Chapter.1-6:取引終了
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次回は、7/22(火)までの更新を予定しております。よければ、次回もぜひ見てください!
【補足】
・ボラティリティ:株価の変動幅が大きいこと
・MACD:株式市場でトレンドの方向性や売買タイミングを判断するために使用されるテクニカル分析指標
「買うなら、今しかない。」
昼休みの終わり。僕たちは、ついに午後の勝負銘柄を決定した。
ゴールデンクロスが出現した複数の銘柄。その中でも、特に直近の株価が上昇しており、出来高も安定している中型株を中心にいくつか選んだ。
「この4つの銘柄、それぞれに25%ずつ資金を振り分けましょう。分散投資でリスクを減らします。」
天吹さんがホワイトボードに資金配分を書き出す。
「ちょっと待って、単に25%ずつ割り振るんじゃなくて、これも織り交ぜて均等に近くなるよう割り振ろう。」
「やっぱり竹田さん...。あなた、投資の天才ね。...わかったは、それでいきましょう。」
僕の考えに、天吹さんや阿部先生は驚愕の表情でいっぱいになっていた。
しかし、そのことに反応している暇は今の僕たちになかった。
「それで……発注のタイミングは?」
「後場の寄り付き直後じゃなくて、市場取引再開後、15分から20分あたり。出来高が動き始めて、方向性が見えてきたところで指値を入れて。」
「OK……準備するね。」
そして、12時半からの市場再開後、20分ほどですべての株価を買い終えた。
【注文確定(投資部)】
◆売却
・信越化学工業:100株(指値:4699円(買値:4852円:-153円):469,900円)
・トヨタ自動車:200株(指値:2388円(買値:2363円:+25円):477,600円)
※合計:947,500円(買値:957,800円:-10,300)
◆購入
・フリー(株):(指値:3785円)
・ダイドーGHD:(指値:2690円)
・マルハニチロ(株):(指値:3047円)
・リログループ:(指値:1723円)
そこから少し僕たちはチャートの様子を眺めていたが、5分ほどで午後の予鈴のチャイムが鳴ってしまった。だが、僕たちは席を立たなかった。
どうせ午後になっても授業に身が入らないのは明白である。だったら授業に出るよりも、ここで勝負のために時間を費やした方がはるかに効果的だ。
「阿部先生、僕、なんだか体調が悪いので午後の授業は休みます。」
僕の言葉に呼応するように「私も体調悪いので休みます」と天吹さんも口にした。
「はあ、わかったわ、今日だけ特別よ。ただ、私は授業があるからもう行くわね。二人とも頑張って。」
阿部先生はため息交じりではあったが僕たちを応援する形で、部室を後にした。
「……天吹さん。無理に付き合わせちゃってごめんね。」
「いえ、付き合わせるだなんてそんな!これは、投資部の問題です。最後まで付き合いますよ。」
そこからは2人でノートパソコンの画面に張り付きながら決済のタイミングを見極めていく。
株価の動きはリアルタイムで変化し、緊張感が張りつめる。指値注文が約定するたびに、胸の奥がざわつく。
14時。相場はまだ動いていた。
「ひとつ、約定しました!」
天吹さんの声に、僕も反応する。モニター上の数値が、数秒おきに更新されていく。リログループの株価は一瞬下げたかと思えば、すぐに反発し、また下がる。まるで感情の読めない生き物のように、気まぐれな値動きを見せていた。
「リログループ、ちょっとボラティリティが大きいな……損切りする?」
「いえ、もう少し……もう少しだけ様子を見ましょう。MACDはプラスにあるので……」
決断は常に一瞬。判断を誤れば、一気に損失が広がる。
「……マルハニチロ、ちょっと動きが怪しい。ここで利確します!」
「了解、じゃあこっちはダイドーGHDに追加で資金振るね!」
まるで同じリズムで呼吸を合わせるように、僕たちは注文を打ち直し、チャートの動きをにらんだ。
14時30分。板情報と気配値、トレンドラインを何度も確認しながら、最適な売却のタイミングを探る。僕たちはパソコンの前から一歩も動かず、言葉も最小限で、ただ集中していた。
そして──時計の針が、ついに15時半を指した。
「……終わった……」
チャートの動きがピタリと止まる。取引終了の合図。
「はぁ……」
張りつめていた空気が、一気に弛緩した。僕は大きく息を吐き、椅子の背もたれに体を預ける。
「これで……すべてが決まったんだよね」
「……はい。もう、後は結果を待つだけです」
部室に静けさが戻る。パソコンのモニターには、今日一日の取引履歴と、現在の含み損益が並んでいた。
差し引きでどれだけの利益が出たのか、そして校長先生の運用額と比較してどうなったのか──まだわからない。
だが、それでも僕たちは、後悔のない一手を打ち切った。
「ふぅ……あとは、結果を待つだけか」
「……結果が出るのは、放課後ですね。きっと、校長先生も来るでしょう」
「うん。行こう、迎え撃とう」
――勝ったか、負けたか。
全ての運命は、放課後で明らかになる。