表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘉永生庵  作者: Ellie Blue
13/31

13題目.牙

 無月は沙那江の死人(しびと)のように白い顔を見下ろし、薄く嗤う。口元に覗くは牙。それは赤黒く沈んだ夕闇の中、浮き出るかのように嫌にはっきりと見えた。

「ま、お前とは長い付き合いだ。多少の計らいはしてやらぬこともない。せいぜいよく考えてみることだな」

 そして無月の姿は闇に紛れ跡形も無くフッと消えた。

 沙那江は長い息をついた後、振り返り、音を立てないようにしてそっと閂を外した。

「花代さん」

 そう声を掛けて蔵の扉に手をやり、ぎぃぃ、と扉の開く音と共に中を覗き込む。花代は一つの木箱の蓋を開け見ていたところのようだった。薄暗い蔵の中、手を止めて振り返る。

「お風呂の支度ができました。……遅くなってしまいましたね、すみません」


 蔵から出る折。沙那江の横を通り花代は口を開いた。

「沙那江さん、肩のところに染みが……」

「ああ……」

 沙那江はそう、曖昧な声を発した。

「何でもありませんよ。これも古い着物ですし染みがあったとて大したことは……。ありがとうございます」

 花代の心配を歯牙にも掛けずといった風に沙那江は答える。取ってつけたような礼の言葉だった。


 花代が視線を沙那江から外した後、沙那江は冷たい己の首元に手をやった。そこに二つ空いたはずの穴は、もう既に塞がっていた。

 花代の背中を見送った後。沙那江は蔵には入らずに庵の方へと向かった。別の風鈴など蔵に無いということは知っていた。ただ、時間を稼いで誤魔化しただけ。

『せいぜいよく考えてみることだな』

 先ほどの無月の言葉が、追いかけてくるように沙那江の頭に響く。

「……そうだわ、花代さんの寝間着の浴衣を用意しないと。今お召しの服も洗ってしまわないとですしね」

 まるで自身に言い聞かせるかのように、沙那江はわざわざそう声に出した。時間稼ぎの誤魔化しのような、独り言だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ