Chapter.0:プロローグ
「利益上昇率……3%、5%……」
「すごい……!」
画面に映る運用結果を見て、私は思わず声を漏らしていた。
投資の世界に少しでも触れたことがある人間なら、きっと気づく。
彼の行動が、どれだけ“異常”なものかを。
ビギナーズラックではない。
感覚に頼っているように見えて、そこには明確な規則と判断があった。
確実に利益を積み上げるその様子は、常識を逸していた。
なぜ、こんなにも簡単に利益を生み出せるのか――。
「この相場はかなり読みづらかったはずなのに……竹田さん、これすごい結果だよ!初心者なのに、なんでこんなに利益を出せるの?」
「うーん、なんとなくだけど……勘でこれが良さそうって思ったんだ。だから、買ってみたんだけどね」
当の本人は、まるで偶然を装うかのような態度だった。
投資の天才と聞けば、多くの人は"ウォーレン・バフェット"、"ジョージ・ソロス"、"ジム・ロジャーズ"といった名を思い浮かべるだろう。
だが私にとって、真の“天才”とは今、目の前にいるこの人物だ。
理論も経験も情報も持ちえない彼が、信じられない利益を次々と叩き出すその姿は、まさに常識を覆す“天才”そのものだった。
――この人なら、もしかしたらこの部活動を救えるかもしれない。
「まあ、今回は運がよかったんだよ、きっと」
そう言って笑う彼に、私は静かに頭を下げた。
「竹田明日真さん。改めてお願いします。この部に、投資部に入部していただけませんか?」
あれが、私と彼の最初の出会いだった。
そしてきっと、すべての始まりでもあった。