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嘉永生庵  作者: Ellie Blue
29/31

29題目.思い付き

「ありがとう。……ごめんなさい巻き込んでしまって」

 ふいにそうぽつり。花代を見つめ沙那江は静かに言った。それに花代はまっすぐに沙那江を見て言葉を紡ぐ。

「ううん“巻き込んだ”のはこっちの方よ。あなたを救うことで、私も何か救われたかったのかもしれない。……こちらこそ、ありがとう」

 二人の間に、しんみりと静かな空気が流れた。それを明るく打ち破るかのように。

「さぁ、ではそろそろ」

 どちらからともなく二人はそう口にした。

 歩き出そうとする花代。しかし沙那江はその場から動こうとしない。だが花代はそのことを指摘したりはしなかった。分かっていたのだ。西日に照らされた沙那江の輪郭が、その光と同じ色になって次第にほどけていく。


 光に包まれた沙那江は、すっと手を上げ、とある方向を指し示した。

「花代さん、このまま進めば、麓までの道に出ます。まやかしの破られた今、あの火で上がった煙はきっと誰からでも見えるでしょう。崖崩れを直しに来ていた工事の車が、きっと心配して近くまで来ているでしょうから、その車に乗せてもらうと、きっと良いかと思われますよ」

 花代は沙那江の言葉にうなずく。そこで花代は、ハッと思い出したように息を吸った。

「そうだ。私、あの白い浴衣を持って帰って来ちゃったの。沙那江さん、そうしても良かったかしら?」

「では……」

 沙那江は笑って花代に耳打ちした。それに花代は同じく笑ってうなずく。


 二人は最後、握手を交わす。夕日が沈むその海のきらめきのように、沙那江の全身は輝いて。そうして同じ光になって、沙那江は消えた。いましめから解き放たれ、懐かしい故郷の海へと還るように。

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