15題目.解読
花代は風呂から上がった後、与えられた部屋に戻った。襖を開け、注意深く閉じる。
花代は今、昨日とはまた別の白地に藍染めの浴衣を着ている。洋服は沙那江が洗うと言うので持っていかれていた。今部屋にある花代の持ち物は、敷かれた布団の脇に置かれた小さなリュックのみ。
花代は布団の上に膝を突き手を伸ばした。自分のリュックの方、ではなくその後ろ。床に接して備え付けられた背の低い棚の方へ。引戸を細く開け、棚の奥に手を突っ込んだ。指先にコツンと硬いものが触れる。
あった。
花代は触れたものを掴んで引っ張り出した。それは色褪せ古ぼけた和綴じの紙束。あの蔵で見つけたものだ。花代はこっそりとそれを持ち出していたのだ。
あの夕暮れ時、沙那江の手によって蔵の中に閉じ込められていたことに花代は気がついていた。内側から開かないよう何か細工をされたことを肌で感じたし、そも、いつからか胸が騒めくような予感もしていた。
沙那江は何かを企んでいる。
花代がこの山へ来た本当の理由も、沙那江にはとうに知られているのだろう。花代が今朝に夢うつつの中で感じたものは今や色濃く疑いようがない。沙那江は花代が生を捨てに来たことを分かっている。それに失敗したことも。そんな人間を保護し、さりとてすぐに元の場所に帰そうとするでもなく。では沙那江はその上で何を――
沙那江自身に探りを入れてみたところで、川の流れに翻弄される木の葉のよう、あっさりとはぐらかされるだろうという確信めいた予感が花代にはあった。
ならば何かこちらから手がかりを。
花代は本の頁をめくった。崩し字ながらもきれいに書かれており、どうにか読み解けないこともない。花代はその文字を一つ一つ追っていった。
「ひとつ、ひとかげゆらめいて……――」




