カリンのヒラメキ
「ふっふっふ!あたしって、やっぱり天才だわ!」
ピッケルに食べさせたくて、試しにラトタスのポシェタにコッペリームを入れてみたら、大当たり。
ピッケル、すっごい驚いてたな。
ピッケルは、今、鬼殺しというダンジョンに1人で挑んで、ゴブリンを短剣で倒しまくっているらしい。
未発見のダンジョンの入り口も見つけたらしいけど、情報として売ることにしたのは、良い考えだ。
あたしは、ショータから頼まれて住み込みで冒険者ギルドで働くことにした。受付をしたり、依頼を受けて出かけたりする。
たまーに、登録したい人がくるけど、冷やかしも多くて、登録する人は増えていない。
朝日が眩しい。今日もいい天気だ。今日はギルドの掃除をして、花でも飾ろう。
綺麗で明るくするのも大切だ。
ショータが大騒ぎしながらかえってきた。
「大変!大変!
プトレマイオスから呼び出しを受けたよ!」
「へ?プト。。。なになに?」
「さぁ、いきましょう」
いつもより堅苦しい服を着たショータがためらいなく森に向かって歩いていく。
きっと正装なんだろう。街の支配者に会うということだから。
そういう私も街の服屋でかしこまった時に着る服を選んでもらった。
ドレス、なのかな?ちょっと露出が多いのが恥ずかしい。
「ちょっと待って!森って大丈夫?魔獣とかいないの?」
「僕は、魔獣の森をいくつも越えてマツモトまで自力でやってきたんだよ?冒険者のA級は余裕なんだ。
それに、この辺りの森は、D級でも倒せる弱い魔獣しか出なくてさ。
街の人も元々強いから、それくらいなら倒せちゃうんだ。
それもあって冒険者ギルドに依頼が少ないんだよね」
そうなのか。D級でも倒せる。それなら確かにあたしでも倒せそうだ。
「危険なのは魔獣よりスフィンクスだよ。巨大な動く犬の石像が2体。
いつも意地悪なナゾナゾを出して、ピラミッドに行く人を足止めしてくるんだ。
それで約束の時間に遅れたら大変だよ。今日は寝てるといいな。
たまに眠っているんだよ」
ナゾナゾか、あんまり得意じゃないな。
「あ!ショータ見て!スフィンクスってあれのこと?大きい。
でも、眠っているみたい」
「やった!ラッキー!そーっと行こう。
決して起こさないように」
そーっと行こう。
「ぐーっ」
やば。お腹鳴っちゃった!恐る恐るスフィンクスを見上げる。ピクッと動いた気がするけど、まだ大丈夫みたい。
はぁ。よかった。
たらりと汗が流れ落ちる。
ショータが無言でこちらをにらみつけてきた。
ごめん。ごめん。
「パキッ!!!」
ひーー!今度はショータが太めの枝を踏んで割ってしまった。
今度は、あたしがショータをにらみつける。
もう!
あ!
ゴゴゴッ
スフィンクスのうち一体が身体を起こして首をブルブル振った。
私とショータは、息を止めて身体を硬直させた。全身から汗が吹き出す。
ゴゴゴッ
スフィンクスがまた身体を伏して、眠りについた。
また、そろりそろりと一歩一歩慎重にに進む。
「へっくし!!!」
やば!くしゃみしちゃった!
終わった!
ゴゴゴッ
「だれだ」
「んんー?」
2体のスフィンクスがゆっくりと身体を起こした。
「カリン、走って!」
「わわわ!」
ショータについて走る。
速い!
Aクラスっていうのも分かる。全速じゃなさそうなのに、ついていくのがやっとのスピードだ。
「はぁ、はぁ!え?」
やっとピラミッドについたけど。。。
浮いてる!
銀色のピラミッドが、平屋の屋根くらいの高さまで、フワフワと宙吊りになっていた。
横の長さは、最大化したキュクロが寝転んで5人分くらいかな。
ピラミッドの高さは、ちょっとした山のような大きさだ。
どうやって入るの?
「こっちだよ」
ショータがぴょんぴょんとジャンプを繰り返してピラミッドの中腹にある入り口まで登っていく。
うそ。それが正式な入り方なの?
このひらひらスカートの布の少ない服で行く場所なの?服がはだけてしょうがない。
でも、そんなことを言ってる場合じゃない。
周りに人がいないのがせめてもの救いだ。
それ!それ!それ!
ふー!
やっと衛兵2人が立っている入り口に辿り着いた。
なんだかもう静かで高貴な雰囲気だ。
あたしを見下ろして待っていたショータがニヤニヤしていた。
「カリン、パンツ丸み見えだったよ」
ショータ、後で殴る。
ピラミッドの中はガランとくり抜かれて、光に満ちている。光の魔法なのか、ファイポとは違う乳白色の光。
壁も床も真っ白で天井が驚くほど高い。
床にはまっすぐ赤絨毯が敷かれていて、ただただだだっ広い白い床の真ん中に、3段ほどの白い小さなピラミッドが見える。
衛兵が20人ほど固まっているところを見ると、あそこに玉座があるんだろう。
無音の白いピラミッドの中をコツコツとあたしとショータが歩く音だけが響いていく。
なんだか夢の中のような非現実の場所。
かなり歩いて、やっと真ん中に辿り着いた。
甲冑を装備した長身で屈強な衛兵が斧槍を持って、赤絨毯の両側にズラリと並んでいる。
粗相したら、串刺しにされてしまいそうだ。
ショータが丁重に挨拶のお辞儀をした。
あたしもショータに教わったようにスカートの端を摘んで、ぎこちなくお辞儀する。
なんか堅苦しい。
「よくきたな。
お前がショータか。幼いエルフよ。意地悪なスフィンクスをやり過ごせたようだな」
猫が椅子にふんぞりかえって、足を組んで座っている。
偉そうだけど、可愛い!名前が長くて呼びにくいから、あたしの中で勝手にピーちゃんと呼ぶことにしよう。
「プトレマイオス様、お初にお目にかかります。
マツモトの冒険者ギルドマスター、ショータでございます。
連れておりますのは、冒険者カリンです」
「ふん。か弱い冒険者だな。
吾輩は、もっと強い冒険者を選んだ方がいいと思うぞ。
弱く、考えが浅い冒険者をギルドに受け入れるから怪我人が出た等と、程度の低い苦情になったりする」
もふもふして可愛いけど、侮れない。ピーちゃんの権力者オーラと不釣り合いな愛くるしさがたまらない。
「おっしゃる通りでございます。
登録テストを厳しくしてまいります」
「そうだな。くれぐれもな。
ところで、本題だ。
実は、この森を抜けて、白壁の滝を越え、憐れみの森という最近悪霊が溜まっている場所がある。
悪霊も問題だが、さらにそこにある洞窟に火を吹く犬の魔獣が繁殖し始めたという報告があってな。
すでに吾輩の兵が様子を見に行って、凄まじい火の攻撃で黒焦げにされておる。必要なら討伐して欲しいのだ」
「火を吹く犬の魔獣ですか。初めて聞きます」
え?それって炎犬じゃん。きっとあたしたちと同じように飛ばされて来たんだ。
「吾輩の衛兵やこの辺りの魔法使いは、火の魔獣を特に苦手としているだろう?
マツモトの街中に火の魔獣が来たら大騒ぎだ。
珍しい水の魔法の使い手が冒険者ギルドにいると聞いてな」
「それはそれは、お耳が早いことでございます。
実は、その水の魔法の使い手が、こちらのカリンでございます」
「ふむ。悪い予感がしたが、やはりそうか。
水の魔法が使えるとは言っても、今のままのカリンでは、か弱すぎるな。
いい眼をしているが。
この依頼で死んでしまわないか、心配だ」
おお。なんかあたし、ピーちゃんに心配されてるぞ。
「ご心配であれば、私ショータも同行致します」
「ふむ。それもいいが。
吾輩は、この依頼で冒険者ギルドの実力を試したいのだ。
ショータ、お前が強いのは分かる。
しかし、お前が依頼を解決しては、冒険者ギルドの実力を測ったことにはならないな。
まぁ、よい。
そこのカリン。この依頼をやってみせよ。
追い込まれて初めて達する境地もある。
どうなるかを見てみることにしよう。
依頼を解決できたら、吾輩が冒険者ギルドの後ろ盾になってやろう」
へ。あたし!?しかも1人で?変な汗が滝のように出る。
なんかショータにしてやられた感じがするけど。
ショータがチラッとこっちを見て「お願い!」と言っている。
まぁいいわ。
炎犬ならもしかしたら気持ちを通じ合えるかもしれない。
アシュリがアレイオスの北の魔獣の森でケルベウスと話ができたように。
ピーちゃん言っている悪霊ってのがよく分からないけど。
やってみよう。
「ピー、じゃなかった。プトレマイオス様のご依頼、承ります」
危ない。うっかりピーちゃんって呼ぶ失礼をするところだった。
「よし!行け、カリン。無事を祈る」
あっという間に、ピーちゃんへの謁見が終わった。
赤絨毯の上を出口に向かって、またコツコツ歩いていく。
「ごめんね、カリン。ぼくが一緒に依頼を受けるつもりだったんだ」
「もういいわよ。受けちゃったし」
きっとなんとかなる。なんとかしないと。
うまく行くと信じて、進むしかない。今は、きっとそういう時なんだ。
「プトレマイオスだよ!知らないの?この街の支配者、喋る猫プトレマイオス。猫耳族の始祖。
全ての猫耳族は、プトレマイオスとエルフから生まれた子供なんだ。
始祖にして、全世界の猫耳族の王、それがプトレマイオスだよ!」
なるほど、分からない。なんだ?猫なの?結局。
「それでそのしゃべる猫がどうしたの?」
なんだ、なんだ?
「だから、プトレマイオスが僕に神殿に来いって言ってるんだ。
カリン、一緒にきてよ!お願い!」
「ええ?でも、ここ誰もいなくなっちゃうよ?留守にしてる間に登録希望者がきたらどうするの?」
「そんなの来やしないよ!」
あららら。ショータがそれを言ったらどうしようもないだろ!
「ええ?あたしはいいけど」
「あぁ、どうしよう?
だいたいこういう呼び出しって、怒られたり、咎められたり、無理難題言われたり!
悪い予感しかしないよ!」
確かに。
「それで、神殿って何?どこにあるのよ」
「森の中のピラミッドだよ。三角形の!」
そんなのあったっけ?最初に空から見たときに、そんなの見えなかったけど。
「まぁ、いいわ。ついて行ってあげる。
ねぇ、そんなことより、いい報告があるんだけど」
「え?なになに?」
「実はね、ラトタスもポシェタを使えるんだけど、そこに入れたものは、別のゴーレムがいる場所でも取り出せることが分かったの!」
「ええ?ラトタスって、その騎士だよね?どういうこと?マツモトからリノスに物を送れるってこと?」
「そう!その通り!生き物はダメだけど、物ならなんでもオッケー!しかも、ポシェタの中では時間が止まるから、ミルプリームも溶けないの!」
「ミルプリーム?!あぁ、カリンは、コッペリーム好きだもんね。でも、リノスに物を送る機会ってそんなにないかも」
「もー!ショータ、もっと想像を広げて考えてみて!
ラトタスがミニゴーレムを作って、なんとかしていろんな都市に置いたとするでしょう?
色々なところと相互に物を送り合うことができるのよ!」
「各地の冒険者ギルドにミニゴーレムさえ置ければ、荷物を各地に届けられるってこと?」
「そうよ!すごくない?」
なんだかワクワクしてきた!
「んー。冒険者ギルドは、情報を集めて、守って、売買することで大きくなってきたんだ。
物流なんて、要望あるかな?
ここから一番近い冒険者ギルドがある街はジューケイなんだけど、歩いて1ヶ月かかるし、道中危険も多い。
魔大陸に大きな街はいくつかあるけど、それぞれ遠く離れているんだ。
住めるような場所が、限られているからね。
海路も魔獣が多くて航路がないし、リノスとアメダバドの間には広大なシリア砂漠があって、沿岸の迂回路があるけど、長く厳しい。
都市間を移動するのは、命知らずの冒険者か実力者、旅好きの変人くらいのものだよ。
今までわざわざ荷物を届けたいなんて思うことがバカバカしすぎて、誰も考えたことがないと思う」
あー。いいアイデアだと思ったんだけどな。ちぇー。
まぁ、そもそも遠い街に知り合いもいないよね。
世界中を歩き周るような危険なことをする人もいない。
「そっか。そうかもね。
ところで、冒険者ギルドって何ヶ所あるの?」
そういえば、冒険者ギルドのことも、この魔大陸のことも、あたしはまだあまり知らない。
「一番大きいのがメキシコの冒険者ギルド。次がリノスだね。
中規模なのは、カイロ、アメダバド、ロサンゼルス、チェンマイ、ミラノ、ジューケイ、そして出来たばかりのマツモトかな。どれも大きな街だよ。
パナードの赤道のあたりは生き物が住めるけど、北に行っても、南に行っても氷の世界だよ」
んー。聞いたことがない街の名前ばかりだ。
「そっか。アレイオスにも冒険者ギルド作りたいな」
「それはいい考えだね。その時は協力するよ!あぁ、早くマツモトの冒険者ギルドを大きくしたいな」
「そういえば、なんだっけ、プト。。。なんとか」
「そうだった!カリン、明日一緒にピラミッドにいるプトレマイオスに会いに行って欲しい。
明日は、冒険者ギルドはお休みにしよう」
まぁ、いいか。どうせ誰も来ないし。
しゃべる猫ちゃんも気になるしね!
「まぁ、いいわ。一緒に行ってあげる。一つ貸しね」
「ありがとう、カリン!」
可愛いショータの頼みだ、受けてあげよう。




