27 助けたい
「サリオンが、メリッサを狂信的に思っていて、メリッサの未来の夫……?」
サリオンはフレデリックの同級生だった男だ。同級生と言っても、フレデリックは剣術、サリオンは魔術を主に専攻していたため、同じ教室になることは稀だった。
「そのサリオンがどうしてメリッサに媚薬を渡す必要がある?あんたとアリシアがくっつけば俺がアリシアと婚約破棄するかもしれない、それがメリッサの目的だろうけど、メリッサを好きなのに俺とメリッサの仲を進めようとするなんて」
「意味がわからないよな。でもそういう男なんだよ。メリッサのためならなんでもするような、それこそアリシアの命も狙うような男だ」
フレンの言葉にフレデリックは眉間に青筋を立てる。
「サリオンのことはまだアリシアにもメリッサにも言わないでくれ。と言っても、言ったところで証拠も何もない、そもそも俺が未来から来たということはメリッサは知らないしな」
フレデリックとフレンが真剣な顔で話をしていると、コンコンとドアがノックされる。
「フレデリック様」
「アリシアか、どうぞ」
フレデリックの返事を聞いて、アリシアがそっと部屋に入ってきた。綺麗に身支度を整えて来たアリシアを見て、フレデリックもフレンも嬉しそうに微笑む。
(二人とも、そんなに嬉しそうな顔しなくても)
恥ずかしくなって思わず俯くと、フレンがフッと微笑んだ。
「アリシアも来たことだし、話を始めよう」
「あの、私は一人で座りますので、お二人は並んで座ってください。そのほうが話しやすいと思いますので」
ソファに座ろうと二人ともアリシアの横に立ったが、アリシアがやんわりと二人を遠ざける。二人は渋々と言った顔でアリシアの向かいのソファに離れて座る。
「それで、フレン様のお話というのは?」
「ああ、未来に帰る方法がわかった。露店商に声をかけられて、話をしたら未来でもその店主と話をしていたんだ」
街であったことを二人に説明すると、二人は驚いた顔をしてフレンの話に聞き入る。
「そんなこと、本当にあるんですか?」
「あるも何も、実際に俺は未来からここへ来てしまっているからな……俺だって最初はその店主のことを信じられなかったが、実際に未来で会っているのは事実だし、これも持っていた」
懐から出して片手に持っていた鉱石を見せる。
「それを使って帰れる、ということなんだな」
「そういうことらしい。チャンスは一回きり。こっちでの問題を解決しない限り、戻ったところで即死だと言われたよ」
フレンの言葉にアリシアは青ざめ、フレデリックは顔を盛大に顰める。
「あんたが死ぬってことは、俺が死ぬってことだよな」
フレデリックが静かに吐き捨てると、アリシアが悲痛な顔でフレンとフレデリックを見つめた。
(問題を解決しないと、フレン様もフレデリック様も、死んでしまう)
フレンは未来の夫、フレデリックは現婚約者で同一人物だ。フレンが未来へ戻って死んだとしたら、フレデリックもいつか突然死んでしまうのだ。フレンは未来の自分ととても仲が良さそうで、愛し合っているだろうことがわかる。自分も、フレデリックと婚約者から夫婦として日々を重ねていくうちに、愛を育んでいくのかもしれない。それが、突然絶たれてしまうのだ。
(どうしよう、そんなの嫌だわ)
ドレスをぎゅ、と掴んでアリシアは俯く。二人と過ごしたさまざまな日々が、とても尊いもののように思えてならない。それほどまで、アリシアにとってフレデリックとフレンの存在は大きなものになっていた。
「問題、と言うのは?」
「わからない。詳しいことは言われなかった。だが、きっとメリッサのことじゃないかと思う。他に思い当たる節もないしな」
フレンの言葉に、フレデリックも頷く。
「アリシア、近いうちにメリッサと話をしてくれないか?もし不安であれば俺もフレンも同席する。メリッサがなぜあんな行動に出たのか、きちんと聞く必要がある。今のアリシアとメリッサなら、もしかしたらまだ関係性を修復できるかもしれない」
フレデリックがそう言うと、俯いていたアリシアはハッとして顔を上げる。そして、頷いた。
「わ、かりました。話し合います。ちゃんと話し合って、問題を解決できるように……」
(解決できなかったらどうなるの?フレン様も、フレデリック様も、死んでしまう?)
「アリシア?」
呆然として二人を見つめるアリシアを、フレンとフレデリックは心配そうに見つめ、静かに立った。そしてアリシアを挟むようにして両隣に座る。
「アリシア、大丈夫だよアリシア」
「そんなに思い詰めなくてもいい。大丈夫だ、アリシアを一人置いていなくなったりしない」
二人とも、アリシアの肩に手をそっと添えて、顔を覗き込む。優しく、宥めるように言うと、アリシアは両目から涙をこぼして肩を震わせた。
「お二人が、お二人がいなくなってしまうなんて……そんなの、嫌です、絶対に嫌……!」
ポロポロと涙を流してそう言うアリシアを、フレンとフレデリックは両側からそっと抱きしめた。




