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七話


 自室に戻ったアルタは、部屋の戸を乱暴に閉めてベッドに雪崩れ込んだ。うつぶせになって一向に動かないアルタの姿に、リエイは言葉を探しながらアルタの部屋を見渡した。思春期の若い男児の部屋とは思えないほど整理された小奇麗な部屋には、ぎっしり魔導書が詰められた本棚とその隣の机。そして一台のシングルベッドという実にシンプルな構成だった。

アルタはうーうーと唸るのをやめ、勢いよく起き上がるとリエイを睨みつけた。


「なあ!父さんがしていたことって一体何だ?そんなにやばいことしてたのか?」

「えっと…オーヴァン様はご立派な方でした。僕は、あの方に力の悪用をされたことはありません。オーヴァン様の為、その事に関しては信じて下さい。ただ…、」

「ただ?」

「そうですね…時代なども悪かったといいますか…とにかく、僕からオーヴァン様に関して話すことはできません」

「なんだよ!シモンといい、お前といい!もういいよ、俺が真実ってやつを浮き彫りにしてやる」


リエイはすっかりへそを曲げてしまったアルタに、強く詮索することを否定することができなかった。彼が知りたいのはあくまで自分の両親はどんな人物だったのか。という一点で、きっとシモンもいかにオーヴァンが素晴らしい人物であったか伝えたい気持ちはあるだろう。しかし契約したときにリエイはオーヴァンはどれぐらいの覚悟を持って召喚したのかを知っていたため、軽々とその息子を危険に晒す真似には到れなかった。

例え、契約の最後には、その命を頂戴する形になろうとも…。



「そういえば、シモンとは会ったことがあるんだな。お前」

「はい。オーヴァン様と共に過ごしていた頃、お会いしたことがありました。独特の感覚の持ち主ですが、とても清らかな方だと存知ます」

「…清らか…あの変態が?」

「そういうのは動物的欲求範囲です。僕が言っているのは、心根がしっかりされた方、という意味です」


アルタは少し笑ってリエイの頭を撫でる。


「俺さ、お前にまだ言ってなかったけど、あの時お前が助けてくれて、本当は感謝してたんだぜ?でなけりゃ俺なんてすぐ病院行き。殺されはしなかっただろうけど、ウルリアだってもっと怪我してだろうし…色々あったが、俺も少しは決心ついた」


アルタは立ち上がって大きく伸びをするとぐっと両手で拳を握って気合を入れたように清清しい笑顔をリエイへと向けた。


「そんで、あの時はありがとう、リエイ。俺、父さんのこと、やっぱり知りたいし…お前が言ってたその大会、乗ってやってもいい」

「ご主人…!」

「ただ、一つ教えてくれないか。何故父さんが俺にお前を預けたのか…」


リエイは静かに数秒目を閉じてアルタをまっすぐ見つめた。そして長い間を置いて、恐る恐る、といった風に告げる。


「オーヴァン様はお命を狙われておいででした。彼は、あなた様にその手が伸びた時、ご自身で身を守れるように、僕を預け…そして…お亡くなりになりました」


アルタは少なからずショックを受け、リエイを見つめた。リエイはアルタの衝撃を受けた顔に動揺しながらも、震えた声で続けた。


「実は…あなた様を脅かそうとする脅威は、今だ去っておりません」

「な…?どういうこと…だよ?」

「あなた様のお父上のお命を狙った者は今、あなた様を狙っておいでなのです」

「なんだよ…それ…!」


アルタは思わずよろめき、本棚と肘が接触し、本棚から魔導書があふれ出た。リエイは苦渋の表情を浮かべ、頭を下げた。


「その為、僕は全力を尽くし、あなた様をお守りいたします。」


傅くように頭を垂れたままのリエイに、アルタは首を振った。そして今まで考えたことのなかった事を強く思う。


(父さんは…、俺は、一体…何者なんだ…?)



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