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短剣の基礎練習

「ピッケルって本当に便利ね。こんなに身軽なダンジョン攻略の装備、見たことも聞いたこともないよ」


 ターニュの予備の剣や装備、水や食料、魔道具、テントや簡易の寝具などをポシェタに入れて出発の準備ができた。

 ダンジョンに向かう人たちは、それぞれ身体よりも大きい荷物を背負っている。


「ありがとう。必要なものがあったらすぐに出せるから、言ってね」


「死なない程度に守っあげるわ。荷物を失うわけにはいかないからね。

でも、あんまり弱いと手がかかりすぎて困るわ。こっちまで危ないし」


 あははは。強くなりたいよ、本当に。


 ターニュが真剣な目で僕を見つめる。


「ピッケル、手を見せて」


 ターニュが素早く僕の腕を掴んで引っ張る。反射的にグッと踏ん張って抵抗した。


「うん。この手は、皮が分厚くてよく鍛錬されている。足腰も悪くないね。それにしては、なんでこんなに剣術が拙いの?」


「ずっと畑を耕しながら、身体を鍛えてきたんだ。剣術は、教わる機会が少なくて」


「なるほどね。よし、少しは自衛できるように剣を教えてあげる。あたしは、厳しいよ?それでもよければ」


 願ってもない!


「ありがとう!」


「それにしても短剣か。これは、難しい武器だよ。でも、ピッケルの身体にあっているのか。

 どちらにせよ剣士との打ち合いでは、押し負けてしまいそう。

 ちょっと素振りしてみて」


 そういえば、最初に剣を教えてくれたのは、ガンダルだったな。

 ヤードルも無事だろうか。それにカリン。

 必ず見つける。

 でも、今は、焦らず目の前のことを全力でやろう。


「どうかな」


「素振りの型は、悪くないわね。

 じゃあ、実戦で使えるようにしていこうか。

 短剣の技を1つ教えるわね。まずは基本の構えは、こうよ」


 意外と面倒見がいいのか。威圧感がすごいけど。

 ターニュは、僕に基本の構えを丁寧に教えてくれた。


 基本は、二つの動作でスムーズに行う。


 右手に持った短剣の剣先をみぞおちの延長線上に来るように構える。

 左手腕は、脱力して自然に体に沿わせる。


 シンプルだけど、難しい。


 次の動きは、右手で柄を握って、右腰で前に出る。

 相手が武器を持っていても、ひるむ事なく、左足から相手の懐に一気に飛び込む。自由な左手で相手の武器や右腕を押さえて、短剣で胴か喉を全力で突く。


「基本の技は、この胴突きね。

 構え、胴突き、この2つの動作を無意識で出来るくらいひたすら練習することよ。

 基本の技を極めている剣士は、意外と少ないから」


 胴突きは、相手の胸元に向けて突き上げるように、腕は力強く、剣をしっかり握って、真っ直ぐに使う。一撃で仕留める殺意と覚悟を込める。


「ピッケル、姿勢が悪いよ。

 姿勢は背筋を伸ばし、前のめりになったり反り返らないようにするの」


「こ、こうかな」


 できるだけ、ターニュの構えの真似をする。


「違う。力みすぎ。それじゃあ懐に入る前に切り捨てられるよ。脱力からの全力。分かる?」


「こう?」


 簡単な動作の繰り返しなのに、身体中が汗でびっしょりだ。


「全然だめね。でも、すぐにできなくて当然よ。

 ちゃんとあたしの構えを見て。どう見える?ピッケルとどう違う?」


 何が違うんだろう。全然分からない。


「強そう。。。」


「あとは?なんで強そうに見える?」


「隙がないのかな。先に飛び掛かっても、返り討ちに合いそう」


「そうね。でも、あたしは、今とってもリラックスしてるのよ。心を込めても、感情は込めない。練習の時も、殺すことだけ考える」


「殺すことだけ考える。。。」


「いい?ピッケル。剣は、責任。常に生命のやり取りなの。

 だから、お互い切先を向け合うとね、敵でも相手のことがよく分かる」


「そうなの?」


 確かにキーラとガンダルとヤードルがそうだった。すごく深いところで、分かりあっているみたいだった。


「そうよ。そして、命を頂くの。

 常に相手の命を狙うのよ。殺さなければ、殺される。

 死の前では、強者も弱者も、魔獣もエルフも人も平等よ。

 生きるか、死ぬか。それしかない。

 技量よりも殺意の強さが生死を分けることがある。

 手練れの剣士が血に飢えたゴブリンに殺されることもあるの。

 あたしは、自分を剣そのものだと感じる。純粋な殺意の塊。身体は剣を動かす仕組み」


 これが剣士。


 ゴクリ。怖いくらい強い精神。


「いい?

 特に短剣は、間合いが狭くて近い。殺し損ねたら、すぐに死が迫る。

 じゃあ今度は、左足を踏み込んで一気に懐に入って胴を突く動き!

 やってみて」


「とう!」


「踏み込みが甘い!そんなんじゃネズミも殺せないよ!

もう一回!」


「とう!!」


「腰が入ってない!もう一回!」


 もう何百回突きの動作を繰り返しただろう。

 滝のように汗が噴き出してくる。


 ターニュの模範動作を見ていると無駄がなくて、美しい。

 必ず殺すという覚悟が伝わってきて、恐ろしくもある。


 何回突いても、全く迫力が違う。

 もう膝が笑って、立っていられない。

 思わず、しゃがみ込む。


 はぁ、はぁ。もうクタクタだ。


「ここからが鍛錬よ!ピッケル、立つのよ。あと100回!」


「はい!」


 そうだ。僕は、強くなるんだ!


 思えば、アレイオスでカリンを助けるために飛竜に立ち向かった時も、無我夢中だったけど、全力で突いた。

 飛竜の鱗を貫通して肉をブッ刺した生々しい感覚が蘇ってくる。飛竜を必死で突いた感覚がしっかり身体の中に残っていた。


 これだ。きっとこの感覚だ。


 短剣を構えて、殺すことだけ考える。


「とう!!!」


「ちょっとだけ良くなったね。目がいいのかな。覚えがいいね。

 鬼殺しのダンジョンはゴブリンが出るから、ピッケルが対応してみよう。基礎練習と実践、その繰り返しだね」

 

「ありがとう。やってみるよ。

 一度見たら覚えろって、魔法の師匠に育てられたんだ。

 それにコツコツ地道に続けるのは、得意だよ。今も毎日魔法と剣の基礎練習と筋トレを続けてる。

 技の練習も毎日続けるよ」


「いい師匠だね。そう。どんな小さな一歩でも、続ければ案外遠くまで行くことができるわ。地道に続けることね。

 ふぅ。出かける前に、一汗かいちゃったわね。疲れたわ」


 確かに。そうだ、キュールをかけてリフレッシュしてからいこう。

 一緒にターニュも綺麗にしてしまおう。


「ターニュ、疲れを癒したり、身体を清めたり、服を綺麗にしたりする魔法があるんだ。

ターニュもかけていい?」


「え?ほんとうに?そんな魔法見たことないよ」


「キュール!」


 緑色の爽やかな香りの光が僕とターニュの全身を包む。

 ふぅ!やっぱりキュールの匂いを嗅ぐと落ち着く。


「わぁ!何これ!あれ?布のほつれや破けたところも治ってる!どういうこと?」


「あぁ、身体とさっぱり綺麗になるし、布の痛みも直せるよ。金属も小さな傷や汚れは取れる。欠けたりしてるのは、鍛冶屋じゃないと直せないけどね」


「洗濯いらずね。すごい。魔獣を戦うと、装備も痛むし、汚れるのよね。

 ピッケル、これで充分、商売して儲けれるわ!」


「確かにね。ニーチェに相談してみるよ。ねぇ、ターニュ、これをあげる。ポムルスっていうんだ。すごく酸っぱいけど、疲れが取れるよ」


「小さいりんごみたいね。美味しそう。いただきます!」


 ターニュがポムルスをシャリっと思いっきりかじった。


「ゲホッ、ゲホッ!

ひーーー!何これ!酸っぱすぎる!でも、なんだか癖になる味ね。

それに確かに身体が軽くなった!」


「疲れたら言ってね。毒や混乱、状態異常も治せるんだ」


「便利ね!ピッケルが手放せなくなりそう。疲れやすいあたしにピッタリ。ふふふ」


「ありがとう。ゴブリン、早く倒したい!」


「その調子ね。ピッケル、さぁ、そろそろ鬼殺しのダンジョン攻略に向かおう!」


「よし!行こう!」


 初めてのダンジョン。どんな感じなんだろう。不思議と恐怖や不安はない。

 前に進む。それしかない。

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