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36 記憶

 きつくきつく、フレンはアリシアを抱きしめていた。


(本当に、この人は、ちゃんと未来に戻れたんだわ……!)


「生きていてくれて、本当によかった!」


 アリシアがぎゅっとフレンの背中に回した腕の力を強めると、フレンもそれに応えるかのように抱きしめ返し、ゆっくりと体を離してアリシアの顔を覗き込む。


「まさか、思い出すなんて思わなかった」

「私も、びっくりしたわ。だって、ついさっきまで本当にあなたのその姿の記憶はなかったのよ。それなのに、急に過去の私の記憶の中に、未来の姿のあなたがいて……。あなたが未来へ帰った瞬間、私の記憶から未来のあなたは消えていた。それが、突然一気に蘇ってきたの。本当に信じられない」


 大きく目を見開いてフレンを見つめる。そして、心底嬉しそうに微笑んだ。


「生きていてくれて本当によかった。ずっと一緒にいるのは変わりないはずなのにそう思うのは不思議だけど、でもこれは、あの時の私の気持ちなのよね」

「アリシア……!」


 アリシアの言葉を聞いて、フレンはまたアリシアをきつくきつく抱きしめた。


(フレンがあの日から様子がおかしかった意味がようやくわかったわ)


「メリッサもサリオンも、あれから毒気が抜けたようになって、今では私たちにすっかり懐いているし、二人は本当に仲の良い素敵な夫婦になっている。だから、あなたが死にそうになるようなことはもう無いはずよ」

「……そう、だな、確かにそうだ。ああ」


 フレンはアリシアを抱きしめながらそっと瞳を閉じる。フレンの記憶の中にも、メリッサたちの様子や、アリシアの身に何も危険が起こっていないこと、自分がメリッサとサリオンを警戒しておらず調査すらしていないことがはっきりと蘇ってくる。


「本当に、全てが変わったんだな」


 フレンはアリシアから体を離し、アリシアの体を優しくさする。アリシアが頷くと、フレンはアリシアを真剣な顔でジッと見つめる。そしてすうっと深呼吸をして、言った。


「アリシア、愛してる」


(未来のフレンが、過去の私に何度も何度も伝えてくれた言葉……!)


 フレンの言葉を聞いたアリシアは両目を見開く。次第に目に涙が浮かび上がるが、アリシアはフワッと心底嬉しそうに微笑んだ。

 

 二人の中に、大きく暖かいどうしようもないほどの愛おしい気持ちがどんどんわき上がってくる。フレンはアリシアの唇にそっとキスをした。最初はそのキスだけで終わりかと思っていたが、なぜかフレンはアリシアの腰に手を回して、何度もキスを繰り返し、空いている方の手でアリシアのドレスのスリットに手を伸ばした。

 優しく、だが艶かしくフレンの手がアリシアの足をさすり、フレンの手の感触にアリシアはゾクリとする。


(こ、このままでは、ダメだわ)


「フレン、そろそろパーティーに行かないと」


 フレンの唇が一瞬離れた隙を見て、アリシアはフレンの体を両手で押さえながら言った。だが、フレンの瞳はギラギラとしていて、またすぐにでもアリシアに食い付かんと言わんばかりだ。


「お互いの記憶が、過去と未来が繋がった喜びを分かち合えないのか?それに、このドレスを着たアリシアを前にして、何もしないなんて無理な話だ」

「そんな……!これ以上はダメよ、せっかく身支度したのに乱れてしまう」


 訴えるような目でフレンを見ると、フレンはふう、と一つため息をついた。


「帰ってきてからなら、いいんだな?」

「う……」


 アリシアは戸惑いながらもフレンを見つめながら小さく頷く。それを見て、フレンは嬉しそうに口角を上げる。


「さっさと行ってさっさと帰ってこよう」



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