27題目.しっぽ
ごめんなさい、ごめんなさい……! そう心に叫びが渦巻くも、無月の術によって身動きが取れず頬に涙すらも伝わない自分の隷属に、沙那江は絶望した。次は花代さんがなってしまう。無月の下で、永遠の隷属を――
その時。ぱち、ぱち……。と耳慣れない音がした。夏の暑さとは違う妙な熱気を感じる。風が沙那江の横を流れ、焦げくさい臭いが鼻を掠めた。
目を上げると明々とした橙色の光。それが強く強く沙那江の瞳に映った。庵の裏手から火が上がっている。
無月もそれに気づき、牙を振り下ろしかけた顔をハッと上げる。その顔に、沙那江がこれまで見たこともない表情が浮かんでいた。冷酷無比、余裕綽々の瓦解した、焦りの表情が。
尻尾を出した。ならばその尻尾を掴むまで。
無月は花代を突き飛ばし、己の隠れ家たる庵に付けられた火を消さんと、その術を以て空に飛び上がろうとした。その足を術の解けた花代の腕がガシッと掴む。
「沙那江さんも!」
花代の声が耳に届き、気づいたら沙那江の足は走り出していた。自分の術も解けていた。それほどまでに無月の意識が火の方へと逸れているのだろう。
無月の足にしがみつく。縋りつくのではない。このまま引き摺り下ろしてやるのだ……! 無月は何度も沙那江を足蹴にしたが、もう沙那江は怯まなかった。
沙那江はすぐ横にいる花代に、声を張り上げ訊ねた。
「あの火は、どうやって?」
「ガラス瓶!」
花代が叫び返す。その口がニッと笑った。
「わざわざ拾ってリュックに入れといてくれて、ありがとね、沙那江さん!」
沙那江はつられたようにニッと笑った。花代は言う。
「詳しい話は後! 今はこの化け物をどうにかする!」




