19 譲れない
「見て!フレデリック様よ!」
「護衛のフレン様も素敵ね」
舞踏会当日。フレデリックの選んだドレスを着たアリシアの隣にフレデリック、二人のすぐ後ろをフレンが歩いている。礼服姿に身を包んだフレデリックとフレンを見て、会場にいる令嬢たちが黄色い声をあげながらアリシアたちを見ていた。
(こんなにお美しいお二方と一緒にいるなんて、いたたまれないわ……)
もともとフレデリックは令嬢からの人気が高い。フレンはフレデリックの未来の姿なので、年を重ねてより色気が増し令嬢から熱い視線を向けられている。そんな二人と一緒にいる自分は不釣り合いなのでは、とアリシアは萎縮していた。そんなアリシア気づいて、フレデリックはアリシアにそっと微笑んだ。
「アリシア、俺の選んだドレス、とっても似合っているよ」
心の底から嬉しいと言わんばかりの微笑みを向けられ、アリシアは思わず赤面する。そんな二人を見て、周囲の令嬢たちがまた歓声を上げた。
「あのドレス、フレデリック様の瞳の色と同じね!フレデリック様に選んでいただいたなんて羨ましいわ」
羨望の眼差しを向けられて、アリシアはまたいたたまれなくなる。
「お姉さま」
「メリッサ」
緊張して固まっているアリシアを呼ぶ声がする。声のする方向を見ると、そこにはメリッサがいた。メリッサはフレデリックを見て目を輝かせるが、フレデリックはメリッサへほんの少しだけ微笑を向け、すぐにアリシアへ視線を戻す。そんなフレデリックにメリッサは一瞬ムッとするが、すぐにフレンへ話しかけた。
「フレン様、少しお時間よろしいでしょうか」
話しかけられたフレンは、フレデリックを見る。フレデリックが頷くのを見て、フレンはメリッサへ返事をした。
「お話とはなんでしょうか」
「ここではなんですので、あちらへ行きましょう」
そう言って、人気のないバルコニーへ向かっていった。
(メリッサがフレン様にお話だなんて珍しい。二人きりでお話するほど、いつの間に仲良くなっていたのかしら)
なんとなく、胸のなかにモヤモヤとしたものを感じながらアリシアがそう思っていると、周囲の令嬢たちがメリッサを見てひそひそと話をし始めた。
「あら、メリッサ様はフレン様と仲がよろしいのかしら?」
「フレデリック様を諦めて、フレデリック様の親戚の方とお近づきになろうとしてるの?」
「まあ、ずいぶんと変わり身のはやいこと」
周囲の令嬢がメリッサに対してひそひそと話をし始めたのを、フレデリックは冷ややかな瞳で見つめると、アリシアの背中にそっと手を回した。
「アリシア、二人が心配だ。変な噂を立てられないように俺たちも行こう」
「そう、ですね」
◇
「それで、話とは?」
バルコニーには人がいない。メリッサと二人きりになったフレンは警戒した表情でメリッサに問いかけた。
「お手紙に書いた通りです。フレン様はお姉さまのことを気になっていらっしゃるのでしょう?私の言う通りに動いてくだされば……」
「何か勘違いなさっているようだが、俺はアリシア嬢に特別な感情は抱いていないし、フレデリックとアリシア嬢の仲を邪魔するつもりは全くない」
はっきりと言い切るフレンに、メリッサは不機嫌そうな顔をする。
「そもそも、あなたはどうして二人の邪魔をしようとするのです?アリシア嬢はあなたの姉だ。あなたがいくらフレデリックのことを思っているといっても、婚約した二人の間にちょっかいをだそうとするのは悪趣味だと思うが」
フレンの言葉に、メリッサはキッと厳しい顔でフレンを睨みつける。いつもの可愛い顔が台無しだ。
「お姉さまはいつだって私のほしいものは譲ってくださるんです。でも、今回だけは違う。私はフレデリック様がほしい。お姉さまに譲っていただけないのなら、自分で奪うまでです。そのためならなんだってします」
「実の姉妹なのに?」
メリッサは不機嫌そうな顔のまま無言だ。
「メリッサ、いい加減にしないか」
メリッサとフレンの背後から、フレデリックの声がする。メリッサが振り返ると、厳しい顔のフレデリックと悲し気な顔のアリシアがいた。
「お二人共どうして」
「メリッサ、君がどんなに俺を慕ってくれたとしても、俺の気持ちが君に傾くことはない。こんなことしても無駄だ、いい加減あきらめてくれ」
「そんなこと、わからないじゃないですか。お姉さまとの婚約を解消して私と一緒になってくだされば、私はフレデリック様をいずれ虜にして見せます」
「メリッサ……」
強気なメリッサの発言に、アリシアは頭を殴られたような気持ちになる。いつも可憐で可愛いメリッサがどこにも見当たらない。
「メリッサ、申し訳ないのだけれど、この婚約は私の一存では解消できないの。あなたにフレデリック様をお譲りすることはできないわ。あなただってもうすぐ成人するのだし、子供ではないのだからわかるでしょう」
「お姉さまはフレデリック様のことがお好きですか?別にそうではないのですよね?そんなの、フレデリック様がかわいそう」
「それは……」
(好きかと言われてしまうと返答に困るけど、フレデリック様への気持ちが一体何なのか説明しろと言われたら余計に困ってしまうわ)
アリシアにとってフレデリックは親が決めた婚約者だ。だが、最近一緒に過ごすようになってフレデリックから向けられる思いや態度に、いちいち胸が高鳴ってしまう。この不思議な気持ちが何なのかわからず、フレデリックへの気持ちの変化に戸惑っていた。
「お二人はちゃんと思い合っていますよ。これからも、未来でも。側で見ている俺が保証します」
フレンがきっぱりとそう言うと、フレデリックもアリシアの肩をぐっと引き寄せてアリシアを腕の中に閉じ込める。突然のことにアリシアは赤面し、その様子を見てメリッサはさらに不機嫌さをあらわにした。
「何それ。まるで私がお二人の仲を邪魔してるみたいじゃない。いつもお姉さまは私のほしいものをくれるのに、フレデリック様だけは譲れないだなんて許せないわ。気分が悪いので失礼します」
そう言って、プイっと踵を返してメリッサはいなくなった。




