第7話:本命ヒロイン、実は転生者でした!?
王太子からの告白で、婚約破棄どころか本決定してしまった私の婚約。
「どうしてこうなったの……私は、ただ静かに田舎でスローライフを送りたいだけなのに……」
パーティの夜以降、学園中がざわついている。
セリーナ・グランフォードは王太子に心から愛されていた、という噂が広まり、令嬢たちは私を遠巻きに見てはコソコソと何かを話している。
その中で──唯一、私に話しかけてこないのがマリア・スノウだった。
彼女は、何も言わない。ただ静かに、私を見つめてくる。
その視線が、痛い。怖い。殺意すら感じる。
私は気づいていた。
マリアがこの世界の“ヒロイン”であり、そしておそらく──
「私と同じ、転生者だ」
確信に変わったのは、数日後の放課後。
誰もいない温室。
私が一人で植物を眺めていると、マリアが静かに入ってきた。
「……セリーナ様。少し、お話できますか?」
背筋に冷たいものが走る。
でも、逃げるわけにはいかなかった。
「……ええ、どうぞ」
マリアは、無表情のまま、白いバラの花にそっと手を添えた。
「この世界、乙女ゲームですよね?」
その一言で、すべてが確定した。
「《ローズ・エタニティ》。元はスマホアプリで配信されてた、王道恋愛ゲーム。でもマルチエンドで……あなたは、全ルートでバッドエンドを迎える悪役令嬢」
「……そうね。よく知っているわ」
マリアは初めて、笑った。
その笑みは、皮肉で満ちていた。
「私は、主人公。すべてのルートで、幸せになれるはずだったのに。どうして、あなたが王子様に愛されてるんですか?」
「それは私が……王子に好かれるようなことを……してしまったからで……」
「違います!」
マリアの声が、鋭く響いた。
「あなたが壊したんです。私の“ルート”を。私の幸せを! 私が努力してきたのに……!」
私の胸が締めつけられる。
わかる。わかるよ、マリア。あなたも“元の世界”に未練があったんだよね?
でも──
「私は、死にたくなかった。ただそれだけなの。マリア、あなたの幸せを奪うつもりなんてなかったのよ……!」
その言葉に、マリアの瞳が揺れる。だが……
「じゃあ、今すぐ王子との婚約を破棄してください」
「……っ」
それは……できない。
いま王子との婚約を破棄すれば、“わがままで婚約を反故にした悪役”として断罪イベントに直行する可能性が高すぎる。
私が迷っていると、マリアはぽつりと呟いた。
「……セリーナ様。“断罪イベント”は、変えられないんですよ。どんなにルートが狂っても、あの舞踏会の日、“誰か”は断罪されるように、世界はできているんです」
──それは、運命の確定フラグ。
私はその言葉に、背筋が凍った。
「だから、私がこの世界を“正しい形”に戻します。私は“主人公”なんですから」
彼女はそう言って、微笑んだ。
マリアは、きっと動き出す。
“元のルート”を取り戻すために──そのためには、私を悪役として祭り上げるつもりだ。
断罪エンドは、今もなお、静かに迫ってきている。
でも……私は負けない。
ヒロインでもない、悪役でもない、“ただの転生者”として、私は──
「私の運命は、私が決める!」
そしてその夜、私は決意した。
“断罪イベント”を、この世界ごとぶっ壊してみせる──!




