ユピテルの一撃
「パワーアップしたが、かえって弱くなっているのぅ」
おかしい。強くなっているはずなのに。
闘気が交錯し、熱気が辺りを支配する中、パバリ王が圧倒的な優勢で立ちはだかっている。
その場の空気が一層緊迫感に包まれる中、パバリ王との間にピリピリとしれびるような感覚が張り巡らされる。
パバリ王の体からは圧倒的な力が溢れ、その存在感が場を圧倒している。
全速力の動きの中で、ゆっくりと感じる光と音の中、闘志をぶつけあう。
パバリ王が左右に身をかわし、上下に飛び交う激しい動きで捕まえられない。
パバリ王の剛拳とカリンの敏捷な身のこなしとが交差する。
パバリ王が巧みな動きであたしの攻撃をかわし、瞬時に反撃する。
パバリ王の動きは予測不能。
その流れるような一撃は鋭く、痛烈だった。
それでも左右にステップを踏み、立ち上がり、再び構える。
左右からの削り合いが続き、上下の激しい打ち合いが交わる。
「はぁ、はぁ」
「うまくいっていないようじゃな。なぜだか分かるかな?」
汗が全身から吹き出す。
圧倒的な実力差。
でも、焦りや思うようにいかないもどかしさは、あたしの中に原因がありそうだ。
「わ、分からない。。。パワーもスピードも上がっているはずなのに。。。もう一度!」
やっぱり、パンチやキックのキレが良くなっている。
余裕で避けられるのは、仕方がない。
魔法を使わないパバリ王にかすりもしないのは元からだ。
問題は、前より感覚が鈍いことだ。どうして?
「前はパワーがないながら、一撃でも当てようと隙を狙っていた。
ズルく、がむしゃらにな。
実力差があっても、気を抜くことができない鋭さがあったんじゃ」
たしかに。
今は、必死さより、基本に忠実になっている。
手を抜いてなんかいない。
パワーが上がった分、使いこなす為に型の効率の良さを身体が自動的に選んでいく。
昔は、なかなかできなかった動作。今は、こんなに型通りにできるようになったのに。
「身体に刻み込んだ型に振り回されているようじゃ。
よし、ここまで。
充分にカリンの成長を確かめることができた」
「あ、ありがとう。。。でも、全然ダメだ」
「ダメなわけじゃないぞ。
動きの型は、むしろ、よい。
大昔にわしが教えたことの大事な部分が正しく伝承されている。
すごいことじゃ。時を超えて、世代を超えて伝えていくことがどれほど困難なことか。
じゃが、カリン、奥義を教わっていないな?」
「は、はい。巨人神拳は、一子相伝。あたしは、拳士より魔法を選んだ。
父は、あたしへの奥義の伝承を諦めた。。。
当時、あたしは、力を解放するのが怖かった。
でも、今は違う。
自分の力に向き合って、全てを知りたい!」
「よいじゃろう。
一子相伝か。
涙ぐましい努力じゃな。
源流であるわしから教えるのなら、問題あるまい。
知るがいい。
奥義を伝授しよう」
ゴクリ。奥義を。パバリ王から。
父から教わりたかった気持ちもある。でも、いずれ父を超えたいとも思っている。
「1日に使える全ての力をただ一つの拳に込めること。これが奥義じゃ」
「え?どういうこと?」
「たった1人、倒すべき相手を見極めること。そして、その相手に、全てを込めた一撃を必ず命中すること。
それだけじゃ」
「でもどうやって?」
「岩を砕く練習をしたな?」
「したけど。。。」
「意識を集中して、感情を無にすること。心を拳と一つにして、岩を貫く。そうじゃな?」
「そう。心が澄み切って、拳と一つになる感覚が好きなんだ」
「よし。
奥義は、その先にあるのじゃ。
その一撃に、1日に使える全ての力を込める。爆発的な一撃じゃ。
いや、文字通り、爆発を起こす。
スピカは、この一撃で地を裂き、山を削った。
例え話じゃなくて、本当に地面に割れ目を作ったんじゃ」
おとぎ話じゃなくて、本当の話?!
そんなことできるの?岩を砕くのとは違う。地面を割る?
「やってみる」
「よし。構え!」
感情を無にする。
「一撃に全てを込めよ!」
「ダメじゃな。まだ自分の中の巨人との繋がりが薄いようじゃ。赤い目の巨人ユピテルの血が目覚めていないんじゃ」
そんなの、どうしたら?
「まぁ、すぐにはできん。
だが、伝えたぞ。まだ受け取れていないようじゃが。
奥義、ユピテルの一撃を。
使いこなせるかどうかは、カリン次第じゃ。
恐ろしいほどの力じゃ。
使い方に悩むことにもなるじゃろう。
1万年前、スピカは、ユピテルの一撃で全巨人の頂点に君臨した。
精進せよ、カリン」
「ありがとう。まだできないけど修めてみせる。
そろそろ、お店を開く時間だわ」
「ガッハッハ!ロム万能薬の開店を多くの人が待っておる!
行け!夜になったら飯でも食おう」
あたしは、必ず使いこなしてみせる。赤い目の巨人ユピテルの力も、奥義も。
あたしは、あたし。
あたしを知りたい。
待ってて、ユピテル。身体にそう語りかけると、心臓がいつもより大きくドクンッと鼓動した気がした。
もしかしたらあたしの中のユピテルも待ち遠しく思っているのかもしれない。
ドクンッ
あたしは、ユピテルのことも知りたいんだ。
アシュリに頼んでユピテルについての古文書を探してもらおう。




