第5話:闇堕ちルート?待って、それ私じゃない!
「私が……闇堕ちする……?」
夜の部屋で開いたシナリオメモを見ながら、私は震えていた。
そう、セリーナ・グランフォードには**"闇堕ちルート"というサブイベント**が存在する。
恋愛も友情も失い、心を閉ざした彼女は、魔導器に取り込まれ――暴走。
王都を半壊させて最終的に“討伐対象”になる、もうひとつのバッドエンド。
「やばいじゃん……! 失恋して落ち込んだら、世界崩壊するの!? どんだけ情緒不安定なのよ、この悪役令嬢!」
ただし、これは王子から「君に愛はなかった」と言われたあと、味方が一人もいなければ発生するルート。
でも待って。今の私、なぜか好感度爆上がりだし、王子もアレインも味方……どころか、恋愛対象になってる感あるし……。
──となれば、このルートには入らないはず。
はずなんだけど。
最近、学園の生徒たちの視線が、ちょっと怖い。
「……なによ、あの子。王太子殿下と騎士団長、両方に気に入られてるって噂じゃない?」
「前はマリアちゃんに優しかったのに、最近じゃやけに距離取ってるし……」
「本性を隠してるだけなんじゃないの?」
そう。
“断罪イベント”は、民衆や生徒たちの「悪役令嬢セリーナへの嫌悪感」が最終的に爆発することで発動する。
つまり、どれだけ攻略対象に好かれていても──
周囲の空気が悪化すれば、断罪イベントは起きる。
しかも、周囲に誰も味方がいなければ、それは“闇堕ち”へ直結する!
「ちょ、ちょっと待って!? それじゃあ……今の私、“闇堕ちフラグ”立ってるのでは!?」
焦った私は、マリアに話しかけに行った。
もう一度、友好ルートに戻して、味方を作っておくために。
「マリア、少しお話できるかしら?」
「あっ、セリーナ様……はい、もちろん!」
笑顔で答えてくれるマリアに、少しだけホッとする。けど……どこか目が笑ってない。
「……セリーナ様って、王子様やアレイン様に好かれてますよね」
「え? い、いや、私はむしろ婚約破棄を……」
「羨ましいです」
その瞬間、マリアの瞳がすっと冷たくなった。
「私、前世でこの世界の“ゲーム”をプレイしてたんです。ヒロインが、みんなに愛されて幸せになる話」
「えっ……まさか……」
「なのに今、セリーナ様が全部、持っていってるじゃないですか」
──やっぱり、このマリアも転生者!?
「私は、絶対にセリーナ様を“断罪”します。あなたがどれだけ猫を被っていても、私は知っています。……あなたは、“悪役令嬢”ですから」
マリアの笑顔の裏に、ゾッとする殺意が見えた。
「まずいまずいまずいまずい!!!」
部屋に戻った私は、頭を抱えて叫んだ。
まさかヒロインが闇堕ちしてるなんて誰が予想した!?
──いや、待てよ。
本来、闇堕ちするのはセリーナのはず。
でも今、その兆候が出ているのはマリア……だとすると。
「この世界、フラグがすべて入れ替わってる!?」
主人公が悪役に、悪役が主人公に。
断罪されるのは、もしかして──
「……マリア?」
もうこれは、断罪回避だけじゃ済まない。
私は、生き延びるだけじゃなく、物語の構造そのものを変えなきゃいけないのかも……!
私、まだ死にたくない!!
なんとしても、死亡エンドも、闇堕ちエンドも、全部回避してやる!!




