ザーシル王の勅令
ゾゾ長老とパンセナが大変なものを持ち帰ってきた。なんと国王の勅令を授かってきたのだ。
大広間の円卓に、エタン、パンセナ、ゾゾ長老、そして僕が集まる。
「この館には、相変わらずキキリのいい匂いが染み付いているな。懐かしい香りじゃ。
よし。エタン、さっそく勅令を読んでくれ」
ゾゾ長老に国王の勅令が書かれた巻物を手渡されて、エタンが緊張しながら、紐を解く。
「いいか、ピッケル。読むぞ。
国王からの勅令なんて、こんなものを拝領する日が来るとはな。
ロム・ピッケルに命ずる。
国王直々の特命任務により、単独で大地の割れ目の調査、および、土の元素精霊アスチと交渉し、人類生存の可能性を得ること。
任務への対価として、アレイオスにおいてロム家の領地と総督としての地位を約束する。
1ヶ月以内に出発すること。
必要な書類については、別紙にまとめる。
プリンパル国王 ザーシル
と、いうことだ」
パンセナが涙を流して抗議する。
「こんなこと!なんて酷い。これでは事実上国外追放ではないですか!
しかも、ロム家を人質にするようなことまで!しかも13歳の子供に単独で?これがプリンパル国王のすることですか!
ピッケル排除派に都合が良すぎるわ!暗殺も計画されているかもしれない!
エタン、なんとかならないの?!」
エタンが重々しく言う。
「王都カラメルに残る友人や同志、ソニレテ団長とピッケル保護派の活動を支援してきた。
王族や貴族はピッケル排除派が多数ではあったが、ゾゾ派の台頭もあり、ピッケル保護派も勢いを増している。まさか、国王ザーシル様直々の命令がこのタイミングで届くとは。
アレイオスの開発について、王都周辺に既得権益をもつ王族や貴族から不満が出ていると言う。
あんな辺境に国費をかけるな!という貴族もいるし、発展するアレイオスの利権を得ようとする貴族もいる。
王族や貴族の中には、報告書にある精霊やドラゴンの話自体に根拠がない、捏造された嘘の話だと否定する者も多い。
アレイオス反対派でピッケル排除派の有力な王族、ククル魔法院の伝統学派でもあるガナシェ伯あたりが、進言したのかもしれん。
ピッケルを調査団と共に大地の裂け目に向かわせるのは、外交上の問題や秘密保持の観点から保留されて、話が進んでいなかったはずだが。。。単独の特命任務なら、外交調整がいらないと言うわけか。。。」
ゾゾ長老が愉快そうに笑う。バシバシと掌で机を叩く。
「かっかっか!愚かなのは国王ザーシルよ。保身ばかり考えている王族の言いなりとは、頼りない。これは腐敗としか言いようがないわい。
じゃが、これはチャンスでもある。
ピッケル、行け。
諸国を歩き、見識を広げ、同志を増やすのじゃ。
お前は、人類の希望じゃ。ゴリアテ国、マルキド国にもゾゾ派の同志がいる。支援もできるじゃろう。
人類を救えるのは、ピッケル、幸運を持つお前しかおらんのじゃ」
僕は、震える身体を我慢して、拳を握り締める。僕にも決断の時が来たんだ。あの日のカリンのように。
僕は、強くならなくてはいけない。未踏の地域の魔獣も制圧して、必要ならドラゴンだって協力させるくらいでないと。
隕石だって、ドラゴンに頼ってみんな死ぬくらいなら、自分たちでどうにかしなくちゃいけない。できるなんて、少しも思えない。でも、可能か不可能かじゃない、やらなきゃいけないんだ。
何かに頼って、振り回されるのは、もう嫌だ。弱い自分が1番嫌だ。だったら最強を目指す。それしかない。
「お父さん、お母さん、いつも本当にありがとう。
この世に生を受けてから、2人からもらったものの大きさに、感謝してもしきれないよ。
ずっと一緒にいたいし、守りたい。
だから、僕は、行くよ。
今のままでは、試練に対抗できない。
僕が生きることが、きっと、みんなを助けることにつながる。
生きるために」
エタンが涙を垂れ流しながら言った。ドスンと机を拳で打つ。
「ピッケル、お前は、私の誇りだ。
なんて重い運命を背負っているんだ。
ピッケルが平和に健康に生きていてくれたら、それだけで幸せだった。普通の人生を与えられたらそれでよかったのに。
だが、女神様がお前を選んだ。
過酷な試練を与えた。
私にできることは、ピッケルを信じることだけだ。
女神様の加護もあるかもしれない。だが、一番に自分を信じろ。私もできることを全てやる。
ピッケルも自分にできることを最大限やるんだ」
「あぁぁ」
パンセナが泣き崩れている。美しい顔がぐしゃぐしゃになっている。
僕からパンセナに歩み寄る。
「母さん」
パンセナが力のないこぶしを作って、僕の胸を弱々しく両手で叩く。
「私は、嫌だ。
なんでピッケルにばかり試練が?
女神様は、どうしてもっとピッケルを助けてくれないの?なぜ苦難ばかり与えるの?平穏な暮らしを許さないの?ピッケルが可哀想よ。
ピッケル。無理して行かなくていい。国王の保護が無くとも、迫害を受けることになっても、私がピッケルの味方よ。
行かないで!私が守ってみせる。だから!ピッケル、お願い!行かないって言って。。。いいなさい。。。あぁ」
僕は泣き喚くパンセナのフルフルと震える肩を抱きしめた。
温かくて、愛情しかなくて、いつでも僕みたいな試練の子に、幸運を願ってくれる。ありがとう、パンセナ。
階段から転げ落ちた日に、必死にキュアをかけてくれたこと、一生忘れない。
どうしてこんなにも試練を背負って生きていかなければならないんだろう。
こんな両親を守りたい。だから、僕は、行かなくてはならないんだ。
ゾゾ長老がパンセナに歩み寄って、背中を撫でる。
それから優しい目でパンセナを見ながら言った。
「困った孫娘じゃ。
じゃが、パンセナの気持ちも痛いほどよくわかる。
わしもかつて、30年前、娘夫婦を船の遭難事故で亡くした。
幼くして両親を失ったパンセナが不憫じゃった。
身内を失う悲しさは、言葉にできるものではない。
しかし、守って守れるものでもない。守るには、冒険し、前に進むしかないのじゃ」
それから厳しさが光る目でキリッと僕を見る。
「ピッケル、お前に渡すものがある。あとで、わしの館にこい。3年留守にしていたわしの館の掃除もしてもらおうかね」
自然にピリッと背筋が伸びる。
「う、うん」
ゾゾ長老の館は、魔女の館と村民から呼ばれる不気味な場所だ。
それに何よりアシュリとの楽しい思い出が詰まっている。でも、今はアシュリはいない。
できれば、いきたくないけど。。。
これは、行くしかない。




