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嘉永生庵  作者: Ellie Blue
11/31

11題目.蝶番

 粥と漬物の朝餉を終えて、沙那江は申し訳なさそうに花代にこう告げた。

「昨晩『朝になったら麓に降りて連絡も』と私、花代さんにお伝えしましたが……」

 そういえば。花代はもう遠いことのように思われる、昨晩の沙那江との会話を思い出した。沙那江は続ける。

「先ほど見てきたところ、昨日の雨のせいか、麓への道が崖が崩れて埋まってしまっていて……。工事の方が来てくれるまでしばらくかかってしまいそうかと」

 申し訳ありませんと頭を下げる沙那江に、花代は慌てて首を横に振って見せた。 なにせ他の宿など、はな(・・)から予約してはいないのだから。花代は、そのことを何かしら軽くでも伝えておこうかと口を開きかけた。……きっと少なくとも昨夜には、沙那江に何かしらは察知されているだろうという気持ちもあった。

 だが沙那江は盆を持ってすっと立ち上がり、ごく自然に花代のことを躱した。それはやんわりとした拒絶のようにも感じられて。深くを聞くつもりはないのか。

 それでも沙那江はやわらかく微笑む。

「その間、どうぞ休息なさっていて」




 夕暮れ時。真っ赤に染まった空の北側に、黒い雲がぬっと黙って湧き上がってきているのが見える。

 花代は沙那江から、手伝ってほしいことがあると呼ばれて向かった。曰く、風鈴が壊れてしまったそうで、蔵の中に別の風鈴がないか探す手伝いをしてほしいとのこと。沙那江は風呂の支度をした後で来るそうだ。

 蔵の扉を開く。ぎぃぃ、と蝶番がたてる軋む音。

 そっと足を踏み入れた扉の中は薄暗い。高窓から差す光で埃が舞っているのが見える。蔵の中に並んだいっぱいの古びた棚には、木の箱やら紙の束やらが詰め込まれていた。

 すぐに見つかれば良いんだけど……。花代は溜め息をつき、まずは手近な木箱を一つ引っ張り出した。

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