世界強者決定戦 リノス予選開始
いよいよ、世界強者決定戦の予選が始まった。
予選までの数ヶ月、準備が大変だった。そもそも世界強者決定戦のアイディアは、カリンの発案だ。
各都市のギルドマスターと毎日筆談をを使って会議を重ねた。
そして、世界中の冒険者と商業ギルドが協力して行うイベントを4年に一度行うことが決まった。
会議するために、各都市の冒険者ギルドにミニゴーレムの筆談窓口が置かれるようになった。各都市ギルドマスターと関係ができたのが何よりも嬉しい。
コネもできたし、大会が終わったら、各都市でロム万能薬の支店を開く計画だ。
世界規模のイベントを企画することで、ラカン、ガンダル、ヤードルの情報を集める狙いもある。
この各都市の連帯は、来る隕石への対応に向けて、一丸となって協力する準備も兼ねている。
世界強者決定戦は、メキシコ、カイロ、ミラノ、リノス、アメダバド、チェンマイ、ジューケイ、マツモト、アレイオスの9大都市から代表強者を予選で1人選抜する。
予選の方法は、各都市が決める。規模がそれぞれ違うからだ。
規模が小さいマツモトでは、2回勝てば予選通過だ。つまりA級以上の参加者がたった4人。カリンがいつのまにかA級に昇級して、予選参加者に名を連ねている。
第1回の開催都市は、くじ引きの結果チェンマイになった。
予選を勝ち抜くような強者なら、地球の裏側からチェンマイに行くこともできるはずだ。
アレイオスからチェンマイに行く方法がないのは、残念だけど。
見上げると空は快晴。雲一つない。
僕が今いる場所は完成したての闘技場の医務室だ。
すぐに怪我人の救護に向かえるように、間近で戦いを見れる場所だ。
リノスの魔法使いが協力してレゴレで作った。鉄と骨組に石やガラスで壁や装飾を作った。
5000人がゆったりと観戦出来る、円形になっている。
客席には、張り出した屋根が設えられていて、客席だけ直射日光を遮る仕組みになっていた。
半球形に客席を覆うその屋根は、コウモリの骨格に貼られた薄い膜のような形状をしている。
至る所に豹柄や像の牙のモチーフなど動物のデザインを盛り込んだ。
言ってみれば、野生味溢れた雰囲気になるようにと凝った趣向をこらしてみたのだ。
目的は、単純に日よけなのだけど、誰もそうだとは思うまい。
口々に驚きの声を上げ、面白そうに見上げている。
広告を出したいお店を募集したが集まらなかった。興行に合わせて広告をするのが知名度アップに効果的というのがまだ浸透していないらしい。
おかげでロム万能薬のデカデカとした広告が1番目立つところに描かれていた。
客席は満員。
全ての席が埋まっている。
ゴーヨンが手配し、一般席5000パルのチケットを売り捌いた。
特別観覧席には、王族や貴族などの協賛者を招待している。
この辺の挨拶周りは、本当にめんどくさい。リノスでの僕は、ロム万能薬の店主かつ冒険者に過ぎないのに。でも、こういうコネは大切にしないと。婚約披露にもきてもらったしね。
ありがたいような、迷惑なようなロムの冒険譚の劇は、市中でまだまだ人気が衰えていない。それどころか市民みんなにとっての娯楽になりつつある。
闘技場の外には、マーケットエリアを作った。甘いものや肉などの食事や、酒など、各都市から取り寄せたグルメが立ち並ぶ。
アレイオスからの出店は、エッグタルトやクロックムッシュ、ピカリ焼きや汁かゆなど。
もちろん、ロム万能薬のコッペリームも大人気だ。
客席に囲まれた、日が差し込む平地部分が戦いの場だ。
ここには、鉄で作った直径200mで黒色の舞台がある。
レゴレで作った砕けるはずのない、硬い闘技場。
それが今回の予選の舞台だ。
会場は、熱気に包まれている。
それはそうだろう。
これまでも格闘する興行が存在したらしいが、ここまでの規模の物ではない。
さて、今回の予選の形式は、1回戦がまずバトルロイヤル。
応募者は、水晶玉を使って振い落しているので、A級相当以上の選抜で40名の応募者が残っている。
このうち冒険者ギルドに登録されているA級以上が25人だから、冒険者ギルドに登録していなくても、実力を持った人がある程度いるという予想が当たった。賞金目当てで応募してくれた人が15名もいた。きっと他にも強者が街のどこかにいることだろう。
ちなみに僕は、水晶玉の振るい落としで選抜落ち。公正で公平な審査結果だ。次回は、A級以上で臨めるように鍛錬を続けよう。
ちなみに大会のスポンサーにもなっているロム万能薬の店名をデカデカと背中に書いた白衣を着ている。カリンに必ずこれを着ろと言われたからだ。
予選には出れないけど、大会スタッフとして、1日目第一試合の医療サポートをすることになった。
予選は、この人数を5名づつで組分けを行い、8グループのうち各グループで1人ずつが2回戦に出場できる。
午前に2試合、午後から3試合。明日は、2回戦の予定になっている。明後日が準決勝。その翌日に決勝戦だ。
試合と言っても1回戦は、バトルロイヤル。
運も重要になってくるだろう。
登録順で適当に組分けたから、仲間同士で協力も可能なのだが、予選2回戦に進めるのは各グループ1人しか居ない。
さて、どうなるか。
ワクワクしつつ、早速最初の第一試合開始だ。
中央に選手達が入場して円形の舞台に等間隔に立つ。
直径200メートルの舞台。5人で戦うには、狭いかもしれない。
皆、個性派ぞろいだ。
戦闘前のメディカルチェックで、全員が万全の状態になったことを確認している。
一際目立つのが巨人のバオウル。とにかくでかい。2階建ての建物くらいの大きさだ。最近リノスに引っ越してきたらしい。冒険者ではないけど、実力は期待できる。右目の視力を病気で失っていたけど、キュアで視力が回復した。泣いて喜んでいた。素朴でいいやつだ。
このグループの魔法使いは、たった1人。女の猫耳族。冒険者ギルドA級のパンノコだ。光の魔法と土の魔法のエキスパート。この闘技場建設にも活躍してもらった。無口でぶっきらぼうだけど、真面目な職人気質。魔法のスピードが早い。ヌプルスの弟子だ。
後の3人のうち2人は、ターニュとスピーラだ。なにも同じ組にならなくてもいいのに。スピーラは、今では自他共に認める親友だ。どっちも勝って欲しいし、どっちにも負けてほしくない。
最後の1人は、最近A級になったばかりの背の小さなエルフの男の子、バサット。剣士らしい。身体に見合わない大剣持ち。ちっこくても侮れないのがエルフ。何百年生きているか知れない。
ゴォォン
ドラが鳴り響き、試合が開始した。
いきなりターニュがスピーラに斬りかかる。
「ねぇ、スピーラ。最近は、身近な関係になったけど、ここでどっちが強いかをはっきりさせておくのも、今後の人間関係上、いいと思うわ。覚悟してね」
スピーラがターニュの上段から振り下ろした剣を左に飛んで避けた。
「キッキッキ!大した自信だな、ターニュ。俺だって今日まで地道に努力を積み重ねてきたのさ。油断してると足元すくわれるぜ。負けても恨みっこなしだぜ」
残りの3人は、最初の位置のまま様子を伺っている。
2人の見せ場とも言える舞台となる。
お互いに剣士。体力のないターニュは、速攻が得意。スピーラは、素早さと体力で持久戦が得意だ。共通点は、己の肉体で戦うのが似合っていること。
力を込め、叩き付けるように振り下ろすターニュ剣をスピーラが右に左に飛び跳ねてかわす。
ターニュの身体が崩れた所を、すかさずスピーラの一撃が襲うが、ターニュがしっかり見切って、バックステップで難なく避けきる。
もう20分近く互角の攻防が繰り広げられていた。なかなか勝負がつきそうにない。
観客もその凄まじい戦いに魅入られている。
そりゃまあ、A級同士の戦闘なんて、一生見る事が出来ないようなものだ。
お互い見事な戦いぶり、剣士の勝負が長引くのは、実力伯仲だからだ。拮抗してなければ、一瞬で勝負がつく。
面白い戦い。
でも、これは、バトルロワイヤル。
痺れを切らしたようにバオウルが乱入してきた。
身体の大きさの割に素早い攻撃に、観客から驚きの声が上がる。
バオウルは、スピーラを捕まえるつもりだ。
ターニュには、バサットが斬りかかって激しい撃ち合いになっている。バサットが大剣を短剣のように軽々と振り回す。
バオウルの右足がパンノコのレゴレで鉄の塊で包まれた。動きが止まったバオウルの腹部にパンノコの光のレーザーが飛ぶ。
バオウルは、両腕でレーザーを受け止めた。ヌプルスのレーザーほどではないけど、強力なレーザー攻撃。バオウルの両腕が焼失した。
バオウルは、そのまま闘技場の外に転げ落ちた。
舞台から落ちると棄権したとみなされる。
僕は、医務室から飛び出して救護に向かう。身体が大きいバオウルは、医務室に運べない。その場で治療しなければ。草舟のブーツのおかげで一瞬にしてバオウルの側に行ける。
バオウルの近くに着くとバオウルが泣いていた。
「いてぇよ、ピッケル!助けてくれよ
ぉ!おいらの腕がぁ!」
腕で腹部を守ったのは正解だ。腕くらいすぐ治せる。
「キュア!」
緑の光がキラキラとバオウルの腕を包む。強く光って、光が弱まると、光の中から焼失したバオウルの両腕が蘇った。
「おお!!すごい!さすがロム万能薬!」
観客席からバオウル回復の様子を見て、歓声が飛んできた。戦いの結果だけじゃなくて、医療サポートだって見せ場を作ることができるんだ。
背中にデカデカと書いたロム万能薬の文字も役に立ったかもしれない。
「ピッケル、ありがとうよ。おいらの腕、元通りだ!
せっかく眼を治してもらったから、勝ちたかったんだが。やられちまった」
「運もあるさ。生きてれば、また勝つこともあるよ」
バオウルの足についた鉄の塊をレゴレで取り除く。これでよし。
舞台に眼を向けると、ターニュがバサットを舞台の外に吹っ飛ばして勝利。剣技は互角だったけど、身体の小ささが敗因だった。
パンノコがスピーラを石の球体に閉じ込めて舞台の外に転がして、勝利。どうしてそうなった。
ターニュが肩で息をしている。
「はぁ、はぁ」
ターニュはもう体力がない。でも、不敵な笑みを浮かべている。
パンノコももう魔力がなくて、顔が青ざめている。
突然ターニュが全速力でパンノコに迫った。一瞬で間合いを詰める!どこからあの力が!?
驚いたパンノコが慌ててレゴレで壁を作る。
ターニュが壁にそのままタックルをして、レゴレの壁を破壊した。
脳筋かよ!急に作ったレゴレでは、強度が甘かったんだ。
ターニュの前進は、壁をぶち抜くだけで終わらなかった。そのままパンノコに豪快なラリアットを食らわせて、ド派手に舞台の外に吹っ飛ばした。
このグループは、ターニュが勝ち抜けた。
剣ではなく、プロレス技!?
「おおぉぉぉ!!」
観客も大喜びだ。
ゴォォン
ゴォォン
ゴォォン
試合終了を告げるドラが3回鳴った。
最初を飾るのに相応しい、良い勝負だった。
ターニュが得意満面で舞台から降りてきた。
「どお?勝ったわよ!にしし!あー!疲れた!ピッケル、キュアして!」
汗だくのターニュが大衆の目をはばからずに抱きついてくる。
はいはい。キュアで爽やかにしましょうね。
後ろで石の球体に閉じこめられたスピーラが「俺を先に治せー!!」と文句を言ってゴロゴロしている。ごめんな、スピーラ。
「疲れ果てているかと思ったのに。最後のラリアット、すごかったね」
「ラリアット?あ、あの腕を振り回したやつ?無我夢中だったの!
ポムルスをかじって最後の力を振り絞ったからね」
あの不敵な笑みは、そういうことか。ターニュがゲムルス様の宝箱からもらったのは、ポシェタの簡易版ともいうべきおやつポケットという魔道具だった。
ポシェタと違ってポムルス3個入れたら一杯になるし、入れたものの時間も止まらない。でも小さなポケットに収まる小袋だから、かさばらなくていい。
疲れやすいターニュがポムルスを補給するのにぴったりだ。
ちなみにスピーラは、1分間笑いが止まらなくなるラムネ10個。毒こそないけど、まぁ、ハズレだったね。どんまい、スピーラ。
「おい!いい加減俺を治せ!うお!」
ゴロゴロ転がって、スピーラが面白いことになっている。
「うぉぉい!目が回る!!」
「あははは。ごめん。どうしたらそうなるんだよ」
スピーラにかけられたレゴレを解いてやる。
「パンノコめ。俺をコケにしやがって」
パンノコが笑いながらこっちにきた。
「ターニュのタックルずるい。
スピーラをコロコロ転がすの楽しいかった。プププ」
「おい!パンノコ!笑うんじゃねぇ」
ターニュがバサットに話しかける。
「バサット、腕を上げたわね」
「次は、倒す」
バサットと一言伝えて、そのまま会場の外に出て行った。
「知り合いなの?」
「兄弟弟子よ。あたしたちは、メキシコの剣聖ラムーの弟子なの」
さて、次の選手が入って来る時間だ。次の試合の医療サポートの街医者ヒューイが医務室にいるのが見えた。
さて、次の試合は?
どうなるか楽しみだ!
「行くわよ。ピッケル!」
ターニュが僕の腕を掴む。
「え?次の試合見ないの?」
「はぁ?そんな暇あったら、あたしに甘いものを食べさせなさい!」
「ええ?でも、次に戦うかもよ?」
「美味しいものを食べることだって、戦いなのよ!
さぁ、つべこべ言ってないで、屋台に行くわよ!それが楽しみで頑張ったんだから!」
「うわぁ」
ターニュに腕を掴まれたまま、ズルズルと会場の外に連れられていく。
スピーラに助けを求めても、ニヤニヤ笑いながら助けてくれない。
「キッキッキ!楽しんできな!」
た、楽しんでくるよ。ははは。




