19題目.網戸
花代は部屋に戻り、蚊帳の網目越しに外を見る。蚊帳はいつの間にやら沙那江が張ってくれたのだろう。素っ気ない顔をしていながらも細やかに気が利く女性なのだと、一時は訝しく思うこともありながらも花代は気づいていた。
花代は思う。先ほどの沙那江の言葉。決して嘘はついていないのだろう。けれどどこか何かの隔たりを感じる。それこそ、網戸越しにものを見る時のような。
沙那江のあの口ぶりは態度は、言うなれば逆効果だと思う。沙那江はそれに気づいているのだろうか? ……いや、きっと気づいてはいる。
今の沙那江は、きっと誰がどう見ても彼女自身が口にした「素晴らしき永遠」などでは決してない。受ける印象から、それこそ暗に“ここから出ていけ”と言っているかのような。自分自身は網戸の内側、その奥に独り閉じ篭ったままで……――
その時。襖が軽く叩かれ沙那江が部屋にやってきた。
沙那江は思う。庵の中の小さな自室にて。これで良かったのよ、きっと。後はそう、どうとでもなれ――
沙那江は、自身の部屋にも吊った蚊帳越しにそっと外の様子を眺める。自分の部屋の外、その網目越しに見える景色は霞むかの如く遠く遠く見える。沙那江にとってはどんな天気であっても外は眩しく見えるように思えて。それをどこか恨めしく羨ましく眺めていた。
自室の一角に掛けたままの新しく出来た白い浴衣は、まだ花代に渡せていない。……そろそろ、洗った花代の洋服も乾く頃合いだろうか。
沙那江は立ち上がり部屋を出て、チラと庵の奥を見やる。日が出ているうちは静かなものだ。特に、今日みたいに雲越しにも太陽が強く輝いていることがよく分かる日ならば。
そのまま沙那江は、花代のための服を手に持って、彼女の部屋の襖を軽く叩いた。