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嘉永生庵  作者: Ellie Blue
24/31

24題目.爪先

 気まぐれに、爪を染めてみる。指の先に花を置く。ホウセンカの花を。

 花代、あの迷い込んできた女性(ひと)は、爪に色を乗せていた。まるで透き通った夕焼け空のようなグラデーション。それがつやつやと鮮やかに輝いて。沙那江はその指先を思い出す。今の時代には、あんなものがあるのね。あれはとても綺麗だった。それを真似てみたくなったのだ。ほんの、気まぐれに。

 花の色が爪に移るまで、しばしの時間を要する。その間家事は出来ない。だがそれも、今の沙那江にとってはまったく問題にならなかった。

 ここ数日の間は、世話をするべき迷い人の存在があった。だがその迷い人、花代はもういない。沙那江の主人(・・)たる無月の世話なぞは夜のほんの一時(いっとき)だけだ。持て余した時間だけが、無駄に無為に、ここに在った。


 染める間、沙那江は考える。夢を、見ていたのだ。これは後悔などではない。ただ元の暮らしに戻るだけ。きっとこれで良かった。夢は夢のままで。揺らぐ夏の空気の中に見た遠く遠くの蜃気楼。自分が呪いから解き放たれ、外の世界で生きて死ぬこと。そんな、夢を。


 爪に色がつくのを待っているうちに、空はいつしか夕焼けに染まりはじめた。

 沙那江はそっと、指先に乗せた花を外す。そこにはほんのりとした赤い色が。爪に色がつくと、手全体の血色が良いようにすら見える。死人のような真っ白な手から、まるで生きている人のあたたかな手のような。もはや羨望にも満たない、淡い淡い憧れ。まるでそれが表れたかのように、沙那江の爪先は淡く淡く染まっていた。


(……もう、時間ね)

 その後、沙那江は夢想したそれらの物事を消し飛ばすかのようにフッと息を吐く。部屋を出て、庵の最奥、陰気な暗がりへと向かうべく、沙那江は立ち上がった。

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