第8話:断罪イベント、いざ開幕!
それは、ある春の午後だった。
青空の下、学園の講堂に貴族の令息令嬢、教師、王族関係者、そして魔導監察官たちまでが集まり、空気は異様な緊張に包まれていた。
これは、ゲームの最終章にあたるイベント──
断罪イベント。
本来なら、ヒロインのマリアが中心となり、悪役令嬢セリーナが婚約者の王子から公開非難を受け、学園追放、処刑、または国外追放などの悲惨なエンドへ向かう……はずだった。
でも──
「本日は、グランフォード令嬢に関する不正疑惑について、真相を明らかにいたします」
王太子アレクシスが壇上に立ったとき、私は目を閉じて深呼吸した。
(大丈夫。……きっと、大丈夫)
断罪される可能性はまだある。だけど、それ以上に今は──
「我が婚約者であるセリーナ・グランフォード嬢は、私の信頼に足る人物であると、この場で宣言する!」
──えっ!?
ざわめきが広がる講堂。
王子、まさかのセリーナ擁護スタート!?
「一部の者が流布している“セリーナがマリア嬢をいじめている”という噂は、根拠に乏しい捏造だ。調査の結果、いかなる証拠も見つからなかった」
「ま、待ってくださいアレクシス様!」
突然、壇上にマリアが駆け寄る。
「セリーナ様は、私から王子様や騎士団長を奪いました! 私は、ただ“ゲーム通り”に生きていただけなのに!」
……ああ。
彼女、もう限界だったんだ。
「……マリア嬢。申し訳ないが、あなたの発言にはいくつか不審な点がある」
アレイン騎士団長が、淡々と語り始める。
「あなたが生徒会に提出した告発文には、セリーナ様しか知り得ないはずの情報が含まれていた。さらに、学園内の封印区域に勝手に立ち入った記録もある」
「そ、それは……!」
マリアの顔が、青ざめていく。
「セリーナは、君を傷つけたりしていない。むしろ、何度も君を庇っていた。君がそれをどう受け取ったかは分からないが……私は彼女を信じる」
──その瞬間だった。
「どうしてよおおおおおおお!!!」
マリアの体から、黒い魔力が吹き上がった。
「私はヒロインよ! 世界に祝福された主人公なのに、なんで私が……!」
「……っ、暴走魔力反応!? 全員、離れろ!」
「誰にも、譲らない! 全部、私のものなのよ!!」
マリアの体が、魔力の奔流に包まれ、“闇堕ちルート”が始まろうとしていた。
──ああ、違う。
この世界は、もうゲームじゃない。
私もマリアも、ただの駒じゃない。運命を壊すなら、今──!
「マリアッ!!」
私は駆け出していた。
王子も騎士団長も止めようとするけど、関係ない。
彼女の目の前まで走って、私は叫んだ。
「それでも、私はあなたの味方よ!!」
「……なに、を……?」
「あなたが誰に嫉妬しても、何を憎んでも、私はあなたを“ヒロイン”だって思ってる! だから、戻ってきて!」
涙がこぼれた。心からの言葉だった。
マリアの魔力が、少しずつ、静まっていく。
「……どうして……そんな顔で……見ないでよ……」
「友達だからよ」
次の瞬間、マリアは崩れるようにその場に倒れた。
その後、マリアは魔力の暴走による衝動と判定され、隔離施設で回復を受けることに。処罰はされなかった。
そして、私は──
「……断罪、されなかった……!」
ついに、死亡フラグを、闇堕ちフラグを、全部回避した。
「ふふ……ふふふふふ……やったあああああああ!!」
廊下でひとり、変な笑いが漏れたのは、仕方ないことでしょう?
でも、まだ終わりじゃない。
これからは──“私自身の人生”を、生きていくのだから。




