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39 明るい未来

フレンが過去から戻ってきて一ヶ月が経った。この日、フレンとアリシアは二人で街へ買い物にやって来た。


(そういえば、フレンが街で出会った露店商の人、未来でまた会ったらお礼を言ってくれとフレンに言ったそうだけど、あれからフレンはまだ出会っていないみたい。いつ会えるのかしら……)


 もしも会えたなら、できうる限りのお礼をしようと二人で言っていた。街へ来るのも久々だ。どこかにいないものかとアリシアは辺りを見渡す。フレンも口には出さないが同じことを考えているのだろう。何かを探すように、辺りを見渡していた。


「おや、二人揃ってお出かけかい?仲がいいね」


 突然声がして視線を向けると、そこにはフードを目深に被った一人の露店商がいた。驚いたフレンは声をあげる。


「あんた……!」

「ほほほ、無事に戻ってこれたようだね。よかったよかった」


 フードで表情は全く見えないが、どうやら喜んでくれているらしい。


「ああ、あんたのおかげでこうして無事に戻ってこれた。戻ってきて死ぬことも無くなった。ありがとう。あんたは俺に、未来で会ったら礼を言ってくれと言っていた。何が欲しい?あんたには感謝しても仕切れない、俺たちのできうる限りの礼がしたい」


 フレンの言葉に、フードを被った女性はフッと静かに笑う。


「そんなことを言っていいのかい?私がとんでもない金額を要求するとか、領地をよこせとか、そんなことを言い出す可能性だってあるだろう?そんなに簡単にホイホイと何かをあげようとするもんじゃないよ」


 フードの女性をフレンは警戒しながら、アリシアは複雑そうな顔で見つめる。


「まあ、私はそんなことは言わないがね。今回のは私の気まぐれみたいなもんさ。言ったろう?初めて会った時に、あんたたちには希望の光が見えるって。それをちゃんと見せてもらえればそれで構わないさ。あんた、最近体調がすぐれないんじゃないのかい?」


 アリシアの方へ体を向け、フードの女性は静かに言う。


(えっ、どうしてそれを……)


 確かに、最近アリシアは体調が優れない。食欲がわかず、微熱も続いて眠気も強く、精神的にも少し揺らぎがちだ。

 フードの女性の言葉とアリシアの様子に、フレンは驚いてアリシアの体に優しく手を伸ばす。


「そうなのか?アリシア!大丈夫か?」

「え、ええ、そんなに心配するほどのことでは……」

「そろそろ医者に診て貰ったらいい。あんた、自分でも薄々気付いているんだろう?」


(……!)


「アリシア?どういうことだ?」


 心配そうにアリシアを覗き込むフレンに、アリシアは動揺を隠せない。まだ予想の域を出ないのだ、言うべきかどうか迷っている時だった。


「ふ、あんたも鈍いんだねぇ。言ったろ、あんたたちには希望の光が見えるって。私はその光を消したくないと思ったからあんたに手を貸したんだよ」

「希望の、光……?……!まさか」


 そう言って、フレンは驚いたようにアリシアを見る。アリシアは戸惑いながらも小さく頷いた。


「まだ、多分、なのだけど」

「ああ!アリシア!本当なのか!」

「だから早く医者に診てもらいな。その希望の光をちゃんと育てていくことが私へのお礼になるんだよ。いいね?」

「ああ、ああ!本当にありがとう!」


 フレンがそういうと、フードの中からフッと小さく笑う声がする。


「いいかい、生きているとさまざまなことが起こる、それは生きている以上避けられないことだ。だが、向き合わなければいけないものを恐れ蓋をすれば、いずれ中身は腐り出し、蓋から中身がこぼれ落ち、後戻りができないことになってしまう。だから、向き合うべきものには恐れずにちゃんと向き合うんだよ。もちろん、向き合うべきではないものに対しては逃げたっていい。でも、向き合えるもの、向き合うべきものには臆することなく向き合いなさい。あんたたちにはそれができるんだ。自分たちでわかっただろう?」


 その言葉に、フレンとアリシアは真剣な顔でしっかりと頷く。それを見て、フードの中からフッ、と小さく笑う声がした。すると、突然フレンたちの背後から歓声が上がった。驚いてフレンたちが後ろを振り返ると、なぜか花火が打ち上がっている。


 ハッとしてフレンが露店商の方を見ると、そこには誰もいなかった。







 フレンが過去から戻ってきて数年後。


「お父様~!お帰りなさい!」

「コラ、そんなに急いで走っては危ないっていつも言っているでしょう、全くもう。お帰りなさい、フレン」


 子供たちを呆れたように眺めてから、アリシアはフレンへ嬉しそうに微笑みを向ける。そしてフレンもアリシアと子供たちを心底愛おしいという目で見つめながら微笑んだ。


「ああ、ただいま、アリシア。俺の可愛い子供たち」


 フレンは足元に駆け寄ってきた双子をヒョイッと両手にそれぞれ担ぎ上げる。一人は金髪にアパタイト色の瞳の可愛らしい男の子、一人は綺麗な黒髪にルビーの瞳の聡明そうな女の子だ。

 子供たちはフレンの顔にスリスリと頬を擦り寄せた。フレンは嬉しそうに頬を擦り返し、そんな三人をアリシアは嬉しそうに見つめていた。





「もう寝たのか?」

「絵本を読んであげたらあっという間に。あなたに久しぶりに会えて、二人とも嬉しくてきっと興奮していたのね」


 夜になり、子供たちを寝かしつけて自分たちの寝室に戻ってきたアリシアは、執務室から戻ってきたフレンにそう言って嬉しそうに微笑む。フレンが戻ってきたのは任務へ旅立ってから二週間後だった。


「俺も、二人に会えて嬉しかったし、アリシアに会えて喜びのあまり興奮してるよ」

「フレンが言うとなんだか違う意味に聞こえるわね」

「そのままのことだけど?」


 フッとフレンは笑って、アリシアの髪の毛にそっと手を伸ばす。髪の毛を耳にかけてから、頬をそっとなぞった。


「こんな幸せな日々が来るなんて、本当に奇跡みたいね」

「そうだな、あのフードの露店商は結局何者だったのか……」


 あれ以来、あのフードの女性には一度も出会っていない。まるで神様のようだ、とフレンは思う。神の気まぐれで、自分は生き戻り、愛する妻と子供たちとこうして生きていられるのだ。


「なんにせよ、俺はこの生きながらえた命をこれからも精一杯生きて、アリシアたちを愛し守っていく」


 そう言って、フレンはアリシアにそっと口付けた。顔を離すと、アリシアが幸せそうな微笑みを浮かべフレンを見つめている。


「……きゃっ」


 フレンはヒョイとアリシアを担ぎ、ベッドまで連れて行く。


「久々なんだ、たっぷり愛させてもらってもいいだろ?」

「お手柔らかにお願いします」

「善処するよ、約束はできないけど」


 フレンの言葉に、アリシアはフフッと笑う。そんなアリシアをフレンは心底愛おしいという瞳で見つめ、アリシアに覆いかぶさった。



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