5 二人に挟まれて
(えっと、この状況は一体……)
今、アリシアは庭園のガゼボでお茶を飲んでいる。右隣りには現在の婚約者であるフレデリック、左隣には未来の夫と言い張るフレンがアリシアを挟んで座っているのだ。
「俺がアリシアとお茶をしているんですよ、邪魔しないでください」
「いや、俺がアリシアとお茶してるんだ。お前こそ邪魔するなよ」
アリシアを真ん中にしてフレデリックとフレンがにらみ合っている。
(なんなのよもう!)
両隣の二人はアリシアの肩と腕に密着した状態で座っている。男性にこんなにも密着されたことのないアリシアはどうしていいかわからない。しかも、二人とも同一人物だけあって見た目がいい。年の近い一つ上のフレデリックも十歳上のフレデリック、もといフレンもどちらもイケメンなのだ。そんな二人に挟まれてアリシアは今にも沸騰しそうなほど顔が赤くなっている。
「アリシア、顔が赤いけれど熱でもあるんですか?心配だ。体調がすぐれない?」
心配そうに顔を覗き込むフレデリックと目が合うが、その優しく美しい瞳に思わず吸い込まれそうになる。
「だ、大丈夫です!」
すぐに目をそらしてうつむくと、今度はフレンがニヤニヤしながらアリシアの顔を覗き込む。
「もしかして俺たちに挟まれて照れているのか?若いころのアリシアは反応がうぶで可愛いな」
静かにアリシアの髪の毛を指で梳き、微笑む。その微笑みがあまりにも色気に満ちていて、アリシアはあまりの恥ずかしさにまたすぐにうつむいた。
(どうしよう、いちいち胸がドキドキしてしまってもたないわ。本当にここから逃げ出したい!けど、逃げられない!)
「気安くアリシアに触るな。それにからかうなんて失礼だろ」
少しムッとしながら、フレデリックはアリシアの髪の毛をいじるフレンの手をぱしっと軽くたたいた。
「おお、怖。どうせ髪の毛を触る俺がうらやましいんだろ?お前も婚約者なんだから堂々とアリシアの髪の毛のひとつやふたつ触ればいいだろうに。それとも怖気づいてできないか?」
「……っ!なんなんだよあんた!いちいちうるさいな!」
「~いい加減にしてください!」
両隣でぎゃんぎゃんと言い合う二人にアリシアは目を瞑って叫んだ。さすがの二人もアリシアの様子に驚き、すぐにしゅんとなる。
「……すみません」
「……すまない」
大人しくなった二人を見て、アリシアはふうっとため息をついた。
(こういうところは息がピッタリなのね)
「ほらこれ。アリシアの好物だろ」
フレンがしおらしくなりながらおもむろに目の前のケーキを差し出す。それは生クリームとイチゴの一口サイズのプチケーキだった。他にもさまざまな種類のプチケーキやクッキー、マカロンなどが目の前のテーブルに並んでいるが、一番好きなものを言い当てられている。
(どうして、わたしの好きなものを知ってるの?)
少し驚いた顔でフレンを見つめると、フレンはフッと嬉しそうに微笑んだ。
「どうして知ってるの、って顔してるな。当たり前だろ、俺はアリシアの未来の夫だ。アリシアの好物も嫌いなものもなんでも知ってる」
そうだった、この人は自分の未来の夫だった。信じられないことだが、さまざまな事柄がそれを証明している。ジッと目の前に差し出されたケーキを見つめていると、隣から手が伸びてきてそのケーキにフォークが突き刺さる。
「……これが好きだとは知りませんでした。はい、どうぞ」
フレデリックが掴んだフォークを静かに上げて、ケーキをアリシアへ向ける。
(え?どうぞ?)
どういうことだろう。アリシアがきょとんとした顔をすると、フレデリックは真顔でアリシアの口元にケーキを持っていく。
(まさか、あーん、てこと!?)
アリシアがフレデリックの顔を凝視すると、フレデリックは静かにうなずいた。食べるまでこの手はおろさないと言わんばかりの顔だ。
(え、ええええ)
さすがにずっとこのままでは困る。戸惑いながらも、アリシアは静かに口を開けてケーキを頬張った。そんなアリシアの姿を、フレデリックは少し顔を赤らめながらも見つめている。そしてそんな二人をフレンはやれやれといった顔で眺めていた。
「美味しいですか?」
フレデリックに聞かれてアリシアはうなずくと、フレデリックは嬉しそうに微笑む。
「俺は何を見せられているんだか。若いころの俺だから俺ってことではあるけど、なんかすげぇムカつくな」
腕を組みながらはぁ、とため息をついてフレンが言う。その顔はやはり少し不満げだ。対照的に、フレデリックは嬉しそうな勝ち誇ったような顔をしている。
(口調も性格も対照的で同じ人物だとは思えなかったけれど、でもこうしてみるとやっぱり根本的なところは似てるのね)
それにしてもこの状況が一体いつまで続くのだろうかと、アリシアは二人を見ながら心の中で小さくため息をついた。
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