魔道具屋ドワラゴン
ドワラゴンの店までの道筋は、まるで迷路のようで一度では絶対に覚えられない。
重々しく、そして、繊細な細工が施された扉からは、店に入るものに一級品を持つ資格や覚悟があるのかを問うようなオーラが立ち込めていた。
見ると手の平より小さく扉に店名が書いている。
魔道具屋ドワラゴン総本店 紹介制
この店、絶対高いものしか置いてないな。一見さんお断りの敷居の高さ。
カランコロン
重厚な扉を開けると、意外にも可愛らしい鈴がなった。
奥からドワーフだと言われたら、まさに!と言ってしまいそうな小柄で筋肉質の長い白髭の男が出てきた。
そして、ガンダルの顔を見ると、露骨に嫌な顔をした。
「おう。ガンダル。今日はなんだ?またゾゾ長老の無理難題か?」
「ガッハッハ!察しがいいな。流石、ドワラゴンだ。まずは、これを見ろ。驚くぞ」
ガンダルが背中の大袋から炎犬の骨2匹分を大きなテーブルの上にゴロゴロと無造作に出した。
ドワラゴンがそれを見て目を輝かせる。
「おお。これはなんてこった。炎犬の骨をこんなにも。ついに人類は、炎犬を狩れるようになったんだな。夢物語だと思っていたが、ゾゾ長老の言う通りになったか」
「俺も炎犬を1匹倒したぜ。あんたの鍛えた斧槍でな」
「それは本当か!?お前が!オイラの斧槍が!うぉぉぉ!!!」
ドワラゴンが感動して泣いている。なんか面白いおっさんだ。でも、気持ちは分かる。炎犬を倒すのは、人類の悲願だったんだ。
「おかげで見ろ、斧槍がボロボロになった。直せるか?」
ドワラゴンが自信満々のドヤ顔で胸を叩く。
「オイラの最高傑作の斧槍だから丈夫にできてる。これくらいなら1日くれたら直せるぞ。5万イエでどうだ」
「直るなら助かる。頼んだ」
ガンダルが銀貨5枚と斧槍をドワラゴンに渡す。
「まいど。この斧槍が炎犬を。頑張ったな。オイラが大切に直してやるぜ。そのうち飛竜だって倒せる日がくるかもな。キッキッキ!」
「飛竜か、そりゃ夢があるな。
それからあんたにゾゾ長老からの注文だ。炎犬の骨を使って、5連射可能な炎犬の杖を100本作れってよ。納期は1ヶ月だとさ」
「おいおい。ゾゾ長老は、オイラを殺す気か?
納期が1ヶ月!?炎犬の骨の加工には、洒落じゃねぇが骨が折れるんだ。硬いのなんのってな。連射式じゃない炎犬の杖1本仕上げるのに1人前の職人1人かかりっきりで1ヶ月かかる。
オイラの工房がアレイオスで1番弟子が多いっていっても、10ある支店合わせても50人の職人しかいないんだぞ。どうしろっていうんだ」
「ゾゾ長老は、炎犬の骨を1000体分集めて、1日5万個パンを作る工場のパン焼き窯を作る計画だ。その時できる炎犬の骨の切れっ端を使えってさ。
それで、5日後、アレイオス中の魔道具職人100人を総督府に集めて、巨大パン窯製造の依頼をかける。あんたにその親方をしてもらいたいってよ。
経験年数、実力と人望からして、あんたしかいないだろ」
「なんちゅうめちゃくちゃな計画だよ。
まぁいい。どうせゾゾ長老の依頼は断れねぇ。激動の時代だ。オイラも波に乗るしかないな」
「そういうことだ。あとは、このピッケルの坊主に、剣を教えることになってな。あんたにちょうどいい剣を見繕いたんだが」
「ガンダル、お前が剣を教えるなんてな。しかも、あの幸運のピッケルか。お前も運の尽きだな、キッキッキ!
まあいい。ピッケル、お前、オイラに手を見せてみろ。僕が剣を選んでやる」
ドワラゴンが僕の手を見たり触ったりして、足腰の具合を見たりしてくる。
「ピッケル、お前、農夫か?こんなに若いのに、手が荒れ放題だ。手の平もタコだらけだな」
「農夫ではないけど、5年くらい毎日畑でクワを使って土を耕してきたんだ。身体作りもかねて。醜いけど、僕は、この手に誇りを持ってる」
ドワラゴンが僕の意志を確かめるように僕の目を覗き込む。
「ふむ。なるほど、いい眼だ。手の皮も分厚くできてるな。足腰も充分だ。ガンダルがお前を認めた理由が分かったよ。ふむふむ。ちょっと待っていろ。面白い物がある」
ドワラゴンが店の奧でガチャガチャと剣を探している。
「おお、これだ。これにしろ。
お前は、精霊と話せるらしいからな。精霊と話せたらこの剣の由来を聞いてみろ。
数千年前の遺跡から発掘された不思議な剣だ。古代の遺物のはずなのに腐食や痛みもなければ、刃こぼれの一つもない。しかも、鋼のハンマーで力一杯思いっきりぶっ叩いてもキズ一つ、歪み一つつかない。柄も見たことがない材質だ。オイラでも素材すら分からん。
王族、貴族の家に飾るのには、勿体無い業物だ。長さが充分なら世界最強の剣だ。
ただ、残念なことに、実戦で使うには大きさが中途半端でな。大人には小振りすぎるし、子供には重たすぎる。そもそも得体が知れんもんをオイラの大事な客には売れん。
おまけに3年前こいつを持ち込んだトレジャーハンターがすぐに死んでしまったいわく付き。呪いとかあったら大変だ。
鞘を仕上げてから、やり場に困って奥にしまっていたんだ」
「いや、僕が呪われたらどうするんだよ!」
「多分、大丈夫だろ。店に置いておいてもなんともなかった。
それに、お前は、もうすでに女神様もお手上げの幸運と試練に呪われている。これ以上呪われることもないだろ。キッキッキ!」
ひどい。あんまりだ。
「アッハハ!うける!ピッケルにぴったりじゃない!」
「ガッハッハ!本当だな!たまたま大きさも重さもちょうどいい。持ってみろ。剣の正体は、精霊に聞いて確かめればいい」
おい。みんな他人事だと思って。でも、こうして笑い飛ばしてくれるのは、ありがたい。
剣を受け取ると、確かにずしりと重い。
一流の職人が丁寧に仕上げたことが伝わる革製の鞘。派手さはないが、品がある。
手入れされた革のいい匂いがする。
見事な鞘から刀剣を引き抜く。鞘は、軽い。持ち手の柄がゴムのような不思議なグリップ感だ。
剣の柄から甘く温かいムスクに似た匂いがする。
刀剣は、鉄ではない何か白銀のような不思議な見た目だ。キズ一つなく、両刃に僕の顔が鏡のように映る。新品と言われても不思議じゃない。
手に持ってみると、まるで自分のために作られたかのようにしっくりくる。
「確かに、すごく持ちやすい。。。魔力は特に感じないし、呪いなんてかかってないのかも。不思議なくらい身体に馴染む剣だ。重さもクワに比べたら楽なもんだよ」
「そうだろ。長年剣を作ってきたオイラの見立てでも、長さと重さ、重心がお前の身体に合っているぞ。身体にぴったりの剣一振りを見つけるのは、案外難しいもんだ。この店には、この剣以上にピッケルに合った剣は、ないな」
「そんなこと言って、不気味な剣を厄介払いしたいだけじゃないの?」
「キッキッキ!それも半分以上ある。だが、嘘は言ってない。どうする?ピッケル、お前が決めろ」
どうする?分からない。でも、これも何かの縁だ。
「わかった。これにするよ。いくらかな?」
「値段を聞かずに決めるとは豪気だな、キッキッキ!気に入った。鞘は別で2500万イエでどうだ。それなりに切れ味がいい剣が刃こぼれがしないってだけでも安いもんだ」
に、2500万イエ?!元の世界でもそんな金額の買い物したことないぞ。どうする?手から汗が噴き出てびしょ濡れだ。
ガンダルが驚いている。
「おいおい。高いな。1人前の人夫が働いて月30万イエだぞ。あんたも容赦ないな。13才の子供に吹っかける金額かよ?!」
「ガンダル、邪魔をするな。
オイラは、ピッケルと話してるんだ。
それにガンダル、もしこれがお前にぴったりの武器ならどうだ?
お前は、必ず買うはずだ。いやむしろ、安いと思うはずだ。
オイラだって、持つ資格のない奴にこの剣を譲ろうとは思わんよ。ピッケルには、自分の宿命と戦う覚悟がある。眼と手を見れば分かる」
「ぐぬぬ。確かにそうだが、しかし、ピッケル、そんなにお金持ってないだろ?エタンかパンセナに相談するにしても。。。」
ここにゾゾ長老がいたら、買えという気がした。高いからと諦めたら、「お前が手にしたい結果は、そんなに安いのか。器の小さい軟弱者め!」と、怒られるに決まっている。決めた。これは、僕に必要な剣だ。
「買った。お金ならある。キキリを売りまくったお金をパンセナが管理してる。請求書を総督府に送っておいて」
「えっ?!あたし、知らないわよ?
でも、確かにキキリ畑20に増やしたって手紙に書いていたものね。
でもピッケル、本当にいいの?!
あたし、クラクラくるわ」
「いいんだ。決めた」
「男前ね。ピッケル、すごいわ。あ、あたし、大金すぎて怖い。こっちまでソワソワして落ち着かない」
「キッキッキ!よし!値切りもしないとは、なんとも気持ちがいい。気に入った!
鞘は、オイラが仕上げた自信作だ。普通なら100万イエはするが、男気に免じてサービスでつけとくよ」
手際よく鞘にベルトをつけると、手早く僕の腰に剣を装備させてくれた。
「ついでにこいつもやるよ。古代の遺物だ」
よほど気に入ってくれたのか、ポケットに入るくらい小さな双眼鏡をくれた。レンズはだいぶ傷ついているけど、全く使えないわけじゃなさそうだ。あれ?このマークどこかでみたような。
みんなが興奮しているからか、店の室温まで上がって、暑い。身体中から変な汗がでる。
剣の柄の甘くて重い匂いがむせかえるくらい強く香る。
頭から湯気がでるような感じだ。思いがけず、大きな買い物をしてしまった。ちょっと立ちくらみがする。
「ピッケル、お前、この3年でずいぶん男らしくなったな。俺まで手に汗握ったぜ。
よし、この剣で修行を始めよう。刃こぼれしない剣か。凄いものを手に入れたな。
いいか、ピッケル一度しか言わないからよく聞けよ。
これはお前の責任だ。人を助け、守るために使うんだ」
ガンダルが怖いくらい真剣な目で僕の眼をまっすぐ見つめる。
僕も負けじと強い目でガンダルを見る。
「必ずそうするよ」
分かったなんて軽々とはまだ言えない。でも、僕の中に確かな覚悟がある。人を助け、守るために使う。僕は、必ずそうする。
「よし。いい眼だ。
ドワラゴン、ピッケルとの練習用にこの長剣をくれ」
「これなら鞘つきで150万イエだな。流石、ガンダル、いい見立てだ。こいつは、中古だが実戦に充分使えるし、ピッケルとの練習用にもぴったりだ。
素材がよくてな。広めの剣身が鏡のように美しい仕上がりだ。
丈夫さも鍛え直したオイラが保証するぜ」
150万イエだって、結構いい値段な気がする。金銭感覚が少しおかしくなりそうだ。
「よし、じゃあ金貨15枚だな。
ん?ピッケル、心配するな。俺だって稼ぎはいい方だ。これくらいの必要経費を惜しんだりしない。2500万イエは、流石に慎重になる金額だけどな。ガッハッハ!」
カランコロン
はー。店の外の空気が冷たくて美味しい。
買ってしまった。衝動買いもいいとこだ。まぁいい。なんとかなるさ。フワフワして、頭がボーっとする。
剣が左腰にあるのが、まだ慣れない。まだ剣の抜き方さえおぼつかない。免許も持っていないのに、高級車を納車したみたいな気分だ。元の世界でクルマを買ったことさえないけど。これから、この剣に相応しい自分になろう。
静かな小道をガンダルが戦術の基本を話しながら歩く。ガンダルの戦術の話は、面白い。冗談を交えながら、戦いの準備や陣形などを教えてくれる。
人気のない細い路地の途中でガンダルが足をピタリと止める。そして、街中でも躊躇せず、さっき買ったばかりの長剣を素早く抜いて防御態勢に入る。
研ぎたての美しい剣身が太陽の光をキランと反射した。
「ピッケル、しゃんとしろ。敵だ。
囲まれてる。ちっ。待ち伏せだ。4、5人か、いやもう少しいるか。気配からして、ピッケルを狙う刺客だな」




