ポッコロ祭
「何よ、ピッケル。ブブンパトーナメント1回戦負けなの?
でも、相手がトラクじゃ、しょうがないわね。優勝候補だもの」
「やっぱり強かったよ。カリン、一緒に決勝戦のゾゾ長老を応援しに行こう!」
「こっちよ!もう始まってるわ」
ポッコロ祭が始まって、村の広場は大賑わいだ。
広場に出店が立ち並んでいる。
肉や魚を焼いて出す店や、ピカリ焼きというサイコロみたいな形で回転焼きのようなあんこの入ったおやつのお店、肉を挟んだパン、お酒、ピーニャという甘いエッグタルトのお店もある。
輪投げや的当てのような遊戯ができるお店もある。
屋台の並ぶ広場の混雑をかき分けて、真ん中のブブンパトーナメントの決勝戦に向かう。
「早く!もう!」
カリンが僕の手を掴んで引っ張って駆けていく。手が痛い。いつもながら強引だ。
これって手を繋いでるって言うのかな。
急ぐカリンのたわわな胸が柔らかく揺れている。
広場の中心で一番盛り上がっているのがブブンパ大会だ。
決勝戦は、大勢で見えるように人間大の大きな駒を動かしていく。
しっかり賭けの対象になっていて、その熱気もすごい。
子供は、賭けができないけど。
まずはトーナメントを勝ち上がって優勝して、絶対王者エタンに挑戦するのは誰なのか。
優勝候補の筆頭は、ゾゾ長老だ。3年前からハンデ付きで挑戦する形になってから初回と前回の2回、挑戦権を得ている。
もう1人は、トラク。第二回のトーナメント優勝者。エタンが村に来る前は、元々村で一番のブブンパ使いだった。
エタンが村に来てから、ゾゾ長老がエタンに勝つためにメキメキと力をつけている。
今行われている決勝戦も、ゾゾ長老とトラクの順当な対戦だ。
賭けの対象になっているのもあって、トラクを応援する人、ゾゾ長老に賭けている人が応援合戦で大人たちがすごい気迫だ。
「ゾーゾ!ゾーゾ!!!」
「トラク!意地を見せろ!!!」
盤上は、かなり複雑でどっちが優先かもわからない。このレベルになると駒の動きを見ても、ほとんど何も理解できない。
エタンは、ブブンパの絶対王者として尊敬を集めているだけではない。
村長では珍しく自分の生活が質素倹約。
一夫多妻や一妻多夫といった複婚制が当たり前のこの世界で、パンセナだけを奥さんしているのも、好感度が高いらしい。
その上、賭けや祭の収益を貯めて、近隣の村が不作や洪水などの災害で困った時に使って助けたり、病気の人を治す薬を買ったり、公共に役立てている。
王都がしないような細やかな行政サービスを提供する手腕や人柄が評価されて、近隣の村はエタンによく従うし、人口も増えている。
元々、王都カラメルで埋もれていた才能をゾゾ長老が見つけて、孫のパンセナと縁談にしたのがエタンがパスカル村に来たきっかけだ。
司会進行役のカーゴがカランカランと鐘を鳴らす。勝敗が決したみたいだ。
「トラクがブブンパ!優勝、トラク!!!」
おぉぉ。
どよめきが会場に満ちていく。ゾゾ長老が負けた。でも、ゾゾ長老が晴れ晴れと笑っている。
「カッカッカ!腕を上げたなトラク!あっぱれじゃ。悔しいが、楽しかった!わしの代わりにエタンに一矢報いてくれ!」
トラクは、汗びっしょりで疲れ果てている。
「ギリギリ勝てたな。どっちが勝ってもおかしくなかった。。。どっと疲れたよ。やれやれ、次はエタンか」
ゾゾ長老とトラクが握手を交わしている。周りは賭けの結果で大騒ぎだ。オッズはゾゾ長老の方が有利の見方だったから、負けた人もかなりいたはずだ。
お祭り用に派手な衣装を来たエタンが入場すると、会場に熱狂の歓声が上がる。
「よ!エタン!早く王様になってくれ!」
辺境でのエタンの人気は絶大だ。それを煙たがる王族や貴族もいるが、たかが辺境だからということで、なんとか不穏なことにはならずに済んでいるみたいだ。
エタンにトラクが挑戦する決戦が始まった。これは賭けの対象になっていない。
それはなぜか。
カランカラン!
あっという間に勝敗がついた。言葉を無くして、お化けにでも会ったような恐怖の顔で四つ這いになるトラク。戦ったものだけが感じるエタンの圧倒的で理不尽な強さ。
見ているだけの周りの人はいつも結果として、あっけらかんと受け入れている。
賭けが成立しないくらい強すぎるのだ、エタンが。
おいおい。異常だろ。大駒をトラクに渡すハンデでこの強さかよ。。。
将棋でいうと、飛車と角を相手に渡すハンデで、圧勝してしまうエタンの強さだ。
将棋に比べると短時間で勝敗がつきやすいゲームではあるけど。
ブブンパの表彰式がはじまった。近隣の村々の村長がエタンにお祝いの品を贈呈する式典になっていく。
トラクにも惜しみない拍手と激励が贈られる。
「トラク、よくやった!来年は勝てよ!」
「来年もトラクに賭けるぜ!」
「お前がゾゾ長老に勝ったせいで、大損したぞ!」
賭けに負けた人の無粋なヤジも混ざる。品がないけど、これくらいはご愛嬌だ。
「みなさん、お集まりありがとうございます」
エタンが皆に向けて言葉を投げかける。
会場の皆がエタンの言葉に耳を傾けて、静かになる。
「今日も無事ポッコロ祭を開催することができました。今年も近隣の村々で協力し、助け合ってよい一年にしましょう。
皆の日々に安心と安全、そして、笑顔や喜びが満ちるように日々努めてまいります。
今日の晴れ晴れとした春の陽気のように楽しいブブンパ大会になりました。来年からハンデを増やしましょう」
和やかな拍手で会場は満たされた。
「そして、この場を借りてアシュリから挨拶があります。アシュリは、パスカル村や近隣の村々を回り、癒しの魔法で多くの人々を助けてくれました」
舞台袖からアシュリが出てきた。初めて見るドレスを着ている。なんて美しいんだ。ため息が出てしまう。
「皆様、短い間ですが、多くの励ましの機会をいただきありがとうございました。
王都に帰ることになりましたが、ここで学んだこと、経験したことを糧にしていきます」
「アシュリ、ありがとう!」
あ、思わず。声を出してしまった。あわわ。
みんなが僕を見る。
カリンが肘で僕をつっつく。
「ちょっと、挨拶中でしょ?何やってんのよ」
自分の顔が真っ赤になっているのが分かる。火が出そうなくらい熱い。
アシュリが優しく微笑みながら言葉を続ける。
「良き弟子にも恵まれましたね。
皆様に素晴らしい毎日があること願っています」
挨拶が終わると、アシュリがこっちにやってきた。
「ピッケル、ありがとう。カリンも。
緊張したけど、ピッケルのおかげで、落ち着けたわ」
思い出すだけで、汗がまた流れる。
うー。恥ずかしい。
ポッコロ祭は、まだまだ活況だ。
村の出口には、アシュリを特に慕う村人が30人ほど集まっていた。
王都からの迎えの馬車がアシュリを待っている。
かなり高齢のおばあさんがアシュリの手を握っている。
「おかげで腰痛がよくなったよ。10歳は若返ったわい」
「ばぁさん、10歳若返っても80歳じゃろ」
村人が言うとドッと笑いが起こった。
「アシュリ、もう行ってしまうのかい?」
「元々は、もっと早く王都に帰るべきなのに、居心地がよくてつい先延ばしにしてしまいました。
これはパンセナと一緒に作ったキキリをほんの少し入れたクリームです。
腰痛にも効くし、美肌効果もあるわ。
みんなで使ってね」
「おぉ、アシュリ、悪いねぇ。
腰が痛くなったら使ってみるよ」
おばぁさんがニコニコして喜んでいる。
カリンがアシュリに抱きつく。
「アシュリ、ありがとうございました。
毎日修行を続けて、必ず夢を叶えます!」
いいなぁ。大胆に抱きつけて。
僕は。。。なんだか気恥ずかしい。
わ!
アシュリが僕を抱きしめる。
「ピッケル、あなたに会えて楽しかったわ。
活躍を楽しみにしてるわよ」
アシュリのいい匂い。
恥ずかしくて、アシュリから身を剥がすように離れる。今日は、顔が赤くなるようなことばかりだ。
「アシュリも、その。。。お元気で」
気の利いたことが言えない。相変わらずの自分に呆れる。いや、もう一言言いたい。
「大好きでした。アシュリが。その。。。」
「私もピッケルとカリンが大好きですよ。
またお互い成長して会いましょう。
じゃあ、元気でね」
あぁ、なんだろう。言えたのか?伝わったのか?何を伝えたかったんだ?うー。
アシュリとの日々がずっと続くと思っていた。もっと続いてほしいと。
あぁ、まだ気持ちが散らかったままだ。
「ほら、ピッケル。ぼさっとしてないで荷物を馬車に載せるのを手伝って!」
「う、うん」
馬車がゆっくりと前に進み出す。
だんだんと馬車が小さくなっていくのを、ずっと見ていた。
僕は、強くなろう。成長して、胸を張ってアシュリにまた会おう。
アシュリ。さみしいけど。。。
大好きだけど、遠い。心も物理的な距離も、実力も。
淡い憧れや恋焦がれる気持ちも、届かない。
きっとこれは片思いだったんだ。そして、今日までの。
涙が溢れ出てくる。
「よし、よし。よく頑張りました」
カリンが僕を抱きしめてくれた。
恥も忘れて、カリンの胸の中で赤ちゃんのように泣き喚いた。




