我はラカン
「「ドラゴン?!」」
早朝、円卓に集まった大勢の声が、天井が高い広間に鳴り響く。アシュリはいないけど。
ミニゴーレムもテーブルの上に座っている。
「そうじゃ。我はラカン。カンカ・ラカン、調和のドラゴンじゃ」
金髪の可憐な少女は、上から目線で壮大なことをのたまう。
黙って入れば、奇跡のように可愛いのに。
流石のゾゾ長老も困り顔だ。
「なるほど。調和のドラゴン、カンカラカンは死んだと精霊から聞かされていたのじゃが?」
ラカンが僕を見つめる。
「我を殺すとは、ピッケルめ、天晴れな強さだ。
死後、天界にて女神様から再び地上に降りるようにいわれてな。
全ての力を失い、魔力さえもたない人類という虫ケラの身を借りてきたのだ」
あっぱれ。。。褒められたのか。
「それで、なんでまた地上に降り立ったのじゃ?」
「わからん」
「わからないとはどういうことじゃ?」
「理由は、伝えられておらん。
女神様から言われたのは、ただピッケルと共に大地の割れ目を目指せ、ということだけだ」
謎すぎる。
目的もわからず、魔法も使えず、態度だけはドラゴンのように大きい。
キーラが言葉を選びながら慎重に確かめる。
「女神様から預言。
本当なら大変なことです。
あなたが調和のドラゴンだということを証明できますか?
今のところ空から降ってきた不思議はあるものの。魔法が使えない普通の人間と何も変わりません」
ラカンがあっけらかんと答える。
「知らん。なぜ証明などする必要がある?」
どうしたらいいんだ。この人。
そうだ。
「あの。。。海上のドラゴン、リブレイオスと話してもらうのはどう?」
「今は、おそらくドラゴンと話すことはできないな。
我らドラゴンにとって、人間は、小さすぎるのだ」
どうしようもない。
カリンが期待を込めて聞く。
「じゃあ、調和の魔法は?使えなくても覚えてるでしょ?」
「魔法?人類が魔法と呼んでいるものは、11に分かれた創造の神の力の事じゃ。
むしろ、調和とは、宇宙のバランスを壊さないように抑制するようなものだ。
因果応報や因果律に従うもの。我は、かつて宇宙創世の調和の神だった。
つまり。。。」
「つまり?!」
「人類の野蛮で未熟な脳では、理解することはできん。ましてや扱うなど、とんでもない。
我も人と話すためにどれほど話のレベルを下げていることか」
これもダメか。意味不明。
「ふむ。空から落ちてきたくらいじゃ。普通の人間ではないじゃろう。
いきなりピッケルの名を呼ぶくらいじゃ、女神様が関わっているのはありえるな。。。
わからん。
よし!ピッケル、お前がラカンを連れて行け」
え?!
僕が言う前に、キーラが苦情を言う。
「危険すぎます。戦力にならない人を連れていくのは」
ギロリとラカンがキーラを睨む。
「我を足でまといにするな。たかが人間が」
カリンが噛み付くように言った。
素朴な疑問をラカンに投げてみる。
「じゃあ、聞くけど、ラカンは、魔獣を倒せるの?」
「この身体では、倒せんな。それに我は、殺生を好かん。守ってくれ」
ゾゾ長老が目をつぶってじっと考えてから、目をパッチリ開いて僕の肩にポンと手を乗せる。
「そういうわけじゃ。ピッケル、頼んだぞ。
どちらにせよ精霊に会うことができれば、教えてくれるじゃろ。
のう、エタン?」
エタンもゆっくり頷く。
「そうですね」
おい!父よ!
「ちょっとあなた!ピッケルが危険になったらどうするのよ?!」
パンセナが抗議の声を上げる。
でも、エタンが言うならその方がいいのかもしれない。
ガンダルも同意する。
「俺は、構わないぜ。
ラカンに助けられることもあるかもしれないしな。
よそ者、若者、変人を受け入れると生き残りやすいってのは、俺の経験則だ。
だが、全部揃うのは、珍しいけどな!はっはっは!」
「同意だ」
ヤードルの言葉は、相変わらず短い。
キーラも渋々、承諾する。
「エタンがいうなら従いましょう」
エタンの発言の決定力は、凄まじい。一言だけで、片付けてしまった。
全員エタンの判断力に一目置いているんだ。それはそれで誇らしいことだけど。。。
ミニゴーレムがテーブルの上でワーイワーイと喜んでいる。
「よし!決まりじゃ」
ゾゾ長老がご機嫌そうにポムルスをシャリリとかじる。
そんなこんなで昼になった。
あれよあれよと、旅立ちの準備が整っていく。ラカンが急遽旅団に加わったことで、出発が朝から昼になったくらいだ。
びっくりしたのは、キーラが教えてくれた空間魔法だ。
時空の精霊パルキオに授けられたらしい。
ポシェタという異次元に物を収納する魔法。
きた!ついに!
アイテムボックスのような魔法だ。生きた動物や炎など熱量を出すものは入れられないらしい。
収納量は、魔力の耐久値によって変わる。物を入れた分、魔力の耐久値を常に使うことになる。
入れるものは最小限が良さそうだ。
これで旅の荷物は、劇的に変わった。大きな荷物を背負う必要がなくなった。
異次元では時間も経過しない。
エタンも食料の備蓄に使えると、喜んでいた。
キーラは、矢の対策に使えるシンクーハなど、他にもいくつかの魔法をゾゾ派にもたらした。
気にはしないとは言え、一応ザーシル王の勅令では1人で旅立つことになっているから、盛大な見送りは無しだ。
ひっそりと静かな旅立ち。それでもゾゾ長老をはじめとするゾゾ派の魔法使い達や、総督府のスタッフ、2.30人が見送ってくれた。
エタンとパンセナが筆とノート、白紙の魔法書とインクのセットをくれた。ささやかだけど、両親の気持ちが伝わる贈り物だ。
大切に使おう。
カリンの家族も見送りに来ていた。そこには新しい奥さんとカリンの腹違いの妹にあたる赤ちゃんの姿もあった。
やはり、そこにアシュリはいないけど。
旅団のメンバーは個性派ぞろいだ。
団長はガンダル
副団長ヤードル
キーラ
カリン
僕とミニゴーレム
そして、ラカン。
珍道中になりそうな気配しかない。でも、不思議と不安はない。
このメンバーならきっと臨機応変に対応できる。
まずは東の端の魔獣の森の入り口に向かう。
その先は、人類未踏の森だ。
森に入って生還したものも、森を抜けれたものもいない。
入ることが禁じられた死の森。
炎犬ならなんとか対応できるかもしれない。でも、それ以上の魔獣がいたら?
間違いないことは一つ。
僕は、無事に帰らなくてはいけない。
成長して、生還して、アシュリに会うんだ。そうでなければ、死ぬに死ねない。絶対に、生きて帰る。
覚悟を決めて、僕は旅立つ。




