お金のつかいどころは?
「へぇ。この数をたった独りでか……」
それなりに高位なダンジョンの中で出会った冒険者。
こちらは既にゴブリンの群れにオークを二体……ついでに漁夫の利を狙った荒くれ者との連戦で疲れ切っているのに、相対する若い女性冒険者は傷一つなければ息一つ乱れていない。
大方、ずっとこっそりつけてきたのだろう。
「だけど、残念。見たところアンタもう限界だろ? 戦利品は私に任せてとっとと帰んな」
「ふざけるな。今、ようやっとこの場を制したんだ。休憩してから帰還するさ」
「ふーん?」
女性は挑発的に息を吐くとダガーナイフを抜いた。
「大人しく帰ってくれると私としても楽なんだけど?」
「やる気か? てめえ」
「アンタ次第じゃない?」
クソが……疲れているのに。
苛立ちながらどうにか武器を構える。
どうせ、この傷じゃ休息は必須なんだ。
そして休息が必要な以上はこの場を『安全』にしなければならない。
「満身創痍なのにその闘志……いいね。私の相手に相応しい!!」
手負い相手に何を言っているんだ、こいつは。
そう思いながら戦闘に入り――。
「……弱すぎだろう。お前」
目を回している彼女は返事をしない。
もう驚くほどに弱かった。
どうやってここまで来たんだ? ってくらいに……。
「まぁ、いいや。これでしばらくは休める」
そう呟きながら体力回復のため休憩をしているとやがて彼女は目覚めた。
目を回してからおよそ二時間。
独りきりだったなら確実に魔物に喰われている。
「おまっ!? よくもこの私を!!」
「黙れ。疲れてるんだから……」
「うるさい! 今、ここでリベンジ戦を!」
「殺されたくなければ黙ってろ」
凄まれてビクリと震えて意気消沈している。
「お前。その弱さでどうやってここまで来たんだよ」
「そりゃ、隠れながらさ。時には逃げたりもしたけど」
「……その技術は見事なもんだ。魔物と戦った傷どころか擦り傷一つねえじゃねえか」
「慎重に行動するのだけはうまいから……」
「これは一応忠告だがそんなに弱いんならダンジョンに入るのは無謀だぞ、マジで。結局のところは武力も必要なんだよ」
「だけど外の稼ぎじゃとてもじゃないけど食えていけないよ」
「なら、大人しく遺留品集めてりゃいいだろ?」
「だって、アンタ今にも死にそうだから私でも勝てるかもっておも――痛っ!」
一度殴ってため息をつく。
彼女は涙目で頭を抱えていた。
「自分の実力を高く見積もりすぎだ。それに本当に強かったとしてもあの状況なら普通は不意打ちを狙うもんだ。一撃で仕留めりゃ反撃は喰らわねえんだからよ」
「うっさいな。そんなことしたら――って、アンタ!」
彼女は何かを言おうとしたが、傷だらけの右腕を見て急に叫ぶ。
「あ? どうした?」
「この傷は放置しちゃまずい奴でしょ!」
「あー、そうだな。だけど、もうしゃーねえよ。薬はもう尽きちまってんだから」
「ばっか! そういうことは早く言いなさい!」
彼女はそう言いながらポーチから傷薬を取り出す。
まさに今、喉から手が出る程欲しかったもの……!
「おお! お前、薬持っていたのかよ!?」
「言ったでしょ? 慎重なんだって。薬や包帯の一式くらいは持ち歩いているの」
「正直助かったぜ……いくらだ?」
「へ?」
「いや、だからそれいくらで売ってくれるんだ?」
「あっ、買うの?」
彼女の目の色が変わる。
――直後、とてつもなく嫌な予感がした。
「そうだよね。アンタからしたら右腕を失うか失わないかの瀬戸際だもんね。いくらでも買うもんね?」
そして、当たった。
嫌な予感が。
「さーて、いくらで売ろっかなぁ」
……結局、財布の中身は全て奪われてしまった。
***
後日、酒場で冒険者仲間からダンジョンの中で法外な値段で薬を売ってくる奇妙な商人の話を聞いた。
「で。買ったのかい?」
「命にはかえられねえしな……それに薬だけじゃなく油、ロープ、松明なんかも取り扱ってんだよ」
「へえ。便利だな」
「全部。ぼったくりだったけどな」
「命無くすよりはマシだろ」
「まあな」
そんな風に笑い合いながら酒を飲む。
冒険者ならばあり触れた日常の中に、彼女の話題が大きく取り上げられるのは二か月ほど先のことだった。




