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嘉永生庵  作者: Ellie Blue
20/31

20題目.包み紙

 襖を開いて、花代は沙那江と相対する。

「花代さんの服、乾きましたので」

 沙那江は伏目がちに口を開く。その手には丁寧に畳まれた服。

「それとこちら浴衣も。新しいものです。もし、花代さんが宜しければ」

 服を受け取る折、手が触れ合う。沙那江のひんやりした手と、花代の温かな手。沙那江の真っ白い手と、花代の爪を塗った手。

 手を離す時。沙那江は最後、その視線を上げて花代の目をじっと見つめた。




 襖を閉め、沙那江から受け取った服を一度置く。そして花代は、上の方に重ねられた自分の着てきた洋服を手に取った。

 そこで花代は、服の間に懐紙が挟まれていることに気がついた。洋服と浴衣の間、白い布の上。二つに折り畳まれたそれを拾い上げ、中を開く。そこに書き付けられた筆跡は、あの蔵から持ち出した書物にあったものと同じであった。


【知られじと懐包みしもあらまほし花移ろひて彼誰の空】




 花代は服を着替える。紺のカットソーにベージュのパンツ。それらは清潔にパリッと乾いていた。

 着た浴衣は畳んで置いて。その上に、蔵から持ち出したままだったあの冊子を重ねた。


 花代は襖を開け、そして閉める。背中には小さめのリュック。茶色に染めた短めの髪を一つに縛って。ここへ来た時と同じように。

 花代は口を引き結んだまま、静かにその足を、庵の出入口へ通じる方へと向けた。

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