけばならない。あの時感じたのは紛れも無い抑止反応で、それを抑えて話せばなんてことない別れ際に過ぎない。少し様子がおかしかったが、それも一緒に帰れないと言っただけ。そんなことを不自然だったというには大げさすぎだろう。アルタはそう思った。

リエイはアルタにそっと語りかけた。


「ご主人…ご友人のことを考えるならば、僕のことも話しておいてはいかがでしょうか?」

(で、でも…)

「相手は教師でいらっしゃいます。よほどの人でないなら話しても秘密は守っていただけるのでは?」


アルタはルーペルトを見つめた。彼は身寄りがないウルリアを預かって面倒をみていたという。心の底から心配なのだろう。顔色は悪く、眠れていないのが伺えた。アルタは静かに頷いて、リエイの首輪を外した。


「先生、約束して下さい。このことは、誰にも極力話さないと…」


初め、何も無い空間でパントマイムのように手を動かすアルタを不審がって見つめていたルーペルトも、首輪が外れた途端にベッドからのけぞるようにして驚きを見せた。リエイは、とてつもない神気を纏っていて、彼の姿が見えた途端、ルーペルトにはプレッシャーすら感じられて思わずのけぞったのだ。

少し言葉が出ない様子のルーペルトに、アルタは改めてリエイの凄さを感じた。

ルーペルトはややあってやっと落ち着いたのか、リエイに釘付けになりながらもふっと笑みを見せた。


「何となく…君が力を持っていることを感じていたんだ…まさかこれほどまでとは思わなかったけれど…やはりあのときの事故は抑止反応か」


アルタはリエイの口以外から抑止反応という言葉が出て、少し驚いた。思い起こせば彼は優秀な召喚師で教師なのだから当然だと理解に到る。触れることすら躊躇われるのか、距離を取ってリエイを見つめたルーペルトは、アルタに視線を戻した。


「これは、君が召喚したのかね」

「…俺は、全然記憶にも無いので、本当かはよく知りませんが…父さんが俺に預けた召喚獣で…つい昨日うっかり出てきちゃって…」

「はは…うっかり出たというレベルの召喚獣ではないな…。」

「…それで、その…ウルリアのことなんですが…」


アルタはリエイの拘束具を握り締めて俯いた。彼はウルリアを息子だとも思うほど学園に入学してからは大切にウルリアを育ててきた親代わり。もしかしたらまた批難されてしまうのでは、と思うとアルタの言葉は続かない。だがそんな心境を汲み取ってくれたのか、ルーペルトはそっとアルタの手を取った。


「マクベイン。君を責めようだなんて思っていない。このことは誰のせいでもないんだ。もしかしたらクラスでいいことがなかったのかもしれないが、私を信じてくれ。」


アルタは頷いた。温かく大きな手のひらが安心感を生んだ。もし信用ならない人なら、リエイがあんな事を言ったりしないだろう。アルタは覚悟を決めた。


「昨日、帰るときにウルリアに会いました。リエイ…召喚獣のことを相談したかったんです。そしたらアイツは用事があるからって帰るって言うんで、軽く挨拶程度に背中を叩いたときに…、抑止反応が…出て…」


ルーペルトは表情をこわばらせた。何かいけないこを言ったのだろうか。不安がるアルタに、ルーペルトは昨日自分が巻いた包帯を見つめておもむろに手を取る。アルタが戸惑っていると、ルーペルトは包帯を解いてアルタの腕を確認した。


「…なっ…?!」


アルタは、一日ぶりに見た自身の手に鳥肌を立たせた。指先から爪をかいくぐって手首の付近まで。アルタが見た時よりも何倍もの蔦がアルタの右手を覆っている。そして、手の甲の魔法陣には」、真っ黒な刺青が生まれていた。それは幾重にも重なった薔薇の花。まるで蔦、いや茨が開花してそうさせたように。

ルーペルトは苦い表情を浮かべて、アルタを見上げる。そして信じられない一言を呟いた。


「…ダックフォーズはもう帰ってこない…」

「な、何故ですか?!」


ルーペルトはやんわりと彼に自分の手の甲が見えるようにかざして、指先を突きつけた。


「この薔薇は黒魔術で植えつけられた君への呪い。」


アルタは目を見開く。何だって?呪い?既にリエイという存在がいるのに?様々な疑問が生まれたが、次の彼の言葉でそれはしゃぼん玉のように弾けた。


「中心の名前は、ウルリア・ダックフォーズ」


ルーペルトはぎゅっと悔しそうにアルタの右手を握ると、かすれた声で告げた。


「彼は黒魔術に堕ちて咎人となったんだ…」


アルタはどこか、苦悶するルーペルトを傍観している自分に気がついた。まるで話が飛んでいて、自分に向けられた話だとは思えない。突然出てきた召喚獣に父の死の真相。おまけに紋章には呪いで、友人は犯罪者と成り果てたと聞かされた。これが現実であるはずが無い。頭の中のオーバーヒートが、火花を散らしているようだった。

アルタはそのまま、椅子と共に倒れこむと気絶してしまった。


あれ、ウルリアを裏切らせるつもりはなかったのに…私は友人裏切り設定がとても好きなのか…!?

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