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万物研究会③

 それは、何とも仰々しい名前の研究会だった。


 神崎の話では自由に研究する会ということだったが、自由を万物と言い換えているところに何か少し胡散臭さを感じてしまうのは俺だけだろうか。


 神崎が更に扉へと一歩近づき、ノックの体勢に入る。


 その瞬間、大きな音を立てて扉が向こう側から開かれた。


「……あれ?」


 扉を開いたその人物は、まさか外に人がいると思わなかったのだろう。

 扉に手をかけた状態のままで固まっていた。


 ノックをしようとしていた神崎も、その体勢を維持したまま、急に現れた人物のことをジッと見ている。


 突然目の前に現れたその人物を一言で表現するのであれば、ギャルだろうか。

 

 緩くウェーブの掛かった茶色い髪、少したれ目がかった大きな目、左の目尻にはホクロが一つある。


学校指定であるベージュのカーディガンを羽織っており、その下に着たワイシャツは第二ボタンまで開けられている。少し目のやり場に困る制服の着こなしだった。


「あれー、君ってあれだ。新入生代表挨拶してた子だ。めっちゃ綺麗な子だなーって思ってから覚えてるよー」


 今にも抱きつくのではないかと思うくらいのテンションで、その女子生徒は神崎に柔和な笑顔を向けながら言った。


「んー? 君は……可愛い顔してるけど、ごめん、知らないや。誰かなー?」

 

 神崎の次は、俺だった。


 男に対して可愛い顔というのは、あまり言われて嬉しいものではない。


 初対面の異性だというのに、その女子生徒は構わず距離を近づけてくる。


 反射的に俺は、一歩後ろに後退ってしまった。


「妃那美、バイトに遅刻するんじゃなかったのかい?」


 その言葉と共に、扉の奥から新たな人物が顔を覗かせた。


 その人物は、妃那美と呼ばれた女子生徒の肩に手を置いて、苦笑を浮かべている。


 騒がしくてすまないねと、言葉にせず表情でこちらに伝えているような気がした。


 神崎に負けずとも劣らないほどに、美人な女子生徒だった。


 少しのクセも感じられない艶のある長い黒髪。

 肌は仄白く、整った鼻筋と形の良い唇、大きな丸い目からは彼女の強い自信が溢れ出ているかのようだった。


 制服の上にはなぜか白衣を羽織っており、女性にしては高身長。目線の高さが俺と同じくらいだ。


「やば! ごめん、私バイト行くね! 君たちあれだよね、入会希望者だよね? そしたらまた今度話そーね! バイバーイ!」


 その言葉を残して、妃那美と呼ばれた女子生徒はその場を嵐のように去っていった。


 彼女がこの場からいなくなったことで、まるで祭りの後のような静けさが残った。


「このまま廊下で三人突っ立っていてもしょうがない。ここを訪れてくれたのだし、ゆっくりと中で話をしようではないか」


 白衣を着た女性がその沈黙を破るように言いつつ、扉の中へと入っていく。


 俺と神崎は一度顔を見合わせた後、彼女の後に続いて万物研究会の中へと入室した。

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