カリンと騎士
ええ?!
目を開けると。。。
なに?どういうこと?
うわぁぁぁ!
どうりで身体がスースーするわけだ!
あたしは、なんで空から落ちてるの?!
ピッケルの姿も見えないし!
太陽が眩しい。
下には大きな雲がいくつか見える。
あ、あたしだけ?!
寒い。空気が薄い。雲に突っ込んで、自由落下していく。
雲の中は真っ白だ。凍える。
一瞬で大きな雲を突き抜けた。
下には広大な森が広がっている。
晴天の下、輝くような緑の樹海。
遠くに雲まで突き抜ける巨大樹が見えた。
なんて大きさ!?
もしかしてあれって草木のドラゴン?
雲より高い大きな山の麓には真っ黒な黒曜石の山のような塊が見える。
あれは何!?
それに雄大な景色が素晴らしい。
だけど、このまま落ちたら、絶対死ぬ。
ギュュューン
何かが近づいてくる。
こんな時に襲われたらやられる!
ギュュューン
目の前に飛んできたのは、騎士ゴーレムだった。
よかった。
でも、様子が違う。
腕が翼のように変形して、脚があった場所からは炎を吹き出している。
飛びながら、あたしに近づいて目の前にきてくれた。
なに?どうしたらいいの?
背中の上の方に掴みやすそうなハンドルがついていた。
これを掴んで、乗れってことなの?
あたしは、手を伸ばして騎士ゴーレムの背中のハンドルを掴む。
騎士ゴーレムにまたがる。お尻を突き出すような格好でパンツが丸見えだ。
恥ずかしい。誰かに見せれる姿じゃない。スボンに着替えないと!
そんなこと言ってる場合じゃない!
スルスルとベルトが伸びてきてあたしの身体を固定してくれた。それに温かい。騎士ゴーレムの身体から熱気が出ているから、寒さを感じないですむ。これはいい。
「何が何だか分からないけど、あの大きな樹の方に飛んで!」
騎士ゴーレムが無言でグルリと旋回して、巨大樹の方に向かっていく。
落下して死ぬのは免れたけど、まったく状況がわからない。何をどうすればいいのかも。
ピッケルがどこに行ってしまったのか、無事なのか、また会えるのか?
足元に初めてみる大きな街が見える。アレイオスよりも王都カラメルより大きな都市だ。
木で作られたような10階建くらいの建物が無数に林立している。
よく見えないが人が暮らしていそうだ。
でも、ゴリアテ国でも、マルキド国でもないよな。
あんな大きな樹の話なんておとき話以外で聞いたこともない。
ここは、一体どこなんだろう?
人が住んでいるなら、あたしたちが知らない人類ってこと?
鳥の群れが隊列を作って飛んでいる。鳥と一緒に飛ぶなんて、爽快だ。
分からないことばかりで、だんだんどうでも良くなってきた。
つべこべ考えても仕方がない。
わわわっ!
騎士ゴーレムがビューンと旋回したり、逆さまに飛んだり!
怖いけど、楽しい!
あたしを楽しませようとしてくれてるの?
一気に急上昇したと思ったら、加速して急降下!!
きゃぁぉぁ!!!
楽しい!これ好き!
遊びながら飛んでいく。
巨大な樹があまりに大きくて、距離感か掴めない。飛んでも飛んでもなかなか近づかない。
森の中に巨大な四角錐の石の建造物がある。三角形のシルエットが森から突き出していて、不思議だ。ピッケルが見たら喜んだかもしれない。遺跡とか好きそうだったしな。あたしは、興味ないけど。
遺跡の近くでは、大きな一つ目の巨人が森の木々から上半身を出して歩いている。
あの魔獣とは戦いたくないな。
しばらく飛んでいくと、いきなりボタボタッと雨が降ってきた。
さっきまで晴れてたのに?!
見上げると、ドス黒い分厚い雲が空を隠している。しかも、嵐の中だ。
びゅうびゅうと風が吹き荒れて、バケツをひっくり返したような雨が滝のように覆い被さってくる。
くはっ!
飛んでいると風と水にもみくちゃにされる!
鼻から水が入ってくる。目も開けない!
乱気流で、騎士ゴーレムが風に翻弄されてグラグラする。
まずい!危険すぎる!
バリバリバリバリ
数えきれない雷が乱れ落ちる!
何これ!
ビカビカビカ
目の前が真っ白になるくらいの強烈な光!
やばい!
はぁ!はぁ!空気が薄い!目が開けられない!
あ、あれ?
晴れてる。いつのまに?振り返っても雲一つなく晴れ上がっている。
お、おかしいな。
でも、服はびしょ濡れだし、髪がバサバサになってる。
キュールで身なりを整える。この魔法は、本当に便利だ。
騎士ゴーレムの高度がだんだん下がって、炎の勢いが弱まってきた。
魔力が少なくなってきたのかな。
巨大な樹まで魔力が持つだろうか。ギリギリたどり着いて、何かあった時に逃げれないのは危険だ。
森の中で一本抜きん出て大きな木が立っている。他の木の5倍くらいの高さだ。
これも何か普通じゃない気配だ。それに何か呼ばれている気がする。
危険かな。
何も分からず、飛んでいるのもよっぽど危険だ。
何か問題があれば騎士ゴーレムに乗って飛んで逃げればいい。
「あの森の中で突き出た大きな木に向かって。なにか、気になるの」
騎士ゴーレムが減速しながら高度を下げていく。
大きな木のそばには湖が広がっている。
騎士ゴーレムが水飛沫を立てながら湖面を飛ぶ。
飛沫がキラキラと光る。
ひゃっほーーー!!
気持ちいい!
そして、ゆっくり湖畔に着陸した。ベルトがスルスルと外れて、ヨロヨロと立ち上がる。慣れない姿勢を続けたから関節が固まってぎごちない。
「おっきいなー!近くでみるとこんなに大きいのね!」
騎士ゴーレムも二足歩行できる形に変形して立ち上がった。器用な鎧だ。
でも、それから動きを止めて、目の光が弱まっていく。魔力不足かな。
落ち葉の形を見ると、シラカシなんだろうか。パスカル村でもよく見る木だ。もちろん、こんなに大きい木を見たことないけど。
巨大な木から低く唸るような声がした。
「フォッフォッ、来たな。
コフィの騎士ラトタスを連れた少女よ。わしの呼び声が届いたか」
えっ?木に誰かいる?人陰が見当たらない。
だれ?コフィの騎士?魔王コフィの知り合い?
騎士ゴーレムにはラトタスという名前があったのか。今度からラトタスと呼ぼう。
「よきよき。
分からないのも仕方がない。
まさか木がしゃべるとは思わんじゃろう」
え?
なんてこと!木がしゃべる?
よく見ると木の幹に顔のような模様が見える。
「そうじゃ。わしがしゃべっておる。
わしは、植物王エイゴンじゃ。草木の精霊でもある」
ええ?精霊?姿をこんなに堂々と見せているの?
「は、初めまして。エイゴン様。あたしは、カリンという名前です。見える形でいらっしゃる精霊を見るのが初めてで、失礼しました」
「フォッフォッフォ!
わしは、元々植物王で、後から草木の精霊を引き受けたからな。
草木のドラゴンもそうじゃ。もともと世界樹としてすでにあった」
なるほど、分からない。でも言葉が通じるのが不思議だ。頭の中に直接言葉が降ってくる感じ。
「あたし、いきなりこの辺りに飛ばされてしまって。何も分からないんです。
元いた場所に帰りたいんです。その。。。魔王コフィのお墓のあたりです」
「おお。カリンは、そんな遠いところから来たのか。
この近くのマツモトからアマゾンの森の中へコフィが人類を連れて逃げ込んでからもう1万年ほどか。
土のドラゴンが眠る土地にコフィが助けた人類が住み着いたとポッコロから聞いておる。
なるほど、カリンは、コフィとスピカの子孫じゃな。血は濃くないが、選ばれし巨人の赤い目が懐かしい。赤い目の力どころか巨人の力にもまだ覚醒していないようじゃが」
あたしが魔王コフィとスピカの子孫?選ばれし巨人の赤い目。。。そうか、お父さんが聞かせてくれたおとぎ話、実話だったの?!
父さんからは、たくさんのお伽話を聞いた。
毛むくじゃらで赤い目の天候を操り、大地を動かし、地を裂き、山を作ったという巨人の王ユピテルの話も好きだったな。
「あたし、ポッコロ様の森の近くで育ちました。
でも、あたしがコフィの子孫。。。そんなこと初めて聞きました。
小さな頃からコフィとスピカの冒険をおとぎ話として、父がしてくれていたけど。。。。
この赤い目は、親戚にも1人もいない不思議な目で。。。そう、スピカみたいだって、父が」
たしかにお父さんが巨人神拳を名乗っていたけど、関係あるのかな。
そんなに特別な資質があるなら、魔法使いではなくて、武道を極めてお父さんから一子相伝の奥義を伝授してもらえばよかったかも。
何を今更。迷うな。魔法使いになると、あたしは決めたんだ。
二心持っては、成らぬ。
魔法使いか、武道家かどちらかを選ぶ時のことを思い出す。お父さんの武道家としての厳し目と声を。
迷いを断ち切るように、首を振る。
それから、サッとポケットからポッコロ様の人形を取り出して、エイゴン様に見せる。
「そうか、そうか。ポッコロの。人形も可愛いらしいのぅ。カリンの顔に似ておるな。フォッフォッフォ。
赤い目は、選ばれし巨人の特別な力が隔世遺伝している証。
覚醒すれば、カリンの力になるじゃろう。
まぁ、カリンが望めば、じゃがな。
しかし、本当に遠くからきたな。ちょうどこの星の裏側じゃ。広い海もある。もうエネルギーが切れているラトタスでは、魔力が回復してもたどり着けんじゃろ。
かつてコフィは、大鵬という巨大な魚に乗って海を渡った。
大鵬は、巨大な魚でもあり、巨大な鳥でもある伝説の存在じゃ。
大鵬に乗れれば帰れるじゃろうが」
大鵬なんて聞いたことがない。魔獣なんだろうか。魚でもあり、鳥でもあるなんて、意味不明すぎる。
そんなことより、ピッケルだ!ピッケルを探さないと。
「そ、それと友達を探していて」
「友達?本当にただの友達か?」
なんだか色々見透かされている感じだ。
「こ、恋人です。き、昨日そうなったばかりですけど。。。」
「なんと!それはいかん。昨日付き合ったばかりの恋人同士が、離れ離れで行方不明とは!カリンもさぞ寂しくて、不安であろう」
そうだけど、面と向かってそう言われると恥ずかしい。
失礼だけど、樹木に人間のデリカシーや心情を配慮するのは期待できないな。
「ええ。まあ、そうです」
自分が赤面しているのが分かる。
「ふむふむ。近くに1人だけ人類がおる。創世のパバリ王という何万年も生きる老人じゃ」
王様?!何万年も生きてる?なにそれ?本当に人類なの?
「パバリ王、どのような方でしょうか」
「わしの友人じゃ。王というだけで国はとっくの昔に失っておる。気さくな男じゃからカリンも安心するといい。
必ずカリンの助けになるはずじゃ。聞きたいことはなんでも聞くといい。
巨人の力の使い方も教えてくれるじゃろう。
ここに呼んでやろう。すぐ来てくれるはずじゃ」
「すぐってどれくらい。。。」
「大丈夫。早ければ明日にでもくるじゃよう。
わしの近くにいれば魔獣に襲われる心配もない。サイクロプスも守ってくれよう。
夕方にわしの娘たちが帰ってくる。カリンに紹介してもいいかな?」
え?娘たち?
「ええ。分かりました。お世話になります」
分からないことばかりだけど、まず安心できる場所を見つけることができたみたいだ。
ピッケルは、大丈夫だろうか。
真っ青な空を見上げる。
きっと、大丈夫。
何度もあたしを救ってくれたピッケルなら。そう信じることにしよう。
ピッケルの言葉が記憶から呼び起こされる。
こうなったらうまくいくと信じるしかない。
そうだ。その通りだ。




