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37 あの日のこと

「お姉様!」


 社交パーティー会場にたどり着くと、すぐにメリッサがアリシアの元へやってきた。メリッサが着ている濃い青色の生地に紫色の宝石の刺繍が施されているドレスは、サリオンの髪と瞳の色と同じだ。

 メリッサの後ろにはサリオンが礼服に身を包み、アリシアとフレンに微笑みかけている。


「メリッサ!サリオン!二人とも元気そうね」

「お姉様たちも!お会いできて嬉しいわ」


 キャッキャと嬉しそうにメリッサははしゃぐ。それを見てフレンは嬉しそうに目を細めた。


「フレン、久しぶりだな」

「ああ」


 サリオンがフレンに声をかける。サリオンの表情は、フレンが過去に戻る前のような危険に満ちた表情ではなく、とても柔らかい。まるで別人のようだとフレンは思った。


「メリッサとは順調のようだな」

「ああ、こんな俺に正面から向き合ってくれるのはメリッサだけだ。一緒にいればいるほどメリッサの魅力に取り憑かれるようだよ」


 サリオンはうっとりとした顔でメリッサを見つめて言う。


「あの日、メリッサが俺の孤独を理解したいと言ってくれたこともそうだけど、アリシアやフレンもそんなメリッサと俺をあたたかく見守ってくれたから、今の俺たちがいる。本当にありがとう。そして、すまなかったな。何度謝罪とお礼を言っても言い足りないくらいだよ」


 そう言ってお辞儀をするサリオンを、フレンは驚いた顔で見てからすぐに微笑んだ。


「いいんだよ。俺もアリシアも、お前たちが幸せでいるならそれでいい。みんながみんな、それぞれの幸せを形にできているならそれでいいんだ」


 そう言って、アリシアとメリッサを眺める。アリシアがメリッサと真剣に向き合ったこと、そしてメリッサがサリオンの孤独を理解したいと歩み寄ったこと、過去の様々な日々を思い出してフレンは静かに微笑む。


 ドレス姿のアリシアとメリッサは楽しそうに談笑していて、美しさと可愛らしさを同時に放つようだ。まるで自分たちの女神を見ているかのような気分になってフレンもサリオンも胸がいっぱいになる。


「しかし、いつも美しいと思っているけど、ドレス姿の二人はいつも以上に美しくてたまらないな」

「お陰で変な虫も近寄りそうなのが気に食わないけど」


 アリシアとメリッサを近くにいる貴族の男性陣が色ボケしたような目で見つめている。隙あらば声をかけお近づきにでも、などと企てている輩もいそうだ。


「確かに。まあ、俺たちが近寄らせなければいいだけの話だ」

「そうだな」


 そう言って、フレンとサリオンはキリッとした顔でアリシアとメリッサの元へ近寄った。





「サリオンとはいつも仲が良いみたいね。幸せそうでよかったわ」

「ありがとう、お姉様。誤解されやすい人だけど、でも本当は優しくて純粋で思いやりのある人なの。いつもサリオンには心の支えになってもらっているわ」


 そう言って、綺麗な瞳をアリシアに向けて微笑む。


「お姉様が私にちゃんと向き合ってくださったお陰で、私も彼に向き合おうと思えたの。そして、彼に愛を与えることができるし、彼からの愛を受け取ることもできた。私も彼もお姉様たちに酷いことをしたわ。それでもお姉様たちは私たちにちゃんと向き合って道を正してくれた。本当にごめんなさい、そして、ありがとう」

「メリッサ……」


(メリッサがこんなに変わったのも、あの時メリッサとちゃんと向き合ったからこそなのよね、そして、それができたのはフレンとフレデリックがいてくれたからだわ)


 アリシアの中にあたたかいものがどんどん流れて広がっていく。誰かがかけることもなく、憎み合うこともなく、こうして幸せに思えること、幸せを分かち合えることに嬉しさで胸が震えるようだ。


「あ、サリオンたちがこちらに来るわ。それにしても、いつも以上に色気がすごいわね」

「周囲にいる令嬢たちの目がハートになってる」


 フレンは元から人気者ではあったが、サリオンはそもそも周囲から嫌われ、社交の場には一切現れなかった。だが、メリッサと友達となり仲を深め、メリッサと恋人となり結婚すると、サリオン自身にも変化が見られる。相変わらず人嫌いなことには変わりないが、メリッサのパートナーとして恥じない行動をすると心がけており、なおかつどんな時でもメリッサがサリオンの味方になっている。そのお陰でサリオンは周囲からも認められ、今ではすっかり人気者になっている。


「私たちもうかうかしていられないわね」

「ええ、私たちの大切な旦那様ですもの!」


 そう言って、アリシアとメリッサは美しい微笑みを浮かべながら、そばにきたフレンとサリオンの手を取った。





 参加している貴族たちへの挨拶をすませ、アリシアたちは四人で談笑していた。すると、会場内に音楽が流れ始める。舞踏会の主催者である上流貴族の夫婦が華麗に踊り始めた。パートナーの決まった令息令嬢たちもそれに続いて踊り始める。今回の舞踏会では独身の令息令嬢だけではなく、夫婦で招待されている貴族もいて、次々にダンスが始まった。


「俺たちも踊ろう、アリシア」


 そう言ってフレンがアリシアの手をとる。サリオンもメリッサの手をとって、それぞれ踊り始めた。


「懐かしいな」

「そうね」


 アリシアは踊りながらふふっと微笑むと、フレンを見上げる。今まで何度もこうして二人でダンスをしてきたが、やはりあの日のことを思い出してしまう。


(あの時は、当時のフレンと踊ったんだったわ。慣れない私をリードしてくれて、頼り甲斐があって素敵だった)


「もしかして、あの日のこと思い出してる?あの時の俺は若い頃のフレデリックだよな」

「まさか妬いてるの?若い頃のあなたなのに?」

「それでも、だよ。あの頃も何度も言っただろ」


 記憶が全て噛み合った今、若い頃の自分に妬く必要はない。それでも、癖のようになんとなくそう思ってしまう自分がいて思わず苦笑する。


「ダンスが終わった後、未来から来たあなたに、相変わらずダンスが苦手なんだなって言われて不思議な気分だったわ。でも、俺としか踊らないから問題ないって言われて、不思議だけどとても嬉しかったの」


 アリシアに言われて、フレンは少し驚いた顔をしてから嬉しそうに微笑んだ。


(あの後、メリッサからもらったドリンクを飲んで、体がおかしくなって、若い頃のフレンに……)


 ふと、その時のことまで思い出してしまい、アリシアの顔が赤くなる。フレンはそんなアリシアを見て目を細め、耳元でそっと呟く。


「アリシア、あの時のことを思い出してる?」

「……っ!」


 耳まで真っ赤になるアリシアを見て、フレンは妖艶に微笑んだ。


「あの時は若い頃の俺がアリシアを助けるべきだ、と身をひいたけど、今は記憶が若い頃の俺と噛み合っているから、俺の中にちゃんとあの時の記憶がある」

「そ、そうなの?」


(それは嬉しいけど、でもやっぱり恥ずかしい)


「そんなに可愛い顔されると、屋敷に戻るまで我慢できなくなるな」

「なっ、だめよ!屋敷に戻るまで我慢して」

「ふっ、はいはい」


(もう、フレンの意地悪)


 むう、と頬を少しだけ膨らませてフレンを見上げると、フレンは愛おしいものを見つめる目でアリシアを見て優しく微笑んだ。



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