世界強者決定戦 マツモト予選 前日
マツモトの予選までの3ヶ月の間に、身体の中のユピテルをより強く感じられるようになった。
ユピテルが登場する古文書を読み漁った。毛むくじゃらで赤い眼の優しい巨人ユピテルの話はたくさん残されていた。たくさんの人に長く愛されているユピテル。その血が、あたしに。
ユピテルと古い友人だったというサイクロプスのキュクロからユピテルの話を聞いたのもよかった。
キュクロも2万年ぶりにユピテルの話ができて嬉しそうだった。
ユピテルは、人類に味方をする巨人だったらしい。
魔獣から人類を守る毛むくじゃらで赤い目の巨人。
大昔、同じく人類に味方したケンタウロスの魔帝マギルの親友でもあったユピテル。
情に熱く、面白いと思った話にはすぐ乗ってくる気さくで愉快な巨人。
ユピテルはその人生の最後にキュクロに会いにきて、一緒に腕相撲をしたらしい。
勝ったのは、ユピテル。
誰よりも強かったと、誇らしそうにいうキュクロを見て、なぜだかあたしも嬉しくなった。
キュクロは、こうも言っていた。
魂は、時空を超え、形を変える。あたしの中にもキュクロの中にもユピテルがいる。それはユピテルの中にもあたしやキュクロがいるということ。
ユピテルは、内なる声の中にいる。
いつも一緒にいることが大切なんじゃない。
触れたり、知ったりすることができたなら、その瞬間は永遠に時空に刻まれる。
離れ離れになったことよりも、一緒に過ごした時間があることのほうが大切なこと。
大切なのは、ずっと続くことではなくて、刹那の中に永遠を感じるということ。
このことをあたしは、大切にしていきたいんだ。
ピッケルとだってそうだ。
離れていることよりも、繋がりがあることに目を向けていたい。
後日、山奥の修業の場所で日課の岩石割りをしようとした時のことだ。
いつものように拳を構えた時に、頭の中に懐かしいような笑い声が微かに聞こえた。
身体が無意識に、岩石割の型通りにスルスルと滑り落ちるように動いた。
拳が岩石に触れた時、雷のように光がビリビリと飛び散った。
爆発のような激しい閃光があって、土煙に包まれた。
なんだったんだろう?と戸惑っていると、身体から力が抜けて、へなへなと尻餅をついてしまった。
風が土煙を運んで、景色が見えるようになった時、驚きの光景が目の前に広がっていた。
岩石を割るどころか、地面が裂けて、目の前の岩山を二つに割っていたのだ。
ポムルスを2つペロリと食べて、やっと身体が動くようになった。
その時、初めて身体の中のユピテルと繋がったと感じた。
わくわくするような気持ちが心の底から湧き起こった。
そのおかげか水晶玉のステータスが大幅に上昇した。
「種族」
・巨人
「魔法」
・魔力 A
・スピード B
・属性 草木C、水E、土C、時空F
「武術」
・格闘A
「基礎ステータス」
・パワー A
・知力 B
・素早さ A
・体力 A
・幸運 E
「職業」
・魔拳士
・冒険者 A
「前科・勲章」
赤い目の巨人
「スキル」
荷物持ち 炎犬使い
そう。ついに冒険者A級になった。おかげでA級以上が条件の予選に出れるようになった。
そして、今日。予選の前日。
明日からいよいよ予選が始まる。従魔が認められてピバウと一緒に参戦できることになったのが嬉しい。
一緒に戦うのが楽しみすぎる。ちょっとずるい気もするけど、S級以上と互角以上の戦いをするために、遠慮している余裕なんかない。
そうは言っても、流石にラトタスを従魔と呼ぶのには無理があるし、壊れたら修復できない。だから、ラトタスには、自宅で待機してもらうことにした。
初春の冷えた空気の中で、早朝から修行場で瞑想していると、パバリ王が現れた。
「ガッハッハ!修行に励んでいるようじゃのう。
山を割るとは、上々じゃ」
「割るつもりじゃなかったんだけど。少しずつユピテルの声が聞こえるようになってきたよ」
「そうか、そうか。明日は、予選じゃったな。
カリンの依頼通り、わしも大会の審判としてジャカルタに行くぞ」
パバリ王が出場したら無双して、優勝確定してしまうからね。
「そ、そうなんだ。あたしも頑張って、明日の予選を戦うわ」
「ふむふむ。せっかくじゃ、稽古をつけてやろう。そうじゃな。今日は、剣を使おうかな」
剣!剣も極めているパバリ王。敵うはずもないけど、対剣士の稽古にこれ以上の機会はない。
対峙するのは、明らかに達人の雰囲気のパバリ王。
無手のあたしが不利なのは、間違いないけど、あたしには対剣士用の策がある。
お互いに充分な間合いをとって構える。
まず、最大速度で蹴りを繰り出す。事前動作も無く、腕の良い者でも避ける事が困難な速度。
だが、パバリ王は、慌てる事なくその身を後ろに移動させ、流れるような動作でいつの間にか抜刀していた剣を振り下ろす。
パバリ王の剣があたしの足を切断しようとする!
今だ!
キィン!
という甲高い音が鳴り響き、蹴り上げたあたしの足がパバリ王の剣が弾く。
足から、レゴレで作った鉄の具足がへしゃげて落ちる。
使い捨てか。
パバリ王以外の太刀なら何回か持つはずだ。
間髪入れずに足を振り抜いて、その勢いでパバリ王に襲いかかる。
慌てずに、後ろに身を引いて、蹴りを避けるパバリ王。
引いた反動で溜めた力で、鋭い突きを繰り出す。一つ一つの動作に無駄がないどこか、回避が次の攻撃の準備動作になっている。
あたしは、直感でその攻撃を迷いも無く腕で受け止めた。
受け止めた腕ごと断ち切る筈のその刺突は、レゴレで作った鉄の小手で弾くことができた。
「むう。なるほど。剣士に対する準備をしていたか。
反射的に最小限の魔法を組み合わせて、剣を防ぐとは、天晴れじゃ」
さっきまでの激しい斬り合いではなく、淡々と小手調べの様な攻防が始まった。
ギリギリと神経がすり減るような間合いの取り合い。
囁くように踏み出される一方にも満たない踏み出しから、無数の意図が響き渡る。
こちらも一挙一動に反応して、間合いを調整する。
だめだ。受けてばかりでは。
レゴレで鉄の小手を強化してさらに攻撃力を付加した鉄拳にする。
攻めに出る!
いいよね。そのほうが、あたしらしい!
静まっていた空気を切り裂くように攻撃を始める。
パバリ王にむけて、大きな踏み込み!
パバリ王の呼吸のリズムが一瞬だけ停滞したのに合わせて一撃を放り込む。
パバリ王に焦りは無く、対処法のお手本のように剣を傷めぬ力加減であたしの鉄拳攻撃を受け流す。
よし、いける。
力と技を合わせて、隙を狙って攻める。
技術レベルでは、パバリ王に及ばない。
こっちは、直感と本能によって戦うのみ!
がむしゃらに攻めまくる。全てパバリ王に防がれても、攻撃が最大の防御だ。
受けに回るより、よほどいい!
「成長したな、カリン。
まさか剣を持ったわしとここまで遣りあえるとは思わなかった」
パバリ王には、まだしゃべりながらあたしの攻撃を避ける余裕がある。
しかも、パバリ王は、魔法を一切使っていない。
本気のパバリ王とだったら、まともに対峙することさえできないだろう。
どうしようもない実力差だ。
それでも一矢報いたい。
「ここからよ!まだまだ!」
剣が交差し、お互いの鉄の拳と剣が弾き合う。そして、距離を取って再び対峙した。
「さて、わしも力をもう一段あげよう。この剣を受け止めれるかな?」
パバリ王があたしに声を掛け、ギンッと強い眼力であたしを貫く。
さっきとは比べ物にならない闘気。
次の一撃で勝負が決まるな。
楽しい!そうだ、あたしは、今ワクワクしている。きっと、あたしの中のユピテルも!
はぁぁぁぁ!!!
いっけぇぇ!!
この拳に全てをかける!
ユピテルがいた過去とあたしがいる現在が拳の一点に交わる。それだけじゃない。未来の誰かにあたしの拳が繋がっていく。
そうだ、あたしたちは、繋がっているんだ!
今なら行ける!
「とう!!!!」
地面に拳突き刺すと数えきれない稲妻が放出されて、爆発と共に強烈に発光した!
まだまだ力が溢れてくる!
うぉぉぉ!!!!
ピキィィン!!!
甲高い音が響き渡る。
スガダダダダダ!!!
景色が真っ白になるほどの強い光と強烈な爆発の後、土煙と共に無音になった。
キーンと鼓膜が限界を超えたことを知らせてくる。
土煙が落ち着いてきた。
地面が半球形で20メートルほどえぐれている。
ところどころ燃えていたり、白い煙が吹き出している。
これがあたしの拳の威力。。。
重力魔法を使ったパバリ王がふわふわと降りてきた。
「なんちゅう出鱈目な力じゃ。
これがユピテルの一撃。。。
慌てて魔法を使ったわしの負けじゃな。
ガッハッハ!」
「パバリ王に当てたらいけない気がして、地面に撃っちゃった」
「ガッハッハ!!
今のでも、とっさに魔法を使わなかったら、腕一本くらい持って行かれていたぞ。
直接拳を受けたら、どうなっていたこたか。。。
使いこなせよ!カリン。力には責任がともなうのじゃ」
「うん。
この力を授かったことに意味や責任があるはず。それがあたしなんだ」
「よしよし。
明日の対戦相手に同情しよう。
こりゃあ、命がいくつあっても足らんわい。
ガッハッハ!」
むしゃむしゃと飲み込むようにポムルスを食べる。
ふぅ。
力を出し切るって気持ちがいい。
でも、もっと強くしたい。
広範囲の爆発は、エネルギーが分散して無駄が多い。
もっと威力もコントロールも改善できるはず。
この力をこんなに大きな球ではなくて、ただ一点に凝縮、集中できたら。。。ふふふ。
あぁ。なんて楽しいんだろう。
「ガッハッハ!なんか企んでおるな。その勢いじゃ!」
「ふっふっふ」
「ガッハッハ!!!」




