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嘉永生庵  作者: Ellie Blue
9/31

9題目.ぷかぷか

 夜が西の空に引き上げ始め、東の空が白んでいく。ちりん、ちりん。軒先で風鈴が早朝の風に鳴った。

『ひい、ふう、みい、よお、いつ、むう、なな、やあ、 ここ、とお』

 そのまだ半ば夢幻のようにまどろみたゆたう空気の中を、静かな声が流れていく。

 沙那江はすいすいと針を動かしていた。白い布に糸が通って縫い合わされ、かたち作られていく。真新しい浴衣は、もうじきに間もなく完成を迎える。

 沙那江は端まで縫い終えた手を止め、じっと目を瞑った。


 山の中、川に浮かぶもの。蝋のように白い肌の色をした人形のような。沙那江と同い年くらいに見える若い女の姿。それがぷかぷか、浮いて、流れて、消えて。


 目を開く。ふっと横に目をやると、そこには沙那江と同い年くらいに見える若い女の姿、花代がいた。縁側の廊下に薄い布団を敷いた上で、すやすやと穏やかな寝息をたてている。沙那江は糸を口で裁つ。そしてその口元を引き結んだまま、思う。

――もう、失敗は繰り返さない――




『ひい、ふう、みい、よお、いつ、むう、なな、やあ、 ここ、とお』

 ちりん、ちりん。どこかで風鈴が鳴っている。まどろみたゆたう中を、静かな声が流れていく。

 その中で、ふっと意識が浮上する感覚がした。

――ああ、私、失敗したのね――

 花代はそう、ぼんやりと思った。 開いた目。風鈴が軒先に下がっているのが視界に映った。ここは、縁側? ふっと横に目をやると、傍らには白い着物姿の女、沙那江がいた。

 助けてくれたのか、それとも。その口元を固く引き結んだ表情は読めない。

 夜が西の空に引き上げ始め、東の空は白んでいった。

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