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カリンの後押し

「もう本当、信じられないわ!」


 あたしは、今ピッケルと喧嘩中だ。

 憂さ晴らしにアシュリと筆談するのが楽しい。

 ラトタスを通じて、アレイオスにいるルーマンを書記にしてアシュリと筆談できる。


 A級パーティが全滅したダンジョンに行くなんて、危険すぎる。

 あたしがいたら絶対に止めていた。

 しかも、エルフのターニュを助けるために。

 ターニュもピッケルに気があると、あたしは踏んでいる。

 あたしの野望にエルフも必要ではあるけど。ふっふっふ。


「私もピッケルに小言を言ったわ。だって、古文書で読んだ草木の魔法、しかもキュアの上位に当たるキュルリアをいきなり実戦で試すなんて!

 私の研究のためにピッケルに翻訳させていたのに。抜け駆けされたのも許せない」


 アシュリもピッケルにご立腹らしい。


「ところで、カリンは、ヴィラナについて魔法書を作ってるんだって?」


 そうだ。巨人の力に目覚めて初めて使えるようになったものだから、アレイオスのみんなに使えるわけじゃないけど。 

 魔法書に書き起こすことで、魔法の理解が高まって、基礎基本への理解が深まったり、応用が効くようになる。


「なかなか進んでいないんだけどね」


「いいなぁ。ヴィラナ、私にはできなかったな。魔法の力は、今はもうカリンに敵わないな」


「アシュリに教えてもらった基礎基本が全てよ。いつも感謝してるの。

 安全第一の教えもね」


「ピッケルは、危険を冒してばかりだけどね!何回言ったら分かるのかしら」


 アシュリが怒っているのは、ピッケルを心配しているからだ。

 ピッケルを思う気持ちが、もう姉弟愛に収まらないものになってきてると、あたしは、最近感じている。

 

 でも、嫉妬や焦りはない。

 離れてはいるけど、ピッケルとちゃんと喧嘩できるくらい話ができているから。

 それにショータが言っていたけど、巨人は本来、特定の夫婦関係を継続しない生態らしい。

 赤ん坊はすぐに自立して、子育てもしない。

 その血が流れているせいか、あまりピッケルに対する独占欲が湧いてこない。

 

 もちろんそれは、ピッケルの一番最初になったからってこともある。

 もしもピッケルと結婚したとして、妻が多いほど、第一夫人の価値が高まるとも思う。

 あたしは、ちょっと変なのかもしれない。


「カリンは、ピッケルとうまく行ってるの?」


「そうだね。距離はあるけどね。楽しいよ。筆談してると、楽しいし、安心するの。アシュリもじゃない?」


「そうだね。そうかも」


「ねぇ、アシュリ」


「なに?カリン」


「今度、ピッケルに気持ちを伝えてみたら?」


 ちょっと思い切って話を振ってみる。なんて言うんだろうか。


「何言ってるのよ。ピッケルにはカリンがいるじゃない。私は、研究が1番だし」


「じゃあ、2番は?」


「え?」


「2番」


「え。それは。。。」


 なんだかこっちまでドキドキする。


「2番は、たしかにピッケルのことを考えてるかも」


「知ってた」


「バレてた?」


「分かるよ。そんなの。あたしは気にしないよ」


「え?普通嫌でしょう?」


「あたし、普通じゃないかも。巨人の亜人だし」


「何それ?そういうもの??」


「ふふふ。そういうものかも」


「変なの。ははは」


 アシュリなら許せる。そうとも思う。誰でもいいわけじゃない。


「それにね。野望があるの」


「野望?」


「そう。小さな家族では成し遂げられない、巨大な野望。

 何世代もかかる果てしない夢。

 ねぇ、あたしたちで、ピッケルを王様にしよう」


「王様?!どういうこと?国を持つってこと?」


「違う、違う。

 ピッケルがやろうとしてることを全部やったらさ、それは国を超えた王様みたいになると思うの。

 それには、子供もたくさん必要だわ」


「カリン、面白いね。そんなこと考えたこともなかった」


「あら、ピッケルが言ってたよ。

 万能薬になるんだって。これってアシュリが言ってたことじゃない?」


「そうね。確かに。

 魔法は確かにすごいけど、本当の魔法は、不可能に見えることに諦めずに取り組んで、現実にする努力なのかもね」


「そうそう!あたし、お店の名前考えたの」


「え?なになに?確かに便利屋ってパッとしないわよね」


「そうそう!そうなのよ」


「それで?どんな名前?」


「ロム万能薬。

これからアレイオスにも、マツモトにも、リノスにも出店することになる。

 もちろん、他の都市にも。

 それをロム家で行うの」


「ロム家で?」


「アシュリ、あなたもロム家を一緒に作りましょう。

 これからは、女の時代よ。

 ピッケルって頼りないじゃない?

 なんか器が小さいっていうか。

 でも、すごい可能性を秘めてる。

 あたしたちが引っ張っていかないと!」


「ふふふ。カリンって天才ね。変人でもあるけど。いや、むしろ狂気?」


「そう。あたしは、あたし」


「いいね、それ。

 私は私。その通りだわ。

 でも、ピッケルは、私のこと好きかしら。学者なんて変人だよ?」


「はぁ?アシュリ、そんなの心配ないよ。

 ピッケルは、アシュリのことずっと大好きなんだから。

 横入りしたのは、むしろ、あたしの方よ」


「そうかな。気持ちを伝えるのは、なんだか怖くて」


「ピッケルに男を見せてもらわないとね」


「ピッケルが?」


「どっちがいい?」


「そうね。その方がドキドキするかも」


「あたしに任せて」


「ありがとう、カリン。どうして、こんなこと。。。?」


「面白い?」


「え?」


「わくわくしたか聞いてるのよ」


 アシュリからの筆談の返答に間が空いた。

 強引すぎたかな。いや、そうでもない。きっとアシュリにも届いたはず。


「うん。わくわくしたよ」


 よし!


「あたしもよ。それが理由」


「わくわくを理由に行動したことなかったな。そうか。

 わかった。進んでみる。

 胸がときめくほうに。

 そうだ、マツモトで見つけた魔草の件は、どう?」


「ふっふっふ。

 そよ風草プウキは、風の魔法の素材に、ランプ草は、光の魔法の素材になるわ。他にも闇キノコ、雷トカゲなんかもあるわ」


「すごい!ゾゾ長老が喜ぶわ!

 でもやっぱりみんなが知ってる、キキリ、ファイ、アインの需要がすごいわ。値段を安くしたのもあって、大量に注文がきてる。

 キキリなんて相場10万イエのところを5万イエで販売だもんね」


「マツモトは草木のドラゴンの地域っていうのもあって、ヴィラナでいくらでも魔草を作れるわ。

 本当はもっと安くしてもいいけど、一旦5万で市場を作るつもりよ。

 あたし、商売に向いてるみたい。

 ゴーレムのポシェタにキキリとファイとアインを500ずつ束にして入れておいたわ。一日でこれくらい余裕で作れる」


「すごいわ。それだけあれば1週間は在庫が持ちそう。

 月に3億イエくらい売り上げれそうね。パンセナのキキリで作ったクリームが美容や疲労回復や応急治療に大人気だし、アレイオスもどんどん人が増えているから、需要は増える一方よ。

 そうそう、コッペリームがアレイオスで大人気よ。

 コッペリームを大量生産する計画をしてるのよね?

 カリンって商売上手だわ」


「商売って、楽しいの。

 ピッケルが元いた世界のことを話してくれたわ。

 そこでは都市と都市の間で物流や情報通信があって、お金の交換や貿易も盛んだったそうよ。

 クリーニングや美容の商売も。

 それに船や空飛ぶ船に乗って、人々が世界中を安全に旅行していたそうよ?

 なんと月まで行くこともできたって!

 あたし、その未来像にドキドキわくわくしたの」


「なんかすごいわね。ぜんぶ実現した世界が見てみたいな。

 パナードの人たちは、まだ想像もしていないような未来だけど」

 

 そう。まだ誰も気づいていない。

 きっとこれはチャンスだ。あたしは、世界を変える場面に立ち会っている。

 ピッケルを独占するよりも、きっと家族を広げて行く方が、野望の実現に役立つはず。


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