ささやかなお祝い 前編
「婚約おめでとう、ピッケル。
女ってのは、婚約とか結婚とか言い出してから本性出すって親父が言ってたから気をつけろよ!
キッキッキ!」
スピーラがお祝いの声をかけてくれた。葡萄酒を持つスピーラと乾杯する。僕の杯に入っているのは、ぶどうジュースだけど。
「ありがとう。確かになんかじわじわ尻に敷かれている感じがするよ」
ニーチェが華やかなドレスを着ている。
「あら?
女が強い方が夫婦は長持ちするって話よ?
どっちにせよ、エルフの方が長生きするんだから」
ガブルはもう酔っ払っている。
「がっはは!
うちも奥さんに頭が上がらねぇや!
そんなもんだぜ」
ナイゼルもほろ酔いだ。
「しかし、あのターニュがずいぶんしおらしくしているぜ。こうやって見ると、 やっぱりいい女だ。
なぁ、ピッケル?」
なんだか照れる。でも、今日は、そういう場なんだ。
「あはは。ありがとう。ターニュも喜ぶよ」
一段高い席にチョコンと1人で座っているターニュのそばに行く。白いドレスを着て、本当に綺麗だ。
「ちょっと、ピッケル。みんなにジロジロ見られて恥ずかしいわ。
このドレスも窮屈だし。
こんなに大それた事になると思ってなかったわ」
「ターニュ、僕もだよ。プチンが任せろって言ってくれたから、お願いしたんだけど。。。」
リノスで一番大きなホールに、リノスの王族や貴族。近隣都市のギルドをマスター、有名人、俳優などなど、300人ほどが着飾って集まっていた。
「まぁ、たまにはこういうのもいい。
忘れられないできごとが多い方がいいもんね。
いつかあたしの故郷に来てよ。両親はもう、亡くなってしまったけど、お墓がある。花や緑が綺麗なところなの。
メキシコ近くの小さなエルフの隠れ里よ」
「もちろんだよ。一緒に行こう。手を合わせに行きたい。ターニュの両親に」
「ふふふ。ピッケル、ありがとう。
あたしを選んでくれて。
嬉しいの。ピッケルと一緒にいる時間を特別なものにしたかったから」
エルフの寿命は長い。僕よりもずっと。その時間をターニュは、側にいてくれると言ってくれた。
「ありがとう。ターニュ。幸せな時間にしよう」
プチンが満足そうにやってきた。
一際ド派手なドレスだ。
「ピッケル、ターニュ、おめでとう。
お似合いの2人ね。
どう?英雄の婚約を祝うには、ささやか過ぎたかしら?」
「プチン!こんなに大掛かりだなんて、聞いてないよ。なんだか、そわそわして」
「おやおや!ピッケル、もっと堂々としててよ。
ほら、背筋を伸ばして、シャンして。今日の主役なんだからさ。
ターニュもだよ!とっても綺麗よ。
お姫様みたい。
さぁ、そろそろ挨拶してもらおうかしら」
プチンが右手を高く上げた。
プチンからの合図を待っていた楽隊が演奏の準備をした。
プチンが楽隊の準備ができたことを確認してから、右手をサッと下ろす。
ジジャーーン
ドラのような鐘の音。
それからみんなお馴染みのロム英雄譚の吟遊詩の曲が流れ始めた。
ザワザワしていた宴会の雰囲気が静かに収まって、全員がこっちを見ている。
プチンが僕とターニュに座るように目配りした。
プチンがよく響く朗々とした声で、まるで吟遊詩人が歌うように話始めた。
「皆様、本日は、ピッケルとターニュ、カリンとアシュリの婚約披露宴にお越しくださいまして、誠にありがとうございます。
これよりは、来賓の皆様もこの英雄譚にご参加いただきありがとうございます」
ひやぁ。これは、かしこまったやつだ。
プチンが、王族や名だたる名士に御礼を述べていく。
おいおい、僕も何か挨拶。。。するよな。何にも考えてなかったよ?
プチン。。。飲み屋で身内を集めて挨拶したいって言っていたのに!
結局、ぎこちなく自己紹介とターニュの紹介をなんかやり過ごした。
冷や汗が滝のように出る場が終わって、ぐったりと疲れた。
手元に届いた、エタンとパンセナ、ゾゾ長老からの手紙。
アレイオスではアシュリをエタンやパンセナ、ゾゾ長老を始めとする皆で祝っている。
もちろん、マツモトでもカリンをショータや一緒に仕事をしている仲間達で祝っていた。
1ヶ月前、まずは、カリンとアシュリと婚約することになった。
カリンからは結婚しろって言われたけど、今は遠距離だし、仲間も見つけれていない。
せめて僕とカリンが会えたら結婚しようって話に落ち着いた。
アシュリとの婚約は、大変だった。すったもんだあった。
結局アシュリを悲しませる男になるなと、カリンに言われた。
勇気を出してアシュリにプロポーズのラブレターを出して、アシュリからもらった返事は、大切に家の壁に飾ってある。
毎日その手紙を見るたびに幸せな気持ちになる。
カリンは、千里眼でもあるみたいにターニュについても目星をつけていた。
ターニュとのことも根掘り葉掘り聞いてきた。
知らない間にターニュとカリンで何か話をしたらしく、婚約するなら、まず3人とって話がトントン拍子に進んでいった。
ターニュとももちろん色々な話をしたけど、確かに僕たちはお互い必要な関係になっていた。
僕が思っていたより、ターニュは、僕のことを男として好きになってくれていたみたいだ。
ターニュから気持ちを伝えられたとき、どうしていいか分からなかった。
でも、ターニュが僕を特別に大切にしてくれることを、僕も大切にしたいって思った。
宴も終わりの頃、ゴーヨンが声をかけてくれた。
「なかなか話せなくてすまんな。
なかなか会えない王族や貴族たちと話が盛り上がってしまってな。
一気に3人と婚約とは、剛毅だな。
しかし、英雄譚に追いつくためには、もっともっと頑張らないとな!はっはっはっ!」
「はは。期待に応えられるように頑張るよ。
改めてありがとう、ゴーヨン。
いつかエタンやパンセナをゴーヨンに紹介したいよ」
「そうだな。そうだ、ピッケル。アレイオスにも商業ギルドや冒険者ギルドを作りたいって言っていただろう?」
「あぁ、いつかね」
「すぐに作るといい。
婚約者がいるんだ。それにゾゾ長老もいる。
いいじゃないか。
ピッケルのゴーレムでアレイオスともすでに交易ルートがある。
ピッケルのおかげでマツモトの商業ギルドマスターとも関係ができたしな。
むしろ、お願いしよう。
全ての商業ギルドと冒険者ギルドのグランドマスターの私からのお願いだ。
ちょっと変則的だが、アレイオスの商業と冒険者のギルドマスターには、お前がなるといい」
え?!
それにゴーヨンがグランドギルドマスター。。。なんかとてつもない役職だな。
これは断れないやつだ。いや、むしろ名誉に違いない。でも。。。僕にはまだ、分不相応だ。
「今日はミラノとアメダバド、カイロのギルドマスター達も来ていてな。
お前の姿を見て、みんな納得していたよ。
後ほど紹介しよう。
メキシコの商業と冒険者のギルドマスターには、もう話を通してあるんだ。
それにメキシコを立ち寄った創世のパバリ王もピッケルのことを褒めていたそうだ」
え?パバリ王が僕を?
「なんでもリノスのロム万能薬でパンを買って食べたらしいぞ。
お客さんが多かったから、特別な挨拶をしなかったらしいが」
全然気づかなかった。いつの間に。
「ピッケル、確かにまだまだ経験が足りないが、お前なら任せられる。
どうだ?」
できるかできないかじゃない。まず、やってみよう。足りないものは、学んだり、補えばいい。
チャンスを掴めと、かつてパスカル村を出るカリンから言われたのを思い出す。
「あ、ありがとう。やってみるよ」
「よし!これからは同志だな。
改めてよろしく」
ゴーヨンとしっかり握手をする。
そうか。アレイオスにも商業ギルドと冒険者ギルドができる。
そうだ、そのほうがいい。統一国家の商業特区アレイオスが世界と繋がるんだ。
まだまだ世界を救うには小さな力だけど、少しずつ世界が変わり始めている。
変えて行こう。
まだカリンもガンダルもヤードルも見つからないし、隕石を回避するヒントさえ見つからないけど。
地道な一歩一歩が、いつか実を結ぶと信じて。




