ゾゾファイガス
「今しかない!」
使いかけのファイを使って、空に向かってファイガスを放つ。エタンが無事なら、この合図が見えるはず。
よし、時間稼ぎは充分だ。これ以上対峙したら、やられる。早くゾゾ長老の館に向かおう。
転がるように焼けこげた匂いの漂う丘を下っていく。チラッと後ろを見ると、大蜘蛛はまだ火の海の中から動いていない。いいぞ。一目散に駆ける。
「はぁ、はぁ、はぁ」
元の世界でも、この世界でも、1番走った。草舟のブーツの効果で速度が増してるとは言え、持久力は、自分の身体しかない。
「おーい!早く来い!遅いぞ!間に合って良かった。こっちだ」
ゾゾ長老の館に着くと、たいまつを持ったエタンが大きな声で呼んでいる。
「はぁ、はぁ」
ダメだ、もう走れないし、喋れない。でも、エタンが川べりに向かって遠のいていく。ゴールが遠ざかる持久走だ。
ゴゴゴ!!
大蜘蛛がゾゾ長老の館を破壊して出てきた!
ダダダーーン!!
さっきと同じやつか?また違うやつか?わからない!それに大熊くらいの大きさの蜘蛛が、うじゃうじゃいる。
「わわわわ!!」
死ぬ気で走る。
川べりにみんなを乗せた船が止まっている。4年前ポッコロ様にもらった草舟だ。
エタンが草舟に飛び乗る背中が見える。
あと少し!ランナーズハイだ。身体が勝手に走っていく。
目の前からすごいスピードで火の玉が飛んでくる。詠唱なしどころか無言での魔法、そしてこの速度。これがゾゾ長老のファイガス!
僕を殺す気か!?
ギリギリ僕を外れた火の玉が後ろの蜘蛛をまとめて焼く。僕のファイガスの何倍もの威力。。。
なんとか草舟に飛び乗る。そのまま倒れ込む。
「はぁ、はぁ、はぁ」
酸欠で肺が破けそうだ。喉が焼けるように痛い。
ギョョェェ!!
鼓膜が破れそうな鳴き声が聞こえた。
後ろを振り返ると、いきなり現れた大きな飛竜が大蜘蛛を踏み潰している。
初めてみる魔獣だ。でも、大蜘蛛を圧倒する強さ、やばすぎる。
「飛竜なんて、街を壊滅させるくらいの化け物じゃ!
なんてこったい!」
ゾゾ長老が倒れている僕から3株目のファイを乱暴にもぎ取る。
「新しい時代が始まった。
タイトスが目覚めたのじゃ!今は、逃げるしかない」
ゾゾ長老が無言で草舟の後ろから強烈なファイガスを出す。ウイプナで身体を草舟に固定している。気がつくと、みんなの身体にも、太いツルが巻き付いている。
それにしても、このファイガス、もはや別ものの威力だ。
「わしのファイガスは、ゾゾファイガスと呼ばれておる。ピッケル、お前も鍛錬して、いずれ使いこなせよ?ヒッヒッヒ!」
ゾゾ長老が得意そうに笑う。いつか使えるようになりたい!まだ、無理だけど。
ゾゾファイガスの勢いで、ロケットのような加速で草舟が急加速する。川面を跳ねて走る草舟に、みんな必死でしがみつく。ウイプナのツルが身体に巻き付いているお陰で振り落とされずに済んだ。
ゾゾ長老も草舟に腰を下ろして、落ち着いてきた。
ダヨダヨ川の流れに乗って、ゆっくりと川を下る。
満月の下、山が動いている。
いや、山ではなく、ドラゴン!
タイトスは、山と同じほど巨大な姿を現している。龍というか、特撮映画の怪獣と言った方がいい。
いや、それよりもっと大きいか。腰のあたりに雲がかかっている。
おいおい、あんなのが12体もいるのかよ!
それでも宇宙から見たら、点でしかないということか。ドラゴンとは、そういう地球規模のスケールなんだ。
それは、ドラゴンが対決する隕石の強大さもまた桁違いということを意味する。
タイトスは、悠然とゆっくりと北東に向かって移動しているように見える。どこか目的地があるのだろうか。
タイトスの周りには飛竜が何頭も飛んでいる。
もしかしたら他のドラゴンも目覚めたりしているんだろうか?この星のどこかで。
ドラゴンにとって人類は、目に見えないほどの大きさだろう。人類にとってのダニくらいの大きさ、いや、それ以下かもしれない。
初めて見るこの世界のドラゴンの桁違いの大きさに、僕は唖然とするしかなかった。
対話するなんて次元の大きさじゃない。
でも、何か方法があるはず。きっと。




