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アシュリの夕陽

「・・・パパ・・・おき・・て・・・」


 人間の声のような違うような不気味な声がする。


 3人とも大広間に向かって慎重に進む。


 ウォォォ!!


 後ろから怪物の唸り声がして、振り返る。


 頭に真っ赤なペカリの花を咲かせたガナシェ伯が立ちあがっている。白目をむいて、口と花からペカリの根っこが伸びている。


 メルロが恐怖で飛び退く。


「ひぃ!!!生きてた!いや、死んでる!」


 カリファが最大限の魔力を溜める。


「ゾゾファイガス!!!」


 強烈な炎の一撃。素晴らしいスピード。火葬完了だ。


 壁をツルが突き破って伸び始めた。天井からばらばらと木の破片が落ちる。


バリバリ


メキメキ


 建物全体が歪んで行くようだ。

 メルロが青ざめて問う。


「なんか危険な気配だよ。逃げる?戦う?」


 カリファが慎重に答える。


「状況も少しだけ分かった。

 太いツルを切れば、8割くらいの人を助けられる。

 逃げようと思えば逃げれるな。

 明日、改めて討伐作戦を立てた方が確実だ」


 私は強い決意を込めてカリファとメルロを見つめる。


「私は、今にも女神を倒したい。時間が経つほど、体力の少ない女や子供から赤い花が咲いてしまうから!」


 カリファが分かっていたように、ふぅっとため息を一つする。


「そうよね。アシュリなら絶対そういうと思った」


 最後にメルロが叫ぶ。


「化け物が女神を名乗るのは許せないわ。やっつけましょう」


 おい、バランス役!

 でも、そうだ!それでいい!


 3人の意思は、あっさりと一つに決まった。

 研究室の壁がメリメリと音を立てる。


「まずい、建物が崩れる!まず外に出よう!」


 走って、外に出る。


「なにこれ?!」


 これが女神!?

 ククル魔法院全体が一つの魔獣のような巨大な植物の化け物になっている。

 頂上には、巨大な赤い花。

 私たち3人は、蟻のような小ささだ。大きさが違いすぎる。

 ゾゾファイガスでも燃やし尽くせない!


「・・・ゆ、ゆ、許さない!パパをか、返せぇぇぇ!」


 赤い花のペカリ・ゾンビが、うじゃうじゃ湧いてくる。

 何百、何千のツルが私たちに向かって伸びてくる。


 早い!


 思った以上に素早く動く。


 メルロが手足をツルに巻き取られて、化け物本体に引き摺り込まれる。


 「メルロ!!!私のメルロに触れるな!」


 カリファがゾゾファイガスを構えるが、撃てない。

 女神がメルロを盾にするように引き寄せていく。


 知能が高い!どうする?


「ジェッカ!!」


 鋭い水の刃がツルをズタズタに刈り取る。


「デヤァァァ!!」


 そして、茶色い髭の偉丈夫が長剣でさらにツルをぶった斬る。


 ソニレテ団長だ!


 全速力で走って駆けつけたソニレテ団長がメルロに絡まったツルをバッサバッサと刈り取る。

 ツルから解放されて落ちるメルロをカリファが受け止めて、抱きしめる。

 さらに迫るツルをソニレテ団長の剣が叩き切る。

 

 「私が来た!もう大丈夫だ!」


 さすが、アウアウ様が惚れ込む男前だ。カッコ良すぎる!

  ジェッカの威力もアクアウ様の加護がしっかり効いている。天下無双の強さ。

 


 続いて50人ほどの騎士がククル魔法院に集まる。

 ツルには剣の方がいい。

 さらに、50人の魔法使いの増援もきた。

 陣頭には、ゾゾ長老もいる。


「ヒッヒッヒ!待たせたな!

 一眠りして、魔力も全回復じゃ。桁違いのゾゾファイガスを見せてやるわい。

 標的の形状は、想定の範囲内じゃ!作戦名B3!

まず、レゴレで扇状に足場を作れ!」


 手際よく後衛の魔法使いが背丈位の土塀を3箇所に分けて作って行く。これで騎士の頭上からファイガスを撃てる。

 さらに階段状に3段仕込みにする。中央の土塀の最上位はゾゾ長老。中段は、私とカリファとメルロが杖を構える。

 扇状で、一点に火力を集中する。

 練られた陣形だ。さすが、ゾゾ長老。


「行くぞ!全員で最大限火力!

 10秒後じゃ!構えよ!」


 前衛の騎士たちが伸びてくるツルを斬りまくる。よく見ると回復したゴリアテ国の兵士や魔法使いも加勢している。

 赤い花のペカリ・ゾンビは切っても死なないが、足を切れば、動きが鈍くなる。

 斬って斬って斬りまくる!特にソニレテ団長の活躍がすごい。右手の剣で手前のツルを斬り、左手のジェッカで遠距離攻撃。

 1人で百人力、いや千人力だ。

 ソニレテ団長が元々女だろうが、子供だろうが、老人だろうが赤い花のペカリ・ゾンビに等しく平等に躊躇も容赦もなく淡々と斬撃を繰り出す。

 生も死も平等。

 そうだ、その通りだ。


「根元が急所のはずじゃ!

 目標、大広間!化け物の足元を狙え!

 この一撃に魔力を出し尽くすんじゃ!


 3、2、1!!!


 行くぞ!

 ゾゾファイガス!!!」


 ゾゾ長老のゾゾファイガスは、攻城兵器として使える位のド迫力だ。

 私たちを含めたファイガスの力も合わさって、史上最大のゾゾファイガスだ。


 ゴォォォォォ!!!


 キェェェェ!!


 耳をつんざく、大音響の断末魔が鳴り響く。

 胸が痛む。彼女もまたガナシェ伯の残酷な実験の被害者なのだ。


「まだまだ!もっと!もっと!今に全てをかけるんじゃ!わしもまだまだ、若いもんに負けんわい!ヒーヒッヒッヒー!!」


 ゾゾ長老がどんどん若返っている気がする。

 ゾゾファイガスを出しながら、ポムルスの実をガリっと大口でかじる。


 さらに爆発的な業火が放たれる。

 これなら飛竜だって焼き尽くせる。


 ブゴォォォォォ!!!


 ギョエエエ!!!


 焼かれる化け物の叫び声がまだ続く。建物全体に炎が燃え広がって、巨大な炎の塔のようだ。

 最後の抵抗をするようにツルが倍くらいの数で伸びてくる。でも、もう半分くらいのスピードだ。


 勝利は近い!


 騎士たちも必死に剣を振る。

 ソニレテ団長が最前線で舞うようにツルを斬りまくる。この人が味方でよかった。間違いなくこの場にいる全員がそう思っているだろう。


 炎に包まれて、女神と呼ばれた巨大なペカリの化け物が無惨に焼け落ちていく。


 陽が沈みかけた頃、ククル魔法院と女神が焼け落ちた。

 地を這うツルも全て焼き払った。

 この植物を切った青臭い匂いと焼け焦げた匂いが混ざった異臭を忘れることはできないだろう。


 ゾゾ派の魔法使いとゴリアテ国の魔法使いが、お互いの健闘を讃えあい、喜び合っている。


 しかし、全員力を出し尽くして、ヘロヘロだ。もうファイガス一つ撃てない。


 増援の騎士と魔法使いに助けられながら、隔離壁まで避難する。

 騎士たちがペカリの太いツルから解放された人たちを担いでいく。


 生き残ったゴリアテ国の兵士によると、蛮勇王ガラガラがザーシル王と一部の王族を捕虜にして、母国に逃げたらしい。

 自国の兵士を見捨てて逃げるなど、蛮勇王も大義のない人物だ。

 しかし、転んでもただでは起きない強かさ、しぶとさを感じる。

 ザーシル王を捕虜にしておけば、次の手を打てるということなのだろう。



 鮮やかな夕焼けが私を照らす。


 全員を救うことはできなかった。

 なんとか2万人以上を救うことはできた。

 結局犠牲者は5千人を下回りそうだ。

 でも、私のファイガスで何人焼き殺した?

 赤い花のペカリ・ゾンビには、子供もいた。誰かの父や母、大切な家族だった人たちだ。

 犠牲者の7割が女と子供だった。

 ただただ無念だ。


 全ての人を救いたかった。

 もともとは、ガナシェ伯の救いようのない大罪のせいだ。でも、自分を責める気持ちを抑えられない。

 魔法使いさえいなければ、研究機関などなければ。。。

 

 悔しくて自己嫌悪する私をゾゾ長老がきつく抱きしめる。


「よくやった!よく無事帰った!

もう自分を責めるな。

 見ろ!プリンパル国の兵士とゴリアテ国の兵士が協力する姿を。

 見ろ!助かった人たちが喜び合う姿を。

 人は、必ず死ぬ。

 いがみ合うより、助け合え。

 殺し合うより、愛し合うのじゃ。

 今、それは実現された。

 アシュリ、お前の決断の結果じゃ。

 お前の行動が、国を超えて全員を巻き込む力になった!

 わしは、お前を誇りに思う!

 お前も自分を誇れ!

 きっとお前の亡くなった両親もお前を誇りに思うはずじゃ!

 見ろ!あのオレンジに輝く夕陽を。

 明日は、晴れるぞ。

 だが、それを見ることができるのは、今を生きたものだけじゃ」


 涙が止まらない。私は、私は。。。


 カリファとメルロが私を抱きしめる。


「アシュリ!!」


 そうだ。前を向こう。

 目の前のことを最大限、今に全力を尽くすこと。


 私は、やりきった。

 胸を張ろう。


 そうだ。

 私は、魔法使い。

 全ての病める人を癒すのだ。

 万能薬など、ない。

 私が万能薬になる。

 そうやって生きる。生きて行く。


 今日も、これからも。


 この夕陽に誓って。


 私は、やっと両親の夢を背負うことから解放されたのかもしれない。


 これからは、私の人生を生きよう。

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