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ミニゴーレムの戦い

「なんて馬鹿だったんだろう」


 少し欠けた月明かりの下、日課のトレーニングのために外に出てきた。

 今日は、まだファイポくらいしか使っていない。限界まで魔力を出し切るのが修行だ。それから寝れば、魔力量やスピードが少しずつでも増して行く。継続は力だ。春の夜は肌寒いけど、トレーニングで温まる身体に海風が心地いい。

 気分は最悪だ。アシュリに引っ叩かれた頬より、心にダメージが大きい。


 夜空にトンビ3羽が風を受けて飛んでいる。ピーヒョロロと鳴いて気持ちよさそうだ。

 

 何もかもうまくいくきがしていた。ただ、浮かれていただけだった。馬鹿丸出しの自分が恥ずかしい。


 キーラによると、街に入っていたピッケル封印のための部隊も解散しているということだ。

 危険がゼロではないけど、アレイオスの中でビビっていたら、魔獣の森になんか行けない。


 まぁ、ひとまず安心していいだろう。


 繁華街の灯りを見下ろしながら総督府の丘を下って、街外れの海岸にある砂浜まで歩いた。

 久しぶりに一人で行動するのが、楽しい。故郷のタイトス研究所を出たのがつい昨日だなんて、信じられない。いろんなことが本当に目まぐるしく起きた。

 大蜘蛛や飛竜に襲われたり、炎犬を倒したりもした。

 ドラゴンの情報も増えた。タイトスやリブレイオス、死んでしまったカンカラカンまで。

 照明のために炎犬の杖にファイポを灯して、砂浜に刺す。少し火を大きくして、辺りを照らす。

 ゆらめく火を見ると、安心する。


 ポケットから石のミニゴーレムを出す。魂の魔法についてまだわからないことばかりだ。

 水の魔法もまだまだカリンほど使えないし。もう足手まといには、なりたくない。

 少しでも戦力になるようになりたい。

 もっと使いこなさないと。


 ドワラゴンが炎犬の歯や小骨など魔道具に使えない小さな骨をたくさんくれた。

 どう使えばいいのか、時間をかけて慎重に試していこう。無理はいけない。


 気持ちをリセットするために、自重をつかって筋トレをする。

 体調は、悪くない。むしろ、少し身体が軽くなったような気がする。


 あとはランニングをしよう。

 僕がランニングをしたり筋トレをすると、ミニゴーレムも隣りで真似をする。

 砂の身体を鍛えてどうするのかわからないけど、可愛い。

 

 運動してほてった身体に夜風が冷たくて気持ちがいい。ここで寝たら風邪をひくな。そろそろ帰ろう。


 はーっ。なんか充実した1日だったな。ポケットからポムルスの実を出して、ゾゾ長老みたいにシャリっとかじる。


 酸っぱい!でも、これがくせになる。


「ピッケル、こんな夜にトレーニング?」


 え?カリン?!いきなり声をかけられて、びっくりする。

 慌てたせいでポムルスの実を服の上に落として、果汁が服につく。


「カリン?!どうしたの?こんな時間に、こんな場所に。危ないよ」


「なによ?ここが危ないならピッケルも危ないじゃない。平気よ。

 ここは、あたしのお気に入りの場所でもあるの。

 ねぇ、寒いからファイポの火を大きくしてよ」


 ファイポの火を大きくする。


 海を眺めると、今朝より小さく見えるリブレイオスが夜の闇に怪しく光っているのが見える。

 遠く海上のドラゴンを見ながらカリンと並んで砂浜に座る。



 ヤシガニのような大きなカニグモが砂浜をノシノシ歩いている。


「ねぇ、ピッケル、アシュリと何かあった?明日の見送りに来ないってきいたわ。さっき、アシュリの部屋に行って挨拶してきた」


「う、うん。何にもないよ。僕も挨拶すませたよ」


 最悪だ。絶対無事に帰って、次こそちゃんと、アシュリと話がしたい。僕は、まだまだだ。アシュリに認められる人間になるんだ。


「そう。ならよかった。ねぇ、ミニゴーレムをあのカニグモと戦わせてみたら?ミニゴーレムのこともっとよく知りたい」


「え?うん。そうだね。やってみる」


 行け!と念じると、ミニゴーレムがカニグモに立ち向かう。カニグモの大きさは、ミニゴーレムと同じくらいだ。


 ミニゴーレムが自分で作戦を考え始めた。レゴレを使って、ミニゴーレムの人形を4つ作る。あっという間にV字の隊形を作っていく。V字の頂点に石のミニゴーレムだ。

 ガンダルに教わった陣形だから、俺の知識や経験を元にしているんだろう。

 砂の動かないミニゴーレム4体がカニグモの両手の大きなハサミと対峙する。


 驚いたことに、ミニゴーレムは他のゴーレムに乗り移れるみたいだ。

 一度に動けるのは一体だけだけど。5体のミニゴーレムは準備運動するように、順番に少しずつ動きを確かめていく。


 カニグモは、片方ずつハサミを前に突き出す。どうやら両方のハサミを同時に攻撃しないらしい。


「ピッケル、目を閉じて」


「え?」


「いいから早く」


「う、うん。わかった」


 俺の後ろからカリンが両手で俺の眼を塞ぐ。

 カリンの大きな胸が首筋に当たる。だめだ、そんなことを考えちゃ。カリンの手が顔に触れているだけでも、幸せだ。このまま眠ってしまいたい。


「ピッケル、いい匂いがするわね」


 うぅ。なんか恥ずかしい。筋トレしてたから、汗臭いとか言われなくてよかった。ポムルスのおかげかな。


 何も見えないけど、ガチャガチャとミニゴーレムがカニグモと戦っている音がする。


「す、すごい。ピッケルが見ていなくても、自分で考えて動いてる」


 背中からカリンの声がする。カリンもドキドキしているのが分かる。

 カリンの手が熱くて、汗ばんでいく。


「ピッケル、終わったわ。ミニゴーレムの勝ちよ」


 カリンが手をどける。

 ゆっくり目を開くと、ミニゴーレムが勝ち誇ったように黒焦げのカニグモの上でぴょん飛び跳ねている。

 エビやカニが焼けたような香ばしいいい匂いが立ち込めている。

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