25題目.じりじり
日の傾いていく中。花代はその場に小さくうずくまるように屈み込んでいた。建物の陰に向かって。しかし日が差すところで。
夕暮れへと向かっていく日が、じりじりと花代の背中に照りつける。だが花代は日陰へ逃げずにその場に留まり続けた。その手元には何かを持っているようだ。その何かを持ったまま、花代は微動だにしない。
(……早く)
そう焦るような気持ちが花代の中にあった。花代の背中に汗がにじむ。
(早く、早く。お願いだから、早く……!)
そうするうちに、やがて空は夕焼けに染まる。辺りがゆるやかに暗くなっていく。
その中で、花代はほぅと息を一つついた。そうして閉じた口には、安堵と満足感の入りまじった薄っすらとした微笑みが浮かんだ。
その時。辺りが不意に暗くなる。日の落ちる速さ以上に、あまりに唐突に。
花代は振り返った。その目に映る空。これまでは穏やかな夕焼け空のはずだったが、今振り向き見上げてみると、それは血を流したかのように赤い空だった。そこに黒い入道雲が浮かんでいる。まるでぬっと立ちはだかるかのように。そしてその下に、一つの人影があった。
花代は無言ですっくと立ち上がった。突如現れた影に対峙するようにまっすぐに立つ。
その人影は当然、沙那江ではない。黒い着物を纏った男の姿。袖に手を差し入れ腕組みをしている。不自然に薄暗い中、その足元に伸びるはずの影は辺りに這い寄る闇と溶け合って、あたかも花代に向かってじりじりとその手を伸ばすかのように見えた。
背中がざわりとしたのは、先ほどかいた汗が夕暮れの空気で冷えたからというわけではないだろう。花代は影を見据えたまま、口元を固く引き結んだ。




